Black owl

ウラジーミルP

第1話 ある訓練生の一日

目覚ましにセットしておいた機械音楽の冷たいメロディが耳を貫き、今日も目を覚ました。

「おはよう」

毛布を畳みながら呟いた。返事は無い。

分かりきっていた事なので気にも止めずに外に出る。着替えには1分とかからない。現在5:32。

階段を降り、宿舎から出て少し歩くと、堅牢なフェンスで囲まれた大きな敷地に着く。小隊長によれば広さは小豆島と同じくらいらしい。どうやって管理しているのか未だに少し疑問。

前方に目をこらすと、大きくてしっかりとした分隊長、鈴木晶の体が見えた。向こうもこちらの気配を察したらしい。

「おお来たか、やけに早いな。」

「もう13日目ですけど。流石に慣れますよ。」

「まあいい、始めよう。」

軽く挨拶を交わし、フェンスの鍵を開ける。すぐ隣には沢山の小銃が置かれた倉庫がある。

「そう言えばお前はどいつがタイプなんだ?」

びくっとした。

「あんだけ撃ってればそろそろ決まるだろ」

「銃の事ですか?」

「その通り」

なんだ、驚き損か。

自動小銃アサルトライフルは48式の6.8mm、拳銃ピストルは南部スペシャルのカスタム、狙撃銃スナイパーはM801ですかね」

「別に国産にこだわらなくても良いぞ」

倉庫から48式を取り出しながら鈴木が言う。

「でも普通にそれが一番使いやすいんです」

嘘では無い。人間工学を突き詰めたデザイン、静かな作動音、そして弾薬の威力を底上げする新型のライフリング技術を使用したバレル、その全てが僕にとっては魅力的だった。

「皆、反動が嫌だとか言って逃げ出すんだがなあ」

「45式も使いやすいですが、やはり僕はこのロマンがいい。」

48式は反動が激しいが、弾薬の威力を1.5倍まで底上げする。その為凄腕の兵士に人気の国産小銃だ。

「いいねぇ、お前のそういうところ好きだ」

歩きながら話すのもほどほどに、標的の前に足を止める。

距離およそ500。それもただの的では無く撃たれたら倒れるようになっており、実際の分隊を模した配置になっている。

「今日のノルマは800発だ。分かったな?」

了解ラジャー

勿論発射する弾数の事では無い。鈴木は当たり前のようにHITした弾数のことを言っている。

最初は驚いたが、もう慣れてしまった。最も、鈴木が入隊した当初はせいぜい1ヶ月に50発程度だったそうだが。

その場に伏せ、48式に弾倉を取り付ける。まだ暗いので弾丸は亜音速弾を使用する。セーフティを[タ]に合わせ照準を合わせる。亜音速弾は音と共に命中精度、威力を落とした銃弾なので、この距離で命中させるのは至難の業だ。

全身を駆け巡ったアドレナリンが体温を上昇させ、手がかじかむ。

僕は、静かに引き金を引いたー


「......チッ」

素早い指切りにより的確に発射された銃弾は、次々に標的を倒していったが、13発発射した内の3発が標的をすり抜け、流弾防止の為のコンクリートに激突した。

やっぱり俺、才能無いのかなぁ。

残り弾数は17発あったが、全ての標的にHITさせるのには3発で事足りた。

だが、こんな物では意味が無い。全弾を確実に標的に命中させられないようでは半小隊規模の相手ですら壊滅させるのに手間取ってしまう。

「浮かねえ顔だ。しっかりしろ」

声をかけてくれた分隊長は、先の戦争の際に帝国の小隊をたった一人で壊滅させ、援護に飛んで来た戦闘ヘリの射手を打ち抜いて前線を救った陰の英雄だ。

「それほどの腕があれば、帝国ではとっくに小隊長でも努めているだろうよ」

慰めているのか皮肉っているのかよく分からない発言だった。

「善処します」

「宜しい、それでこそ皇国軍人だ。少数精鋭を謳う我々にとって個人の力量は決して外せないKeyだからな。」

半分戒めるような顔で鈴木はそう言った。

やっぱりさっきのは皮肉だったのね。

「さてと、訓練を再開するぞ。さっきの射撃でお前の今日のコンディションは大体理解できたから、これから昼までぶっ通しだ。」

「了解」

そう言って、俺はまた銃を構えたー

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