七、

 愚にも附かないがらくたが溢れ、幾つも山をつくっている。じゃりじゃりとこすれる砂、血管のように走るひび割れが、大地を覆っている。

 もとの世界だ。すべてが過去の、終わっているものばかりの、あたしがお母様から逃げ出して手に入れた世界、そこにまたあたしはいるんだ。

 太陽が昇り掛けている。真ッ直ぐに黄色い光が差す。ああ、いま夜がけたんだ。

 あたしのからだが光を浴びる。そしてあたしは、ふと、気く。

 あたし、掌がある。あたし、脚がある。どうして、躰を見ようと鬱向うつむくと、緩く波打つ髪がぱらりと垂れる。なぜ、あたしの、蛇の躰、あたしのほんとうの躰は?

 あたしは自分の躰を見廻す、全身が鮮やかな血いろに染まっている。頭を起こし、見渡す、あたしの周りも、遠く遠く、世界がどこまでも血いろに染まっている。赤い、赤い、果てが見えない、どうして、これは、何、

 笑い声が聞こえる――誰かが笑っている。振り向くと、がらくたの山の上、せむしが朝陽を背負って立っている。逆光で、せむしの姿は真ッ黒く、まるであるじから逃げ出して来た影だけが、そこに立って笑っているように見える。

「ばかめ――おまえは、なぜ、自分が人間の皮を被せて育てられたか、本当に知らなかったのか、素裸のままでは、おまえはあの蛇のそばには居れなかった、おまえは知らなかったのか。この世界に蛇神はただの一匹、それも、終わり無く円還する永遠を体現する姿でしか、その存在を許されておらぬ。ましてやそのうちにほかの蛇を抱いたりしたなら、蛇神の躰は、世界に裡の蛇の抜け殻と見做され、たちまちに腐れて死んでしまう。世界は永遠の象徴である蛇が、きたない抜け殻をまとったままでいることを許さぬのだ、被れるものは、けものの皮だけだのに」

 むしさも可笑おかしそうに、躰をよじり、皮膚を掻きむしって笑う。あたしはもうそれを睨み附ける気力もない、すでに空っぽになって了った頭にただ厭らしい声を吹き込まれるばかり、あたしは呆然と坐り込んで、視線を虚空に向けている。

「おまえは腹の膨れた蛇が、何をはらんでいるのか、なんて考えたこともあるまいな。――あれは、鳥だ。蛇はまず、翼あるものを孕むのだ。おまえもそうだったのだろうよ、しかし、おまえは人間の皮を被るとき、はみ出す翼を切り落として了ったろう。翼をもたぬ児が蛇に抱かれても、その蛇を殺すだけだ、併し、おまえは、それをしたのだよ――何ンにも知らないお嬢ちゃん、とっくに遅かったのさ、おまえはもう翼をもたぬ、おまえはもうどこにも帰れぬ、おまえはもうどこにも居れんのだ。眠るがいいさ、お嬢ちゃん、ずっとずっと、ひとりでな――」

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