第15話 13
「――あー……なんだコレ?」
着地した俺の前に、跪いて頭を垂れるヴァルト。
その左右には、無理矢理頭を押さえつけられて、同じように跪くステフとリックだ。
「……殿下、知らなかったとは言え、無礼の数々。
お許しください」
静かに告げるヴァルトに、俺はステフとリックを見ると。
「わりぃ、バレた」
「そもそもアンタが大っぴらに神器なんか使うからワリぃんだゾ!」
ふたりは悪びれることなくそう言って、ヴァルトの手を払って立ち上がった。
「と、とりあえずヴァルト。立ってくれ。
お忍びがバレる!」
第二騎士団の連中の目もあるからな。
「――し、失礼しました!」
俺の指摘にヴァルトも慌てて立ち上がる。
「しかし、どうして女などに?」
「ああ、そこはまだ聞いてないのか。
説明したいのは山々だが……それより――」
俺は濃紫の立方体に包まれた三騎の<天使>を見据える。
「なんだこれ? 結界とは違うよな?」
小突いてみると、硝子のような感触。
「――停滞場つってな。
この中は時間が停止してるのサ」
俺の問いに、ステフが得意げに応える。
「魔道器なのか?
時間を停止って、そんなすごいものどうしたんだよ?」
時間に干渉する魔道は、現代では遺失してしまっていたはずだ。
「旅の途中で出会った魔女からもらったんだよ。
研究してんだが、さっぱり理屈がわからン」
ステフがわからない以上、俺に理解などできるはずもないから、そういうものだと思う事にする。
こんなのはコラーボ婆で慣れっこだ。
「要するに<天使>ごと襲撃者を捕獲できたって思って良いのか?」
「だナ。ガワは学術塔の連中に調べさせようぜぃ」
黒い顔して微笑むステフに、俺は苦笑するしかない。
「まあ、<天使>の飛行原理は俺も興味があるしな」
<王騎>の翼は一種の裏技のようなもので、<兵騎>には使えないんだ。
なんせアレ、竜の翼を移植してるからな。
ここで<天使>を鹵獲できたのは、地味にデカいぞ。
「――襲撃者の尋問は、僕に任せてください」
ヴァルドが進み出て来てそう告げる。
「ああ、そういえば<護陵>には……」
「ええ、<叡智の蛇>のような結社には慣れています」
手袋を引っ張って、ヴァルドは薄い笑いを浮かべた。
古代の遺物を狙う結社や組織は、なにも<叡智の蛇>だけではない。
それこそ中原中に無数に存在している。
そういった集団から陵墓やそこに納められた遺物を護る為、<護陵>は独自の尋問術を編み出している。
もちろん、それによって得た情報を元に、組織ごと根絶やしにする為だ。
「んじゃ、頼めるか。
……俺は正直、疲れた」
身体強化していたとはいえ、けっこうな距離を走らされたからな。
俺はパーラとメノアに獣騎車の回収に向かうように指示を出し。
「ロイド、第二騎士団に指示して、襲撃者を牢に入れてくれ」
あら方、指示を出し終えて。
「リック、頼みがある」
「あん? なんだよ」
「俺、へとへとなんだ。代官屋敷まで背負っていってくれ」
全力疾走の直後に空中戦からの、神器の喚起だったからな。
もうさ、足がぷるぷるいってんだよ。
「仕方ねえなぁ」
リックは苦笑しながらも、俺を背負ってくれる。
「あ、僕、お風呂の用意を代官様にお願いしてきますね」
ライルはそう告げると、代官屋敷に向かって走って行った。
あいつ、ああいう気遣いができるトコがモテる秘訣なのか?
俺にはマネできそうにないな。
そうして俺はリックに代官屋敷に運ばれて。
用意された大浴場の風呂に浸かると、すぐに眠気がやってきた。
戻ってきたフランが気づくまで、俺は湯船ですっかり寝入ってしまっていたようだ。
俺と入れ替わりでセリスやパーラ達が大浴場に向かい。
俺は客室で、呆れ顔のフランに扇がれながら、よく冷えたコーヒー牛乳を堪能する。
「……どこの御大尽ですかね」
「ホルテッサの王太子様だぞ」
「たまに忘れそうになるけど、そういやそうだったな」
リックが苦笑するが、無視だ。無視。
ふふん。俺は今、気分が良いからな。
たまにはこんな待遇を受けたって、バチは当たらないだろ。
そうしていると、ステフとヴァルトが戻って来た。
「……どうだった?」
俺の問いに、ふたりは首を振って。
沈んだ表情で俺の向かいの席に腰を下ろした。
「まずあたしからナ。
<天使>だけどサ、西部の――ローデリア聖教独自の魔道技術が使われててナ。
調査には時間がかかるミテーだナ」
まあ、そっちは最初から時間がかかるものと考えていたから気にしない。
「第二騎士団経由で、こまめに王都に調査書を送るように伝えておいてくれ。
で、ヴァルトの方は?」
本命はこっちなのだが――
「彼らが<叡智の蛇>の暗躍部隊だという事まではわかったのですが……」
「肝心のミレディについてはわからない、と?」
俺の問いに、ヴァルトは申し訳なさそうにうなずく。
「はい。彼らがミレディに指示されて、僕を監視していた事は突き止められました。
そして、ミレディが<執行者>と呼ばれる特殊な立場である事も」
確かラインドルフは<使徒>を名乗っていたんだったか。
「基本的に<執行者>は<使徒>の指示に従う、実働担当者のようです」
「つまりミレディはラインドルフの部下という事か?」
「そこが<叡智の蛇>という組織の特殊なところですね。
<執行者>と<使徒>は基本的に対等だそうで。
<使徒>の計画への協力者という立場なようです」
そこまで告げて、ヴァルトはフランが淹れたお茶に手を伸ばす。
一口含んで口を湿らすと。
「彼らが言うには、元々ミレディは<使徒>であるラインドルフに従って、この国へやってきたそうなのですが、ラインドルフが捕縛されてからは、独自で動き出しているそうで……」
「……その目的までは、あいつらは知らされていなかった、と?」
「彼らの立場では、基本的に計画の全容詳細を知らされるのは稀なのだそうです」
「かーっ、徹底してやがんな」
俺は髪を掻きむしろうとして、フランに止められた。
ニコリと微笑むフランに、俺は頬を膨らませて見せて。
それからヴァルトに向き直る。
「結局、ミレディの行方はわからずじまいかぁ……」
俺は背もたれにもたれかかって、天井を見上げる。
「――そんな時こそ、わたしを呼べって言ったでしょ?」
と、後ろから覗き込むようにして顔を出したその声の主に。
「――ユ、ユメっ!?」
「あーっ!? 旅の魔女っ!」
ステフも驚きの声をあげている。
「わわっ!?」
俺は驚きのあまり、椅子ごと後ろにひっくり返った。
慌てて飛び退いたユメの肩からミニコラが飛び上がり、フランの肩に舞い降りた。
身を起こした俺に、ユメはブイサインだ。
「さぷら~いず!
お助けユメちゃん、大登場っ!」
「おまっ、どうして――そもそもどうやって……」
「はいはい、ちゃんと説明してあげるから。
……今はそれより大事な事があるでしょ?」
ユメは左手の甲の青い結晶を俺に示して見せる。
そうか。こいつの力なら。
かつてソフィアの行方を探ったように、ミレディの行方もわかるかもしれない。
「――悩んでるヒーローを助ける!
今は女の子になっちゃってるのは、この際置いといて!
これでオレアくんの好感度はうなぎ登りだよねっ!」
自信満々に告げるユメに、俺はうなずくしかなかった。
……なんか釈然としないけどな!
★あとがき――――――――――――――――――――――――――――――――★
ここまでで15話が終了となります。
次回は閑話を挟んで、三部ラストの16話へと続きます。
16話はいよいよ、四天王最後のひとりが登場。
そしてミレディとの決着の予定!
おもしろい、もっとやれと思って頂けましたら、ブクマや評価をぜひぜひお願い致します~
また、ドラゴンノベルスコン用に、新作を二作ほど始めています。
もしよろしければ、作者ページから飛んで頂ければと(ダイマ)。
どちらも本作と同じ中原世界を舞台にしており、共通の設定にて展開しております。
単体でも楽しめますが、ここまで転生暴君をお読み頂けた方には、にやりとして頂ける部分を散りばめていたり^^;
よろしければ、そちらの応援もよろしくお願いいたします~
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