第14話 7
いくつかの謎掛けが仕掛けられた部屋を経て。
俺達は城の尖塔へと続くらしい扉の前まで来ていた。
それにしてもおかしいのは、ステフだ。
最初のホールにあったのと同じような碑文を、ステフは見た途端に翻訳して解いちまう。
ソフィアも頭が良いけど、あいつの場合は政治に偏ってる感じだ。
元々地頭は良いんだろうけど、自ら学んでそうなってる感じがする。
けど、ステフの場合は――根本的に頭の造りが違うんだろうな。なぞなぞみたいな設問でさえ、ものの数秒で解いてしまうんだ。
「――天才サマを讃えョ!」
なんて冗談めかして言うけど、こいつは本当に天才なんだろう。
思考の処理速度や展開法則が、人と違うような気がする。
コラーボ婆やユメと会わせたら、トンデモないモン生み出すんじゃねえかな。
一度、機会を作ってみるべきか。
そんな事を考えながら、俺は扉を開ける。
手には、ここまに至るまでに入手した杖だ。
リックも同じ物を持っている。
俺の想像が正しければ、ここは体験型アトラクションだ。
男が騎士となり、姫となる女性を守りながら、悪役を退治するのだろう。
カップル向けのアトラクションってわけだな。
そのキーアイテムが、この杖というわけだ。
「――特定の生物に――恐らくはキメラなんだろうが――作用する効果が付与されてるようダ。
コレ、持って帰るから、壊すんじゃネーゾ?」
と、ステフは俺とリックに厳命していた。
長い螺旋階段を昇り切ると。
玉座が設けられた、謁見の間のような造りの部屋にたどり着く。
「……なあ、これって……」
リックが呆けたように呟く。
「まあ、考えてみればそうなるよな……」
俺もまた、呆然として応えるしかなかった。
玉座に座ったまま朽ちた亡骸。
「ここに配置固定されてたから、繁殖どころか食事もできずに死んだんだろうナ……」
ステフが興味深そうに、その亡骸を観察しながら応える。
それから玉座の横の碑文に目を通し。
「ナントカの杖で魔王――コレ、魔王だってョ!
衰弱死するとか随分間抜けな魔王ダナ!
そいつを叩けば封印できるんだと」
恐らくは当時の魔王と、現代の魔王では概念が違うのだろう。
きっと当時は悪者って意味で魔王という言葉が使われていたんだろう。
現代の魔王ってのは、魔道に優れた者に与えられる称号だ。
中原には、サヨ陛下の他にも数名ほどだが、魔道士個人で魔王の称号を受けている方がいらっしゃる。
まあ、一般的にはホツマの皇って意味で使われる称号なんだけどな。
「とりあえず、書かれてる通りに叩いて見ろョ」
ステフに促されて、俺とリックは亡骸の頭に杖を当ててみる。
途端。
『――おめでとうございます!
無事魔王は封印され、あなた達は王国を救う事ができました!
最後に姫にティアラを捧げましょう!』
どこからともなくそんな声が響いて。
玉座の前に宝箱――本当にそう表現するしかない造りの箱が出現した。
「――物質転移ダナ。
魔道士ナシで喚起させるなんて、魔道帝国はホントにすげえナ!」
魔芒陣も刻印も見当たらなかったから、俺達の知ってる魔道とは原理からして違うのかもしれない。
「んで、お宝は――」
リックが警戒なく宝箱を開く。
罠なんかは特になくて、俺もリックの肩越しに覗き込むと、アナウンスにもあったように、キラキラとした銀のティアラが、一枚の用紙と共に収まっていた。
ステフが用紙を取り出し。
「ナニナニ?
――お姫様のティアラ。
これであなたもお姫様に――だとサ。
ナンか魔道刻印――いや、鬼道技術が施されてるみたいダけど、調べてみネーとわかんねえナ」
ステフの頭脳をもってしても、わからない作用があるようだ。
そんなティアラを。
「とりあえず、オレア、おまえも王子サマなんだから、こういうの着けてみたらどうだ?」
リックは何でも無いことのように、俺の頭に載せやがった。
「やめろよ。
お姫様つってるだろ?
男に着けるもんじゃねえんだよ」
言いながら、俺はティアラを外そうとして。
瞬間、やたらでかい音が辺りに響き渡った。
『――現在、構成データを収集中です。ティアラを外さないでください』
ティアラからそんな声が響いて、俺は慌てて手を止める。
「外すなってよ」
リックがニヤニヤ笑いながら言いやがる。
「マジな話、ナニが起こるかわかんネーから、外さずにおいた方がイイゾ。
もうひとつあるから、調べてみっからョ」
と、ステフはもうひとつの宝箱から、同じ造りのティアラを取り出し、そんな事を言う。
おまえも面白がってるのわかるからな。
ニヤニヤしてんじゃねえよ。
「で、でも、お似合いですよ~」
慰めてるつもりなのか、メノアがそんな事を言ってくる。
でも、おまえも顔が笑ってるからな。
そんなニヤニヤ顔から逃れるように、俺は窓に歩み寄って下を見下ろす。
ここからはゲート周りも一望できた。
「――キメラの集団は居なくなってるみたいだな。
今なら脱出も容易そうだぞ」
遊園地ってのはわかったが、ここは一度、騎士団を使って安全確保した上で学者に調査させるべきだな。
娯楽施設ってのは、結構、軍事技術から転用された技術が用いられてる事が多いんだ。
なにせ客を呼ばなきゃいけないからな。
最先端技術を売りにするのは、典型と言えるだろう。
これでウチの魔道技術が発展するなら、バンザイだ。
「ええ!? もう帰るンかい!?
調べ足りネーョ!」
ステフがゴネ始めるが。
「今度、ちゃんとした調査隊編成した時に同行させてやるから、今は我慢しろ。
どのみちおまえだって、器材がなくちゃ調べられなかったりするだろ?」
俺は村に戻ったら、他の開拓集落も見て回らなきゃいけないんだよ。
「ゼッタイだかんナ!
それにしても、入手できたのは杖とティアラだけかィ。
リッくんの勘、鈍ったんジャネ?」
「ん~、おかしいなぁ。
ココが一番、怪しいと思ったんだがなぁ?」
「ま、そういう事もあるだろ。
空振りじゃなかったんだから、満足しとけ。
――さあ、帰るぞ」
そうして俺は、一同を促して帰路に着く。
ゲート前には多少のキメラが残っていたものの、群れというほどではなく、難なく切り抜けられた。
開拓村に戻ったのは昼過ぎという頃で、俺はロイター子爵夫人に昼食を振る舞われ、午後からはロイドと合流して、開拓集落を見て回った。
まだここに馴染みきっていない元貴族からは、多少の不満を聞かされたものの。
おおむね開拓民達は不満なく生活できているようだった。
その日の夜は周辺の集落からも人が集められ、歓迎の宴が開かれたのだが、日中の疲れが出たのか、俺は早めに退席させてもらって床についた。
そして翌日。
目が覚めて、妙に頭が重い。
頭痛がするとか、そういうのではなく、物理的に頭が重い感じがして――
「あん? なんだこれ?」
ベッドに広がった黒いそれが、自分の髪だと気づいて、俺は驚きの声をあげる。
下を見て気づいたのだが、胸が膨らんでいて……
「――オレアちん、ティアラの効果がわかったゾ!
これは――あははははははっ!!」
と、部屋に飛び込んできたステフが俺を指差して笑い転げた。
「やっべ、おもしれー!
――みんなに教えてこョ!」
「あ、おい! ステフ!」
来た時と同じ勢いで飛び出していくステフに呼びかけたが、あいつは止まってはくれなかった。
俺は頭、胸、そして最後に恐る恐る股に手を這わせ――
「……お姫様にって、こういう事かよッ!?」
……鬼道恐るべし。
どういうわけか、俺は女の身体になってしまっていた。
……どうすんだ、コレ!?
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