第14話 6

 途中、徘徊していたキメラをぶっ飛ばして、あたし達は城へと進む。


 リッくんが強ぇのは学生時代からだったけど、オレアちんも強くなってンのな。


 キメラなんて、冒険者なら数人がかりで退治するようなモンなんだ。


 それがアイツら、ひとりで一体相手デキてンだもんなぁ。


 それにしても、だ。


 遺跡や遺跡周辺で野生化したキメラが見つかるコトは結構あンだが……


「……ここの数は異常だねぃ」


 当初はなにか役目を与えられて生み出されたンじゃねえかって、言われてるンだけど、キメラの生態はその数の少なさからほとんどわかっちゃいねェンだよナ。


 どっかに生産工房でもあるンだろうか?


 アレだけの数の食料をどうまかなっている?


 見た目や鳴き声の差異には意味があるのか?


 いやあ、いろいろ調べたい事がたくさんダナ。


 今はムリだろーけど、いずれは調査団編成してもらって大規模に調べてぇよナぁ。


 オレアちんの話じゃ、王都には統合学の大家のゴルダ先生も来てるっていうし、意見聞きてぇナぁ。


 そんなコト考えながら、やたら綺麗に舗装された道を駆け抜けて、あたしらは城へと辿り着いた。


 城は門を抜けるとすぐにホールになっていて、現代の城とは少し違う造りになってるようだナ。


 正面には赤絨毯が敷かれた階段があって、途中にある踊り場で左右に別れているンだけど、結局は上層の回廊で繋がってるようだった。


「城っていうより、中は館みたいなんだな……」


 リッくんが辺りを見回して、そう呟いた。


 あたしも同じ印象を受けた。


 ガワは城みたいだけど、中は城要素を詰め込んだ館みたいな感じダナ。


 リッくんが緊張してないって事は、ここは危機がないみたいダ。


 少し休憩しようというコトになって、途端、メノアがへたり込む。


 コイツ、騎士目指してるってワリに体力ねえナ。


 学者のあたしですら、まだ平気だってのに。


「――しかし、城ってーと思い出すよナ!

 オレアちんで遊ぼうと思って、みんなで城行った時!」


「――俺で、って……」


 オレアちんが苦笑し、リッくんも笑う。


「侯爵嫡男のヴァルトが居るのに、衛士は顔知らないから通せないとか言い出してな!」


「いや、城ってそういうモンだからな?

 おまえらみたいに、『あ~そ~ぼ~』なんて感覚で来ねえから!」


「結局、ザクソンとリッくんで強引に突破して……」


「俺、あの後、めっちゃディオス叔父上に怒られたんだからな!?

 友人は選べって、ソフィアと一緒にめっちゃ怒られた!」


 オレアちんはあたしらを指差しながら怒鳴る。


「けど、それでもお咎めなしにしてくれるオレアちん、あたしゃ大好きだぜぃ?」


「俺も俺も!」


「学生に王城に侵入されたなんて恥だから、うやむやにしただけだ!」


 恥ずかしそうにそう言うけどサ、あたしらもバカじゃねえんだ。


 その「うやむやにする」のが、どれほど手間がかかるかくらいわかってンだョ。


 ニヤニヤ笑うあたしとリッくんに、オレアちんはふてくされたような表情を見せて。


「……メノア、おまえ達は、ああはなるなよ。

 あれが能力があれば、ナニやっても許されるって考えるバカの顔だ」


 いまだに座り込んでるメノアに語りかける。


「おおぅ、言うようになったじゃネェか!

 あたしがバカなら、この世のほとんどがムシケラ以下だぜぃ?」


「あ、あはは~」


 メノアは顔を引きつらせて笑う。


「わたしが先輩達みたくなんて無理ですよ~。

 今もついてくるのがやっとです。

 それにしても先輩達、お強いですねぇ。

 殿下がお強いのは知ってましたけど、ステフ先輩が戦えるのには驚きました」


「ああ、あたし、オルター領の冒険者ギルドで、上級丙種認定されてっからナ」


「おっ、懐かしいな!

 <深階>教練のやつな!」


 リッくんも当時を思い出してるのか、腕組みしながらうなずく。


「え? 教練って中層がゴールなんじゃ……」


「メノア、あのバカがもっと先行ってみようって言い出して、俺達下層まで突き進むハメになったんだよ……」


 オレアちんはリッくんを指差して顔をしかめる。


「そういえば殿下も上級丙種……」


「当時の生徒会メンバーはみんなそうなんだよ……」


 アレは楽しかったねぃ。


 漆壁系の遺跡をいろいろ調査デキてサ。


 あたしの魔道器改良にも役立ったモンな。


「――さて、メノアも回復してきた事だし、そろそろ……」


 あたしは周囲を見回す。


 あたしらがいる門扉の正面には階段があって、その前に腰くらいの高さの柱があって、なにか文字が刻まれている。


 さっきから気になってたんだよねぃ。


 あたしは柱に駆け寄って、文字に目を通す。


 ホツマの旧字に似た文字に……文体はツガル語に似てるのかねぇ?


 一部、わからない単語もあるケド……


「男女一組で……試練、カナ? 乗り越え……ナントカの杖でナントカを封じ……姫のナントカを取り戻せ? カナ?」


 あたしが訳して読み上げると、オレアちんは腕組みして首をひねる。


「……そういう設定、か」


「よくわからねえけど、俺達、男女二組だからちょうど良いな!」


 リッくんはいつも単純だ。


「その取り戻せっていうのが、宝物なんでしょうか~」


「まっ! 進めばわかるダロ! 幸い、ここにゃキメラもいねーみてぇだし、進んでみっか」


 こういう謎掛けみたいなのがある遺跡は珍しい。


 他国の遺跡で、いくつか発見された事があるようだけど、あたしは実際に見るのは始めてだ。


 ナニがあんだろうねぃ。


 リッくんを先頭に、あたし達は階段を昇り始める。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る