閑話
閑話
アリーシャ様とリリーシャ様が、遠視の魔道器による親子の再会を果たした後。
「――フラン、みなさんを呼んできてちょうだい」
わたしはソフィアお嬢様の指示に従って、控室でお待ち頂いていた淑女同盟――いまだにわたしは、この名称をどうかと思っているのだけれど――の皆様を、お嬢様の執務室に招いた。
「――アリーシャ、おめでとう!」
「――本当に、本当に良かったわね」
アリーシャ様の事情を深く知っている、エリス様とシンシア様が部屋に入るなりアリーシャ様に抱きつく。
「ふ、ふたり共、どうしてここに?」
戸惑うアリーシャ様。
室内にいる面々を見回し、リリーシャ様と共に不思議そうな表情をしている。
わたしはみなさんのお茶の用意をはじめて。
「――それはね、ふたりもこのサロンの仲間だからよ」
ソフィアお嬢様が微笑みを浮かべて応える。
お嬢様。サロンのつもりだったんだ……
まあ、秘密結社とか言い出すよりは良いのか?
なにせお嬢様にはその点について前科がある。
わたしがテーブルにティーセットを並べ、みなさんが思い思いの位置に腰をおろす。
アリーシャ様の左右をエリス様とシンシア様が占拠してしまったので、リリーシャ様はジュリア様のお隣だ。
「――あら、あなたは先日、殿下と一緒に駆けつけてくれた騎士様?」
普段はユリアンとして騎士服を着ているジュリア様だけれど、この集まりの際には女性服を努めて着ているから、すぐにはわからなかったろうだろう。
リリーシャ様がジュリア様にそう尋ねた。
「は、はい。その節はちゃんとご挨拶もできず、申し訳ありませんでした」
相手がミルドニアの皇女という事もあって、ジュリア様は若干、緊張気味に答えた。
「――それでは淑女同盟の会合をはじめましょうか」
ソフィアお嬢様が仰って、従来のメンバーはにんまりうなずき、アリーシャ様とリリーシャ様のおふたりは不思議そうに首を傾げる。
「――淑女同盟?」
双子らしく言葉を重ねて、おふたりは尋ねられた。
「――そうですわ!」
と、拳を握ってシンシア様が立ち上がり、この集まりがなんなのかを説明し始める。
わたしはいまだにお嬢様方の悪ふざけであって欲しいと願って止まないのだけれど。
どうやら彼女達は本気であるらしい。
「……つまりは身分の別なく、互いに支え、高め合い、あのお方の為に尽くすサロンだと?」
ほらぁ、リリーシャ様引いてるじゃないですか。
さすがに国背負ってる皇女様を引き込むのは無理筋ですって、ソフィアお嬢様。
「ええ。わたしはあなたにも、その資格があると察したのですが?」
わたしも一緒に聞いていたからわかる。
――漆黒の狼剣士に助けられた姫は――云々。
あの日、リリーシャ様が口にした言葉だ。
あのへたれには伝わらなかったようだったけれど、あたしとソフィアお嬢様は、彼女がへたれに好意を持っているのだと、あの瞬間、はっきりと理解した。
だから、お嬢様もお誘いしたのだろう。
「しかし、わたくしはミルドニアの第二皇女。
天秤の先に祖国の益が乗った時には……」
「――その時は殿下の思うがままに。
あくまでこのサロンは乙女の集い。
なにかを強制するものではなく、ただ思うがままになしたい事を成す集まりなのですよ」
「――よくわからないんだけどさ、オレア殿下の為に頑張りましょうって集まりって理解で合ってる?
もしそうなら、あたしは仲間ができたみたいで嬉しいんだけど……」
アリーシャ様がそう仰って。
リリーシャ様は毒気を抜かれたように肩を竦めた。
「……そうですわね。乙女の集いに政治を持ち込むのは無粋ですわね」
ええっ!?
それで納得しちゃうの?
なんだかんだでリリーシャ殿下、あのへたれに完全にオチてんじゃないですかっ!?
そ、そりゃあね。
あのへたれも、最近は多少――ほんの少しだけ、男らしいとこも出てきたとは思わないでもない。
でも、相変わらず女に対して一線引いてるのが気にかかる。
今日も<地獄の番犬>隊の連中と訓練してるはずだけれど、年頃の男が女の尻追いかけるより男と群れてる方が楽しげってのもどうなんだ?
そんなわたしの内心をよそに、乙女の集いは彩りを鮮やかにしていく。
前にジュリア様が、もっと増えるとか予想していたけど……
まさか、本当になるなんてね。
本当にわたしには理解できない世界だ。
へたれめ。
おまえ、こんなモテてんのになんで誰にも手をださねーんだよ。
まさか、侍女達の間で噂されてるように、本当に男色なんじゃないだろうな?
いや……
ここに集まってる少女達を見て、わたしは思う。
結局のところ、彼女達も臆病で。
表立ってはっきりとへたれに想いを口にしないのが悪いのかもしれない。
そういう意味では、リリーシャ皇女やアリーシャの参入は契機か。
ここからどうなる事か。
わたしとしては、ソフィアお嬢様を選んで欲しいのだけれどね。
今もどうやってあのへたれを支えるのかを検討している少女達を見ながら。
フォローの手立てを考えつつ、わたしはこっそりと肩を竦めるのだった。
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