第19話 あまねと美咲の恋心
卑屈で根性の曲がった三階堂あまねと優等生でまじめな山本美咲。
二人は現代の中国とアメリカのような仲の悪い関係だった。
そんな二人がついにぶつかった。
教室の外は春の嵐が吹きすさぶいていた。
あまねと司が仲良さげに談笑しながら、教室の窓を拭いていた。いつも不満げな表情のあまねにしては笑顔多めだった。
美咲は教室の後ろを優雅にほうきを使って掃除していた。
「ちょっと、チリトリ持ってきて!」美咲は窓を拭いていた司に言った。
司が掃除道具入れから妙に落ち着いた動きでチリトリを持ってきた。
「ありがとう」
美咲は少しだけ微笑んで言った。
「どういたしまして」
司も薄い唇を少しゆがませた。美咲にはその司の表情が少しだけ照れているように見えた。二人は見つめ合った。
美咲が集めた埃を司が腰をかがめチリトリを持っていたときだった。窓を拭いていたあまねが急に爆発するような勢いで叫んだ。
「アァァー!」
美咲はびくっとして驚いた。いったい何なんだ。司はあまり驚いていなかった。司はびっくりして驚いたりするタイプではない。
「おまえら、なにイチャイチャしとんねん、ゴラァ!」
あまねが目を剥いて指をポキポキさせながら美咲の方へ向かってきた。
美咲はじっと立っていた。
「あたしは中野司と窓拭いとった。なんやあんた、中野司にチリトリ頼んだのはあたしと中野司の関係を断ち切るというあんたの策略か?」
美咲はあまねがいったいなにを言っているのかわからなかった。
「どういうこと?」
美咲はあまねに尋ねた。
「なにがどういうことや、あんたあたしと中野司が仲良くしてるの邪魔したんやっ!余計なことすんなっ」
あまねは目の前に司がいるというのに己の美咲への嫉妬をぶちまけた。
「三階堂さん、中野くんのこと好きなん?」
美咲は意地悪した。美咲はあまねが司のことが好きなのを知っていてそう聞いたのだ。
「好きや、めちゃくちゃ好きや」
あまねは真っ赤な顔をして言った。恥ずかしくてたまらないといった顔をしている。
「あんたはどうなんや?あんたは中野司のことは好きなんか?」
美咲はあまねの堂々たる態度に尊敬を覚えたと同時に動揺した。自分は司のことをどう思っているのか。司に対しては否定的な感情は当然だがない。むしろ好意的に思っている。いや、美咲は司に恋している。でも、ここで司のことが好きとか絶対に言えない。美咲は口を手で覆った。
わからない。美咲は自分の司への想いがわからなくなった。
「な、なんとも思ってない…」
美咲はあまねと司から距離をとるように離れ教室から廊下へ出た。
美咲は自分の恋心に嘘をついたのだ。
美咲はあまねの気迫に負けたのだ。
司が教室から出ていく美咲をやや悲しげな表情をして見ているのに美咲は気づかなかった。
勇気の笑顔 久石あまね @amane11
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