第10話
鄭成功は早速鄭経を連れてきた。
おおまかな話は聞いているのであろう、陳永華を前にしても特に動じるところはなく、「これからよろしくお願いします」と頭を下げている。
「こちらこそよろしくお願い致します。若君」
陳永華も頭を下げた。
顔合わせが済むと早速、琉球への挨拶状の作成と使節団の選定となる。
「琉球と友好関係を築き上げたいというのはもちろんでございますが、そこに鄭芝龍のことも入れたいということがございます。このことを琉球王国に理解してもらえるように話をしていただきたいのですが」
言いながら、随分と無理難題を押し付けているものだと正雪は内心苦笑したくなる。
「……承知いたしました。鄭芝龍殿を琉球が引き受けることを得であると思わせればよいのですな」
「左様でございます」
「何とか努力いたしましょう」
鄭成功が書状などを用意して続ける。
「表向きの理由としては、永暦帝の要請として明と琉球の関係継続の話から入ってもらいたい。それらの書状は用意してある」
「つまり、永暦帝、国姓爺様と来て、琉球へとつながるというわけですね」
「そうなる」
「それなら、かなり話を進められるのではないかと思います」
「そうであると有難い。それでは由井先生、こちらはお願いいたします」
鄭成功はそう言って、部屋を後にした。
「国姓爺も琉球のことを考えたり、南京攻撃のことを考えたりと忙しいことです」
正雪が陳永華と鄭経の二人に説明を続けた。
北京・紫禁城にも南京の情勢が怪しくなってきているという情報が伝わってきた。
「鄭芝龍が浙江で迎え撃つ構えでおりますが、士気も低くなっているということで厳しいという見方が伝わってきております」
伝令の報告を受け、皇帝フリンは溜息をついた。
「鄭芝龍が負ければ、いよいよ南京が攻撃を受けるな」
「はい」
「洪承疇はどうしておる?」
「成都について貴州・湖南攻撃の準備をしているということです」
「仮にこれを撃破したとしても、永暦帝も李定国も広州の方に逃げるであろう。あのあたりは海である。太刀打ちができない。その間に南京が取られるようなことがあれば……」
フリンは宗室筆頭のジルガランを見た。元々何かしらの意見を述べるような聡明なところはなかったが、このところ体調も悪いのかぼんやりしていることが多い。今もそうであった。
(これでは頼りにならぬか……)
フリンは曹振彦に状況を尋ねた。さすがにドルゴンの腹心だけだっただけあり、こちらは立て板に水を流すような流暢さである。
「南京にはハハムがありまして、現在、
郎廷佐は漢人であるが、若年ということもあり明に仕えた経験はほとんどない。ホーゲの四川遠征に付き従って功績をあげたこともあり、まだ40過ぎという若さでありながら江南江西総督の地位を受けていた。
「鄭芝龍と連携をして、何とか海か河で止められぬだろうか?」
「それは難しいでしょう。郎廷佐は清のたたき上げですが、鄭芝龍は海賊出身です。二人の戦い方が違いすぎます。共同させてもお互いに邪魔しあう可能性がありますし、不信感を抱く可能性がありそうです」
「そうか……」
鄭芝龍に奔放なところがあるということは、何度か話をしていたフリンが一番よく分かっている。真面目な兵士であれば、あの態度は耐えられないであろう。しかも、皇帝である自分と格下の兵士相手なら、更に態度が悪くなる可能性が高い。
「鄭芝龍が陛下のお気に入りであることは理解しておりますが、あまりにも違いすぎます。鄭芝龍は敗戦するでしょうが、その情報を郎廷佐が活かすように願うしかありません」
「分かった。洪承疇にも至急伝えよ。李定国の相手も大切ながら、今は鄭成功の方を優先すべきと、な」
「はい。既に伝えておりますが、陛下の意思という面も強調してお伝えいたしましょう」
「よろしく頼む。朕がもう三年年長なら、自ら指揮をとりたいのだが……」
陸戦であればともかく、水戦の知識はない。若い自分が行けばそれこそ全体が混乱するだけであろう。フリンは唇を強くかみしめた。
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