第5話
鄭成功の宿舎から戻ってきた正雪は、加藤明成と生駒高俊、柳生十兵衛に話をした。
もちろん、三人に限らず、日本から来ている浪人達は戦うために来たのであるし、現在、暇を持て余しているという様子である。
「三千に絞るとなると、残る二千が文句を言うかもしれんのう」
加藤明成が危惧した通り、実際に希望を募るとほぼ全員が参戦したいという話になった。
「…仕方ない。某の門弟は優先的に外すことにします」
話をまとめてきている正雪が折れて、張孔堂の門弟を優先的に外し、三千人を組織した。
こうなると、正雪本人も動きにくくなるが。
「さすがにそなたがおらぬと問題になるだろう」
「ただ、庄左衛門が不満を抱いてもいるようですし…」
実際、戸次庄左衛門が文句を言っているという話を正雪も耳にしていた。
江戸では、正雪か庄左衛門かという評判を取っていたこともあり、庄左衛門としては「正雪何するものぞ」という思いはある。ところが、実際にここに来て以降、正雪が完全に主導権を握っており、庄左衛門は面白くない。
老中松平信綱は、加藤明成と生駒高俊といった元大名が正雪を推せば、庄左衛門も文句は言わないだろうと踏んでいたが、悪いことに生駒高俊は庄左衛門と仲良くなってしまい、よく酒を共にしている。
「一度は機会をやってもいいのではないか」
生駒高俊がこう言うようになってしまい、更に面倒なことになってしまっていた。
「国姓爺の話では、今回の相手は地方官僚ということでたいしたことはないようです。庄左衛門でも何とかなるでしょう」
「…分かった。ひとまずそうするか」
結局、今回は生駒高俊を大将とし、庄左衛門が作戦を立てることになった。
正雪は明成とともに南澳に残るが、様子を確認するために丸橋忠弥のみ参戦するという形で落ち着いた。
永暦四年六月。
鄭軍と浪人軍は南澳を出発した。鄭軍を指揮するのは施琅であり、日本軍は戸次庄左衛門である。両軍には通訳が出来る者が五人ほどついており、互いに連絡をとりあっての進軍となる。
「申し上げます」
川の遡上もはじめないうちに、潮州からの伝令が戻ってきた。
「郝尚久は潮州に立て籠り、我々を迎え撃つつもりのようです」
「立て籠る…」
施琅が顔をしかめた。
最初から立て籠るということは、郝尚久は清軍に降っている可能性が高い。援軍が期待できないのに、籠城をするということは考えにくいからだ。
海賊主体の鄭軍は、陸での攻城がそれほど得意ではない。相手がはなからの籠城戦を目論んでいるのは、朗報とは言えない。
「さて、どうしたものか。おっと、日本軍の者にも伝えておかないとな」
施琅は情報を浪人軍の者に伝えることを指示した。
施琅の情報を受け取り、日本軍も進みながら軍議を開く。
「ならば早い事、城を攻め落としてしまわねばならぬな」
庄左衛門が強い口調で言う。
「それほど簡単に行きますかな」
丸橋忠弥が首を傾げた。庄左衛門は少し腹を立てたようで。
「何を恐れるのか? 我々は戦いに飢えている。戦意は天をも衝かんばかりの状態だ。このまま正面から打ちのめし、鄭軍に日ノ本の強さを示すべきである」
忠弥は「これはだめだ」と頭を抱えて、十兵衛を見た。正雪はいないし、忠弥自身には作戦を立案するまでの能力はない。自然、十兵衛が頼りということになる。
「郝尚久が清の支援を期待しているというのであれば、増援の清軍を撃破するのがよいのではないか?」
「清軍を?」
忠弥が驚きの声をあげた。ある意味、庄左衛門の策よりも大胆である。
「清軍は我々のことを知らないであろう。しかも、鄭軍は清軍とは戦いたくないと考えている。これを清軍も知っているのなら、彼らは自分達が戦うことになるとは思っていないはずだ。数にしても我らは一万。となると、清軍もそれ相応の数しか派遣してこないはず。三千の我らでも十分に勝機はある」
「…なるほど」
「攻城については多くの連携が必要になる。その場合、言葉が通じない我々がいると、お互いのためにならないであろう。いかがか?」
十兵衛が庄左衛門を見た。十兵衛の立場についてはもちろん庄左衛門も知っている。否と言い返すためには、余程説得力のある策を披露しなければならない。
「柳生様の言う通りだと思います」
「そうすると、施琅殿に清軍がどこから来るかを聞かなければならぬ。その途中に待ち伏せをするとしよう」
浪人軍の陣営から、通訳が伝令へと走らされた。
「何!? 援軍で来ている清軍から叩く?」
十兵衛の意向を聞いた施琅は仰天した。
「だが、確かに清軍は我々が逃げるものと思っているはずだから、理にはかなっている…。おい、
施琅は陸の奥側まで詳しい者を求めた。名乗り出た者に。
「清が来るとすれば北から
そう指示を出し、北を見る。
「もし、日本の者達が清軍を追い返すことができれば、とんでもないことになる」
そうなってほしい、施琅は心の底から思った。
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