▼─▼─▼

完 成

       ◇


「「やっとできたー!」」


 重なる声。交わる響きとハイタッチ。パン、という乾いた音が、夕日の黄金に染まる教室に木霊した。


「長かったねぇ。もう三ヶ月くらいだっけ?」

「うん。一個のゲームにこれほどまで時間が掛かるとは思わなんだ。でも楽しかったなぁ。望さんも楽しかった?」

「んー。まぁまぁかな」


 ありのままの感想コタエを吐くのは、なんだかちょっぴり癪に障るので、ぷいとそっぽを向いた。


「でも、一つ気に入らないところがあるね」

「あ、それ俺も同じかも」


 気に入らないところ。言わずもがな、自分達の名前が勝手に使われていることである。幼馴染みなだけで、恋人でもないってのに、ゲーム本編ではあられもない姿にされている。


「プログラムの佐藤とシナリオの水宮の仕業ね⋯⋯。まったく。こんなことしてなんのメリットがあるんだか」

「日頃から何かとからかってきたからなぁ~あの二人。別に俺たち、ただの友達なのに」

「⋯⋯⋯⋯」


 〝ただの〟って言い方もちょっとムカつくけど。


「まぁ流石に名前は変えてもらうとして、とりあえずゲームに問題は無くて文化祭には間に合う、と。これで俺たちのミッションはコンプリートだね」


 パソコンを閉じながら、淡々と語る彼。


「それにしても、〝〟だなんて。割りと無茶苦茶なこと言うよなぁ顧問の先生。監禁みたいなもんだよほんと」

「⋯⋯⋯⋯」


 わたしは彼の言葉を右耳から左耳へと聞き流しながら、黙々と帰りの支度を進めている。昔から自分の感情が行動に出てしまう部分は短所であると自覚しているが、最近は治すことすら諦めてきている。


「さっきからなんで黙ってるの?」


 予想通りの反応だった。


「今度の文化祭、さ。自由時間って誰とまわるか⋯⋯もう決めてる?」

「う~ん。まだ決まってないかなぁ。去年と同じく男友達とまわると思うけども。それがどうかしたの?」

「あのさ、⋯⋯わたしと⋯⋯まわら、ない?」

「え!?」

「ぁいや、別にさ。嫌ならいいけど」

「嫌じゃないイヤじゃない! ⋯⋯んだけど……。望さんはほら、結構可愛いし。俺なんかとまわってると、周りの人から勘違いされちゃうかもだし」


 自分のバッグを背負い、逃げるように部室のドアノブに手をかける彼に、その手を押さえて待ったをかけた。咄嗟の反応だった。よく分からない内に必死だった。


「勘違いされてもいいから。ていうか、勘違いじゃない関係に⋯⋯⋯⋯。なりたい、から⋯⋯」

「望⋯⋯さん」

「もう何年もの付き合いになるんだし、さん付けもやめてよ。昔みたいに望って、呼んでよ。⋯⋯別に今度の文化祭からでいいからさ」

「分かった」

「まわってくれるの?」

「くれるって言い方は似合わないよ。俺が、望とまわりたい」

「⋯⋯あ」


 全てが見透かされているような感覚だった。この一生の中で、一番嬉しくて一番ムカつく言葉だった。


 やられたらやり返すってのがわたしの主義なので、


「こっち向いて」

「え? ───ず」


 不意打ちアタック。隙のある口へ改心の一撃。こうかは ばつぐんだ!多分。


「言っとくけど。あんなゲームよりもわたしの方が上手いから」


 なんて、初めてのくせに大嘘をついちゃいました。


 段々と夕日が沈んでいく。

 踊るように弾む心臓は、

 きっとずっと止まらない。


 付き合い始めてゼロ日目。

 わたし達の恋慕の始まりは、

 ありきたりで日常的な、思い出の一室と初チューでした。




            ─おしまい─

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〖短編〗性交しないと出られない部屋 YURitoIKA @Gekidanzyuuni

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