第18話 小悪魔編集ちゃんと突然の修羅場

「で、ですわ……」


 と10分後、今度はウェディングドレス姿のティアラ氏が姿を現した。さすがはドンキクオリティではあるが、それでもティアラ氏が着るとそれなりに様になってるからすごい。


 ミニスカウェディングドレスのティアラ氏は純白のドレスとは対照的に、頬を真っ赤に染めてこちらへと歩いてくる。


「あぁ~ティアラさん可愛いです。すごく良いですっ!!」


 と、そんなティアラ氏に咲夜が凄まじいスピードで駆け寄るとコミケよろしく、バシャバシャとウェディングティアラ氏を撮影し始める。


「やっぱり恥ずかしいですわ……。ですが、先生のために頑張りますわ……」


 恥じらいつつも毎回、結構ノリノリなんだよなぁこの子……。


 と、そこでどこで用意したのか、咲夜がブーケをティアラに差し出した。


「このブーケを持ってください。ほら、カメラの方を向いて。カメラを憧れの五月晴れ先生だと思って見つめてください」


 どういうことだよ……。


 が、ティアラにら咲夜の言葉が理解できるようで、何やら恥じらいながらも嬉しそうな笑みでカメラを見つめた。


「で、ですわ」


 バシャバシャと鳴り響くシャッター音を聞きながら、俺は素朴な疑問を抱く。


「おいおい咲夜氏、咲夜氏」


 と、名を呼んで見るが、撮影に夢中にで一向にこっちを向きやしねえ。


「なんですか? 話なら後にしてください」


「いや、そもそも前提条件に付いて話しておきたいんですけど……」


「前提条件? 細かいことはいいじゃないですか」


「いや、超重要なんだよ。とりあえず俺の話を聞いてくれ」


 と、そこで咲夜氏はようやくカメラを下ろしてこちらを見やると「な、なんですか……」と冷め切った声で返事をした。


 あ、こわ……。


 が、俺もこの雰囲気に負けてられない。


「ウェデングドレスはマズいだろ……。そんなシーンを出したらもうこの新キャラちゃんエンドが確定しちゃうだろ。それに一巻でサブヒロインと結婚は読者もメインヒロインも不憫すぎる」


「そこをなんとかするのが先生の腕の見せ所です」


「いや、結婚はさすがにどうにもできねえだろ……」


 もはや咲夜にとってはティアラ氏の着せ替え&撮影が主目的であって小説の参考になるかどうかなんて二の次なのだ。


「とりあえず何とかなります。サブヒロインの親戚がブライダル会社を経営していて、会社のパンフレットのモデルにサブヒロインがお手伝いしたってことで」


 親戚多いなおい……。


「そういうことなんで、とりあえずティアラさんで遊びましょう」


 もう遊ぶって言っちゃってんじゃん。ということでもはや小説の参考になるとかならんとか、そんなことはもう関係なく結婚式ごっこが始まった。


「じゃあティアラさん、ここはチャペルです。先生の本名は達樹といいますので、達樹と呼んであげてください」


 いや、さらっと本名バラすなよ……。


「は、はいですわ……」


 ティアラ氏は咲夜監督の言いつけにコクリと頷いた。そして、俺の元へと歩み寄ってくると、なにやらそわそわした様子で俺の顔を覗き込む。


「達樹さん、わたくし緊張してきましたわ」


 というかここはどこなんだ? 式場の控室かなんかなのか? だとしたら俺とティアラが顔を合わせてるのも変だ。


「ってか、パンフレットのモデルって設定はどこにいった」


「先生、スマホ」


 と、そこで咲夜がスマホを俺へと向ける。もちろんそこには例の泥酔咲夜の足を眺める俺が映っている。


 要するに文句言わずに新郎を演じろってことらしい。


「とりあえずマリッジブルーになってるティアラさんを慰めてあげてください」


 と、咲夜が言うとティアラ氏は突然、瞳に手を当てる。どうやら泣いているつもりのようだ。


「シクシク……ですわ……。私、達樹さんのお嫁さんになれる自信がありませんわ……」


「いや、お嫁さんなら婚姻届を出せば」


「先生、送りますよ」


 んだよ……。俺はライターであってアクターではないんだよ……。独身のライターにマリッジブルーを慰めろとか無理難題が過ぎるんだよ……。


 が、やらなければ動画を編集長に送られる……。


 ということでシクシク下手な嘘泣きをするティアラ氏の頭を撫でてやった。


「ティアラ、可哀想に……」


「私、達樹さんと幸せになれる自信がありませんわ……。達樹さんに見合うようなお嫁さんには……」


「そ、そんなことないさ。ティアラと二人ならなんだって乗り越えられるさ」


「そんなことありませんわ。それに私なんかよりも咲夜さんの方が達樹さんにお似合いなのですわ……」


 いや、なんで咲夜の名前が出てくるんだよ……。


 どうやらこのコントの中では咲夜とティアラ氏が俺を奪い合っているようだ。


 ってか咲夜のやついつの間にかいなくなってやがるし。


 いつの間にか姿を消していた咲夜を探して辺りを見渡していると、何やら風呂場の方から声がした。


「そうです。達樹さんには私の方がお似合いです」


 そんな声とともに咲夜が脱衣所から姿を現した……何故かウェディングドレス姿で……。


「はあっ⁉︎」


 いやいや話が見えないぞ……。


「おい、なんでお前までウェディングドレス着てるんだよ……」


「2着買いました」


 どうやら咲夜は自分も混ざりたくなったようだ。大人3人でほんと何やってんだよ……。


「達樹くん、こんな女のどこがいいの? ただ可愛いだけじゃない。私の方が料理もできるし、達樹くんを満足させられる」


 修羅場か? これは修羅場なのか?


 とにかく突然現れた花嫁2号の咲夜はティアラ氏から俺を奪ろうとしているようで、俺の腕を抱えると大きな胸を二の腕に押し当ててくる。


 こんな女とか言ってるけど、初対面だよな……。


「そ、そんなことないですわ……。咲夜さんは確かに可愛いですし、料理もできるかも知れませんが、私には咲夜さんにはないものを持ってますわ」


「あ、あんたが何を持ってるというのよ……」


 お腹をさするティアラ。そして、何やら勝ち誇ったような顔で咲夜を見つめた。


「できたのですわ。達樹さんとの子どもが……」


 おいおい勝手に既成事実を作ってんじゃねえよっ‼︎ ってか俺とティアラ氏初対面だぞっ‼︎


 どうやらティアラの爆弾発言に咲夜もかなり面食らったようで「そ、それ本当に言ってるっ⁉︎」と目を丸くしている。


「はい、昨日病院に行って診てもらったんですわ」


 どうやらこの修羅場はティアラ氏に軍配が上がったようだ。が、しばらく目を丸くしていた咲夜は不意にニヤリと不敵な笑みを浮かべると、彼女もまた自分のお腹をさすり始めた。


「そ、それがどうしたって言うのよ。私だって達樹くんの子どもいるから」


 おいおい、俺を勝手にヤリチン設定にするな。


「う、うそ……ですわ……。達樹さんどういうことですのっ⁉︎」


 その昨夜のカウンターパンチにティアラ氏は慌てた様子で俺の顔を覗き込んでくる。


「いや、そんなこと言われても知らないんだけど……」


「し、知らないなんて酷いですわっ‼︎ 咲夜さんに子どもができたのに、達樹さんが知らないはずがありませんわっ‼︎」


 いや、そういうことじゃねえよ。そもそもの設定を理解できてないんだよ……。


「シクシク……。達樹さん酷いですわ……シクシク」


 と、嘘泣き崩れるティアラ氏。そんなティアラ氏を悪女咲夜が意地悪な笑みで見下ろしている。


「ねえ達樹くん、私とティアラさんどちらを選ぶの?」


「そうですわ。私と咲夜さんのどちらが達樹さんのお嫁さんに相応しいのか選んでくださいまし」


 どうやらどっちかを選べってことらしい。


 まあ、所詮は茶番劇だ。適当にどっちか選んで執筆に戻るか。


 ということで俺は適当にティアラ氏を選ぼうと嘘泣き崩れる彼女に手を差し伸べようとしたのだが……。


「達樹くん、もしもティアラさんを選ぶなら、私、あの動画を拡散するから」


 と、スマホを取り出して、例の動画の映った画面をこちらに向けた。


 おい、なんか演劇の世界に突然現実が紛れ込んでしやがったぞっ‼︎


 流石にそれはまずい。俺は慌てて咲夜を選ぼうとする……が、


「達樹さんが選んでくれないなら、私、SNSに五月晴れ先生にオフ会で強引にお持ち帰りされたって書きます」


 と、応戦してきやがった。


 おいおいきみら血迷ったのか?


「達樹くん」


「達樹さん」


「「私たちのどちらを選ぶんですかっ⁉︎」」


 この修羅場、俺にしか被害がないっ‼︎

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