第6話 悪魔ランク

 俺はザックに連れられて、襲われる前にいた部屋まで戻った。扉ははずれ、窓ガラスは割れたままで、ザックと紺悪魔が文句を言いながら指をぱちんっと鳴らして部屋を元に戻してゆく。


「ったく、折角綺麗にしたのに雑魚のせいで一からやり直しじゃねぇか。おい、雑魚底辺悪魔。てめぇ、部屋以外で破壊したとこ全部直しとけよ。逃げたら分かってるよな?」

「…………ちっ」


 そう言って紺悪魔が部屋を出ていった。ザックは、先程の戦闘で使っていた大剣を召喚して、手を添えて一言呟いた。


「……ハウル」


 すると、大剣から黒いもやが出てきて、その中からザックよりも背の高いクールな印象の男性が現れた。その男性は何も言わず、ザックの次の言葉を待っているようだ。


「見張り頼むぜ」

「ん」


 そう短く言うと、背の高い男性は紺悪魔と同じく部屋を出ていった。誰だったんだ?と思っていると、魔法?を使って、部屋の壁や家具を直しながらザックが答えてくれる。


「あいつは俺の眷属で、相棒だ。また後でちゃんと紹介してやるよ。……さて、本題だ」


 修繕し終わり、とても真剣な顔になったザックを見て、俺は息を呑む。魔界についての話なのに、こんな真面目な顔するってことは相当重要な……と思った次の瞬間。


「ザックくんのー、魔界講座ー。ぱちぱちぱちー」

「……へっ?」


 な、なんか急にテンションが高く……いや低いのか? よく分かんねぇし、棒読みだし……。


「何を期待してんだてめぇ。俺が元気よく『ザックくんの魔界講座だぞ☆』なんて言ったら気色悪ぃだろうが」


 想像してみたら笑えて、ふっと声を出してしまう。……思いっきり頭を殴られた。痛い。


「ったく、想像すんなや。はぁ……今から話すことは今後必要な知識だ。めんどくせぇから一度しか言わねぇぞ、死ぬ気で覚えやがれ」

「は、はーい……」

「まず基本中の基本だ。これを覚えとかなきゃこの先やってけねぇからな。悪魔は、色によってランク付けされてて、色は力の大小で決まる。Sランクから言ってった方が分かりやすいから言うぞ」


 Sランクが黒と白。

 Aランクが赤、青、黄。

 Bランクが橙、緑、紫。

 CランクがSランクを除くBランク以上の色に白を混ぜた淡色系の色。

 DランクがSランクを除くBランク以上の色に黒を混ぜた濃色系の色。

 そして、様々な色の悪魔がいる中でも、Sランクの悪魔にのみ特権が与えられているという。


「Sランクの悪魔は、悪魔の中で唯一『悪魔殺し』が許されてる」

「悪魔殺し?」

「魔王様の許可がなくても同族を殺す権利があんだよ。だから、Sランクの悪魔は他の悪魔から恐れられてる。まぁ、時々怖いもの知らずの馬鹿もいるがな?」


 さらに、悪魔は「色変わり」をするらしい。


「え、色変わんの?」

「ああ、ある条件を満たせば、な」

「条件?」

「そ。下位ランカーが上位ランカーに戦いを挑むんだ。その戦いを上位ランカーが受ければ契約成立、色変わりする権利が与えられる。下位ランカーが勝てば上位ランカーと色が入れ替わる。上位ランカーが勝てば色はそのままだ」


 所謂下剋上システム。ちなみに、下位ランカーが負けたら、戦いを挑んた相手の下僕になるらしい。そして、C、DランクがこぞってA、Bランクの悪魔を狙い、戦いを挑むという形が多く、Aランク以下は、色変わりの変化が激しいらしい。折角の下剋上のチャンスなのに、Sランクを狙わねぇんだな、と思っていると、ザックが答える。


「狙う馬鹿もいるが、Sランクはここ1300年入れ替わりしてねぇからな。勝てねぇって分かってっから挑まねぇんだろうよ」

「せ……っ!?」


 1300年、Sランクの悪魔が変わってないってこと!? いやそもそも白悪魔と黒悪魔って何人ずついるんだ?


「1人ずつだ」

「1人!?」

「ああ、黒悪魔が俺。んで白悪魔がルークって野郎だ。そのうち会うだろうから名前覚えとけ」


 俺の契約悪魔、魔界トップの悪魔ってことか、やべぇ。そんな奴に「殺したくない」って甘っちょろいこと言ってたのか。そりゃ怒られるわな。すんません。そう思う心の内を読んだザックが「ようやく分かったか」と呟いた。そういえば、と俺は思ったことを口にする。


「あの紺悪魔が色変わり目的で襲ってきてたらどうする気だったんだ?」

「あ? 当然受けて、ボコボコにして下僕にする。ま、今回は色変わり目的じゃねぇのに、俺様に喧嘩売ってきたんだぜ? 俺に殺されるか、俺の下僕になるか選べっつったら快ーく下僕になるって言ったぜ」


 清々しい程の笑顔。めっちゃ嬉しそうだな、ザック。俺はこんなドSで俺様で超暴君のような悪魔の下僕になってしまった紺悪魔を心から憐れんだ。紺悪魔さん、ドンマイ。

 悪魔についての説明が終わったところでザックに質問はあるかと聞かれて、少し考えてから口を開いた。


「……悪魔のランクは分かったけど、灰色はどのランクなの?」


 黒と白を混ぜた色だけがどれにも当てはまらないと思った俺は、疑問をそのまま口にする。すると、ザックは苦虫を噛み潰したような顔をして口を開いた。


「……灰色は、特別ランクだ」

「特別? でも一番強いのはSランクなんだろ?」

「いいや、特別ランクのが上だ。あいつは、テオドシウスは魔王と同等の力を持っているっつっても過言じゃねぇ」


 最強Sランクのザックがここまで言うなんて、どれだけ強い奴なのだろう。気になって、最後に灰悪魔が色変わりしたのはいつか聞いてみると、驚きの答えが返ってきた。


「奴は一度も色変わりしてねぇ」

「え…………? い、一度も?」

「ああ、一度も。魔界が誕生したのは約13000年前。奴はそれだけの長い間、色変わりをしてねぇ。だからこれは絶対に守れ。会ったら逃げろ」


 あんなに強いザックがここまで言うなんて、相当やばい奴なのだろう。俺は力強く頷いたのを確認して、ザックが「じゃあ次は……」と言ったその時。

 ドゴーンッと凄まじい音が階下から聞こえ、ビルが揺れた。


「え、何?」

「…………ちっ、早ぇな。次の戦いの始まりだぜ。しかも……はぁ、ハウルが付いてるとはいえ、あの雑魚悪魔死んでなきゃいいが」


 次?と呆けていると、ザックが溜息をつきながら俺に話しかける。


「ぼさっとすんな。行くぞ朔夜」

「お……うわっ!?」


 また俵担ぎされた。そして、ザックが部屋の扉とは逆方向に向かっていき、ベランダに出る。この感じ、まさか……。


「いぎゃああああああああああ!!!」

「五月蝿ぇな」


 また25階から飛び降りた……。俺は何回死ぬような思いをすればいいのだろうか。そのうち慣れるかな……。なんて思っていると、ザックが俺を降ろしながら視線をビルの入口の方に向けながら告げた。


「朔夜、覚悟はいいな?」

「お、おう……」


 心臓の鼓動がいつもより早いのを感じながら、目の前の光景に向けると、全身オレンジ色に纏われた女が立っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

悪魔の書 煌烙 @kourakukaki777

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ