第31話 次の自分へ

 なるほど、それが光の魔法の使い方か――。


 俺が基本の5属性をあんなにねちっこくやっていたのはそういう理由があったらしい。てっきり子供のうちに基本となる魔法を徹底的に教えておこうという方針だと思っていたのだが、違っていた。全部の属性をやらせようとしているけど、俺に適性が無かったらどうすんだなんて思ったこともあったが、父は確信を持っていたのか。


「5属性全てへの性質変化適性が無い人間にとっては、光の魔力は毒になる。もちろん、お前の才能を疑っていたわけではないけど、ただ全てできると信じていたからやらせていた訳ではない。全ては今日の為だ」


「そうだったんだ」


「ああ」


「でもさ……それって……どうやるの。性質変化を同時に5つもできるものなの?」


 自分で試行錯誤してもできる気がしなかった。ようやく特別な魔法の使用法を知って、習っていくということに胸が高鳴る。けれど、それって――。


「めっちゃ難しくない?」


「ああ、難しいな。今使い方を教えたが、やってみろと言ってすぐにできるものじゃない。そうだな……お前が中界に行くまであと2年半、この期間で習得できるかどうかってところだな」


「えー。そんな。その頃には皆が驚くような魔法、光の魔法の1つでも使えるようになってたかったのに。もっと早くからやり方教えといてよ」


「そう言われても、約束をちゃんと守れるように、ある程度精神的に成長するまではなあ。これからの修行は才能やコツなんかで短縮するのも限界があるタイプだし、我慢して励むしかねえな」


「……はい」


「本来2年かかっても早いほうだ。それに、光の魔法習得までの道のりは必ず全てお前の力になる。ただ光の魔法を習得する以上に強くなれるはずだ」


「分かった。頑張るよ」


「じゃあ、修行の第一段階、スムーズな属性の切り替えからだ。その極意はずばり指の使い方にある――――」


 父が親指から人差し指、中指と……順々に立てていく。そこから俺の厳しい修行の日々が始まった――。




 次の日の学校では思った以上の平和が待っていた。事件の規模的に、きっと冥府の町中に話が広まったであろうから、騒ぎになっていると億劫になっていたがそんなことはなく、俺へ注目が向くことはなかった。


 大人たちの間でどんな話し合いが行われたのかは知らないが、たぶん俺がどうだとかこうだとかは周囲に伝えなかったのだと思う。


 聞くところによると、ルシェに水晶玉は無事届けられたようで、タナカとその仲間も大人しくなった。昨日よりも静かな日常に変わった。


 与えられてばかりだと感じた俺は、その平和の中でひたすら自分を追い込んだ。長きに渡って平和だったので、ずっとずっとひたすらに――。


 雨の日も、風の日も――。とは言っても、基本的に室内でやっていたのであまり関係ないけれど、トーレーニング室に1人こもって――。


 何かを返すことができる人間になる為――ユイネとの約束を果たすため――父に与えられた課題に取り組んだ――。


 ……………………………………。


 そうやって、また2年半の時が過ぎた。

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転生したら冥府の王子 ~凡人だった俺が異世界では光と闇の最強血統だった~ 木岡(もくおか) @mokuoka

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