後話 約束とポテチと

「ふむ、このポテチというものは美味じゃな。いくらでも食えるぞ」


買ってきた5袋をあっという間に食ってしまいやがった。

しかし、こいつの体がポテチでできているというが、さっき殴られた時は普通に質量があったがな。


そう思いながら、目の前にある尻尾を掴もうとすると


「何をするか無礼者!」


と蹴りが飛んできた。

痛い、とてもポテチ5個分の質量とは思えない。

蹴られた腹を押さえながらそんな話をすると。


「霊力が質量を補っておる」


と言われた。まぁ人間じゃないからなんでもありなんかな。



「さて、黒蜘蛛は今敵を見失っておるとこじゃがやることは決まっておるからの、ここで待ち受けるぞ」


ケモミミ娘曰く、さっき逃げた件で黒蜘蛛は自分の存在を知ったからこの木を倒しにやってくるだろうという話。


「この木が倒されてしまうと、わしの命も消えるかもしれんし。長年見張られていたので鬱憤ばらしもあるじゃろ」


邪魔をしてくるケモミミ娘を倒すために、ここに戻ってくるということか。

そうすると、俺を守る者がいなくなるのであとは自由に生殺与奪の権利を得られると考えているらしい。


「で、どうすんだよ」


「案ずるな、こういうときのために、この神社には神器が祀ってある。それを用いれば黒蜘蛛をまた封じることが可能じゃ」


「武器とか鏡とかか?」


「剣じゃ」


「それどこにあるんだよ」


「拝殿の奥に祀られておる、ほれ・・・」


と言った瞬間、上から巨大な黒い影が落ちてきて、神社の建物を押しつぶした。


黒い影からは節のついた太い脚が伸び、その姿は蜘蛛というよりは怪獣という感じ。


8つの赤い目がこちらをじっと見て、そして神社の破片を撒き散らしながらこっちに向かってきた。


「避けよ!」


かろうじてケモミミ娘に引っ張られ避けることができたが。

巨体のため方向転換に時間がかかっている。

しかし

「この残骸の中から剣を探さないといけないのかよ!」


「これは失敗した。地面を走ってくるものと思い鳥居に結界を張っておったのじゃが、上から飛んでくるとは思わんわい」


さらに距離を取るため、潰された神社の裏手に走りながら


「ガス爆発させたのもこの蜘蛛か?」


「それは先日の女じゃ、これに操られておった」


「で、この蜘蛛はどっから出てきた!」


「先の女が贄となり、我のポテチと同じように女の魂が食われ依代となったのじゃ」


なんてこった、人が一人死んでいるのか。


「人間の贄じゃからの、力がこれだけ強く出ておるのじゃ」


「お前に人間の贄を与えたら、同じように力が増すのか?」


そういう漫画の設定とかよくあるけど


「人間など食えんわ。わしはポテチで良い」


と言っていると、神社の残骸をもろともせず黒蜘蛛が突っ込んでくる。

10tトラックが猛スピードで突っ込んでくるイメージで、捕まったら死ぬしか思えない。


「どうすんだよ!」


一緒に逃げながら、ケモミミ娘は


「仕方ない、霊剣の力を依代に移すか」


「そんなことできるなら、先に教えてくれよ」


「じゃが・・・そうじゃな、ではわしの木に向かって走れ!」


言われた通り走ると、黒蜘蛛が方向を変え向かってくる。


「わしの合図と共に右へ飛ぶのじゃ!」


横でそう言われると同時に、ケモミミ娘は姿を消した。

黒蜘蛛が瓦礫を蹴散らして近づいてくる。

この距離では追いつかれる。


「今じゃ!」


言われて右へと飛ぶと、黒蜘蛛はそのまま真っ直ぐ突っ込み、巨大な木へとぶつかる。


あ、その木はさっきのケモ耳娘の住んでいたものでは!


雷が落ちるような音がして、巨木が倒れてしまう。

黒蜘蛛は木の枝に引っかかり、身動きが取れない。


「今じゃ、枝を折れ。そして前に構えよ!」


横にケモミミ娘が現れる。

言われた通りに、倒れている大木から枝を折り取り、木刀を構えるように持つが

「これどうするんだ?」


「我の宿し霊木じゃ、霊剣の霊力を移す依代となる力がある。

これから、我の霊力でその枝を霊剣と同じものとするで、それであの蜘蛛をたたききれ!」


「俺にできるのか?」


「ぬしの過去生の記憶を信じよ、わしの名を呼んだ記憶を思い出せ!」


そう言われると同時に、ケモミミ少女は手で何かを描き、そして大きく柏手を打つ。


すると、俺の手にあるただの木の枝が光で覆われ、巨大な斬馬刀のような剣の形に変化した。


「いけ、今じゃ!」


枝に絡みついてもがいている黒蜘蛛に向かい、光の剣を叩き込む。


同時に、俺の頭の中にビジョンが浮かんできた。


それは、過去生の記憶なのか・・・



目の前に瀕死の白い小狐が倒れている。草むらに血がべっとりとついていて、銃で足を射抜かれているようだった。

その小狐を拾い上げ、家に連れて帰った。

粗末な木の床には鉢が置かれ炭が赤々と燃えている。その上に置かれた鉄瓶からは湯気が上りその横の鍋には野草の入った粥が置かれていた。


拾ってきた小狐の怪我を治療し、粥を冷やしながら口元に持っていく。


映像はそこから切り替わり、元気になった狐と、その男が一緒に歩いている場面になった。

川で魚を捕まえたり、村へと買い出しに行ったり。白狐は男にかけられた術により人語を介し、男の僕としてさまざまな役割を果たしていた。

人間では入れないところ、遠くの者との連絡、男の役に立とうと狐もひたすら働いた。


この村から先に大きな町があり、そこでは身分の高い人たちが生活する場となっていた。

その町の流れを良くするためにと男は高貴な身分の人から指示され、村に居を構え龍脈の流れを整えることになる。


白狐のお坊様


近くの村人たちからはそんな名前で呼ばれるようになっていた。

その頃には男の頭にも白い毛の方が多くなり、狐もかなり歳をとってきていた。


そんな時、村に病が流行り始めた。

遠くの村から来た男が病で行き倒れ、それが家々に広がっていったのだ。


その原因が巨大な黒い蜘蛛の姿をした、穢れを食らいしもの。

顔は人間の女の顔に8つの目、頭には牛のツノが生えており、体は蜘蛛と蠍のような尻尾を持つ姿をしており、禍々しい気を放ちながら村を徘徊していた。

男にはそれが見えるが、村人には見えていない。


別の村で穢れを撒き散らし、病で倒れた人間の気を食らい尽くしては次の村へと移動するというやり方で今のように化け物のような姿となっているようだ。


龍脈の流れで守られていた村だったが、このような貪欲なものにこられては龍脈の力も及ばない。


男は黒蜘蛛の力を封じ込めるため、剣を持って狐と共に立ち塞がる。


数日の戦いの末、男はその黒蜘蛛を石の下に封じることができた。

その力は龍脈の流れによって、数百年かけて浄化されるように設定し、途中で起きて来られぬようにそれを監視するものを置くことにした。

白狐はその蜘蛛との戦いの中、大怪我をし自分が長くないのを悟った。

蜘蛛を見張り続けることを男に提案する。男はその白狐の魂に術をかけ、黒蜘蛛が封印された隣に生えていた樫の木にその魂を封じた。


「水脈(みお)、お前に死後も働かせてしまうが勘弁しておくれ」


そう言って、男は涙を流し。白狐の亡骸を優しく抱き上げ丁寧に葬った。


みお


そうだ、俺はあの酒に酔って襲われた時、なぜか「みお、たすけてくれ!」と叫んで樫の木にしがみついていたんだった。


はっと意識が戻る。

目の前にはもがく黒蜘蛛の姿が。

さっきの記憶の中で見た姿と比べると、小さく力も弱くなっているのを感じる、これなら今の俺で倒せるかも。

女の顔とかついてて、記憶の中の黒蜘蛛はめちゃくちゃデカくて気持ち悪かったし。


「水脈、力を貸してくれ!」


俺がケモ耳娘を見て叫ぶと、はっとした表情をして


「よし、名を呼ばれたら手伝わぬわけにはいかぬな!」


と嬉しそうに言って、蜘蛛に向かって何か唱え始める。

すると、樫の木の枝が伸びさらに蜘蛛を締め付けていった。


「今じゃ、首と胴を切り離すのじゃ!」


「おう!」


俺は思い切り光の剣を叩きつけ、蜘蛛の頭を跳ね飛ばした。

同時に耳を裂くような声が頭の中に響き、蜘蛛の姿が小さくなっていく。


「よし、封じるぞ。あの石灯籠をこの上に載せるじゃ」


急いで倒れた石灯籠の土台を持ち上げ、うんうん言いながら小さくなった黒蜘蛛の上にどさっと乗せる。

すると、吸い込まれるように姿が消えていった。


急に周りに音が復活する。


遠くから聞こえる自動車の音や生活音が周りに溢れてきた。


夜風が体を通り抜けていく。春先の風は少し冷たく、白シャツ一枚では寒く感じるほどだ。

そして、現状を見て冷や汗が出てきた。

目の前には倒れた巨木と倒壊した神社の建物群。


これ、俺のせいじゃないよね。


「よし、帰るか」


知らんふりして家に戻ろうと思い、そこで自分の家が燃えていたことを思い出した。

あ、家がなかったんだった。

夜空を見上げると満点の星々。

どうしようかな、今日は疲れたし。ネカフェにでも行って明日のことは明日考えるか。

そこで、今日出会ったケモ耳娘のことを思い出す。


「水脈か、お前いい名前持ってたんだな」


そう言って横を見ると、その体がうっすらと透けてみえるようになっていた。さっきまでと違い、儚い感じがする。


「わしの木が倒れてしもうたで、500年の役割も終わったようじゃ」


水脈が、自分の木が無くなった時に命が消える、と言っていたことを思い出した。


「おぬしがわしの名を思い出してくれただけで満足じゃ。のう、主どの」


小さな手をそっと伸ばしてくる。

俺はしゃがんでその手を握りしめ。


「ありがとう、水脈」


過去の記憶にあった、一緒にいた時間を思うとこちらも涙が出てきてしまう。


「主どのは、いつも泣き虫じゃのう」


そう言って、俺の頬を優しく手で撫でてくれる。

その感触はとても懐かしい感じがした。


・・・・・・


その後

俺の部屋には身元不明、性別不明の焼死体があったので、俺は死んだことになってたようだ。

翌日、会社に連絡すると色々確認されて、その後は警察に連れて行かれ細かく尋問された。そりゃ、遺体があったんだから。

その身元も判明すると、俺の留守中に来たその女が何かした時に、静電気か何かがガスに引火したという話になったらしい。後輩の証言が俺の無罪を勝ち取った。今度奢ってやろう。


その後すぐに以前より広いアパートへと引っ越すことになった。色々と補償やら保険やらが降りてリッチになったのもあるが。以前より広くしてもらった理由が別にある。


今日も会社から帰り、部屋の扉を開けると


「遅かったではないか、今日のポテチは買うてきたか?」


部屋の中でポテチを食べながらラグマットの上で水脈がゴロゴロしている。

あのあと、「最後にポテチをくれ」と言われたのですぐコンビニで買ってきて食べさせたら体が復活したのだった。

そこでポテチが依代になるって自分でも言ってたことを思い出した。


定期的にポテチを補充してたら現世にいられるようになったわけだが、どういう設定で家に転がり込んできたのか、人に対しての説明を考えないとなぁ。


「主どの、今生でもよろしく頼むぞ」


そう言ってニカっと笑う。

その手にはポテチの袋がしっかり握られていた。











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狐の約束 スコ・トサマ @BAJA

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