狐の約束
スコ・トサマ
前話 ケモミミとポテチと
家に帰るとケモ耳娘がいた。
いわゆる、アニメや漫画に出てくるアレだ。
それが居間のテーブルの上に座り込んでポテトチップスを食い散らかしている。
4袋が空になってその辺に散らばり、最後の一袋を大事そうに抱えて今食べているところ。
なんのコスプレサービス?
歳のころは中学生くらいか。全体的に細くしなやかな雰囲気で身につけている巫女服の脇や袴のスリットからは中身がしっかり見えてしまうくらい。完成しきれてない、少女の体って感じだ。
角度がいいと、もっと奥まで見えるのではなかろうか。
「なんじゃぼやっと惚けたようになって。わしのかわいらしさに心奪われたか?」
「いや違う」
「即答しおったな」
目の前にいるのは、銀色の髪色に同じ色の大きなケモ耳が頭の上についてて。
尻尾はふさふさの銀色の毛並みのものがふわふわと揺れている。
「この部屋、鍵はかかってたよな?」
「うむ」
「なぜ中にいる?」
「ぬしが昨日呼んだからからじゃ」
昨日は酔っていたからな〜そういうプレイをしてくれるデリバリーなお店に予約電話をしてしまったのか?
であれば、断って帰ってもらわないと、俺は年下趣味だが中学生にしか見えないような女には欲情しないし。
「とりあえず、立っておらんで、こっちに座れ。話があるでな」
みょうに古風な喋り方する子だな。のじゃロリ系というものか。
断るにしても、少し話をするくらいはいいだろう。いつも女っ気がない世界で生きてるし。
経緯はともあれ、我が部屋に女の子がやってくるなど初めてのことだし。
クッションを持ってきて隣に座る。
「お主には危機が迫っておる」
いきなりそんなことを言われた。
「なんの設定?」
「お主は昨日、わしを抱きながら願いをしたであろう。じゃから助けにきてやったのに」
「話が全く見えんが」
そう言うと、少女の耳がピクピクと動いた。
割と作りが細かいな。
と思った瞬間
「とりあえず・・・飛べ!」
いきなりそのケモ耳少女は俺を押し倒してそのまま足を掴んで窓から外へと放り出した。
「ひえーっ」
「黙っておれ、舌を噛むぞ!」
そう言いながらケモ耳少女は俺の足を空中で掴み、そのまま隣のビルへと駆け上る。同時に爆破が聞こえたが、どこから聞こえてきたのか。
夜空の星なのか、街の明かりか、流れる景色がぐるぐる周り、自分が今どうなっているのかよくわからない。
音と光が回って気持ち悪くなってきたところで、どさっと下ろされた。
コンクリの地面にいきなり落とされたので背中をしこたま打ち付けてしまったが。
文句を言いたいが口がすぐに動かない。
「ほれ、ぬしの家を見てみよ」
ふらふらしていたがなんとか起き上がる。どうやら、ここは向かいの12階建マンションの屋上のようだ。
「どこ?」
「ほれ」
そう言われ示された先を見ると、道路を隔てて建っている二階建アパートが目に入り、一つの部屋から炎が上がっている。
あれ、俺の部屋じゃん。
「危ないとこじゃったな。ガス爆発じゃ」
ガスの元栓閉めてたよな?
家を出る時にチェックした記憶を呼び覚ますが
「家に帰ってくる頃を見計らっておったようじゃな。だいたい、ぬしは昨日どこにいったか覚えておるか?」
「昨日・・・」
昨日は仕事が終わってから、ちょっとオタクっぽい後輩と居酒屋で飲んだ後に「仕事場がおっさんばっかだし、女成分を吸収するか!」なんて話になったが。
「おれ、いい店知ってるんですよ」
と後輩がニコニコしておすすめの店に連れていってくれた。そう、いわゆる綺麗なお姉さんがチヤホヤしてくれるお店だ。
ただ、そこは20年前くらいに娘さんだった人がいる店だった。奴は熟女好きであったのだ。
そこで記憶がなくなるくらい飲んでしまい、気がつくと家に帰ってきていた。
その家に帰り着くまでの過程でこの少女と出会ったのか?
隣のケモ耳少女は座り込んだ俺を見下しつつ
「覚えておらんのか、ぬしは途中の神社に立ち寄ったであろう。その時に何をしたのか」
覚えてないなあ
その表情を見て、ケモ耳少女は俺の頭を叩き
「ワシと共に来るのじゃ」
と言って、俺の手を掴み走り始めた。ほとんど宙を舞うように引っ張られ、気がつくと巨木のある小さな神社に来ている。
「ぬしはあの女どもに唆されて、この神社で石灯籠を倒したであろう」
「?」
「思いだせぇぇえぇぇぇぇ」
ケモ耳少女は俺の頭を両手で掴み振り回す。
ぐるぐると記憶が脳みそが回っていくと遠心力で記憶が表に出てきて・・・
あ、思い出した
あの20年前娘さんだった人の中にパワースポットがどうとか言ってたのがいて。
なんか流れで持ち帰りすることになったのだ。
その時の俺の気持ちが理解できない、俺は年下趣味なので20歳くらい上の人には興味がないはずなのだが。
美魔女だったのか? 顔は思い出せないが、腰に手を回した感触を思い出すとスタイルは良かった気がする。
で、神社に連れて行かれて、なんかパワースポットで石灯籠を倒して欲しいとか言われて。
バチが当たるから嫌、とか抵抗してたら俺を押し倒すように石灯籠に壁ドンされてしまい、二人分の体重をうけて石灯籠が勢いで倒れてしまった。
押し倒された状態で、その女は俺の両手を掴み、明らかにエッチではない雰囲気で襲いかかってきたのだ。
凄まじい力で引っ張られるので、怖くなって神社の大木にしがみついて助けを呼んだ。
ところまでは記憶している。
「その時に、ワシの名を呼んだのじゃ」
名前?
「無意識じゃから覚えておらぬじゃろが、わしの名を呼んだのじゃよ。それでわしが出てきてその女を追い払った。
その後、ぬしは逃げ帰って昨夜の騒ぎも忘れて会社に行って、とのうのうと生活しておったのじゃ。呑気なものじゃな」
「その、あの女はどうしたんだ?」
「昼は動きが鈍るで抑えておけたのじゃが、夜になったらワシの結界を抜け出してしもうての。それでぬしの家に先回りしておったわけじゃ」
「なら、お前はこの神社の神なのか?」
「神ではない。ぬしが張り付いてた木に宿っておったものじゃ。ぬしたちが好きな言葉で言うなら精霊かの」
「なんで助けてくれた?」
「昔の契約でな、名を呼ばれたら手助けしろとな」
「いや、だいたいお前の名前知らんし、そもそも精霊とか信じてないんだが」
「目の前におるじゃろ?昨日襲われた原因もぬしはわかっておらんじゃろ、少し説明してやろうぞ」
そう言って、ケモ耳少女は俺の襲われた理由を話してくれた。
正直理解し難いとこが多くあったが、まぁ目の前にいるのが非科学的な存在なのでそんなものなのだろう。
俺には竜を操る家柄にいた過去生があったらしい。
もうこの時点で眉唾物だが、途中で口を挟むと話を聞けと怒られるのでそのまま聞くことにする。
竜というのは概念的なもので、土地のエネルギーの流れを意味するものとかで。何かどこかの帝都物語的な雰囲気に出てくる地脈とか龍脈とかそういもんらしい。
その流れを読んだり変えたり、陰陽師とかそんな仕事してた過去生があるのだとか。
その時代、500年くらい昔に俺の過去生であった何か氏のものがこの辺りの龍脈を乱していた「大黒蜘蛛」を捉え封じたらしい。
その蜘蛛というのは人間の社会で生まれた穢れを喰らい穢れを撒き散らすことで龍脈のエネルギーが土地に流れにくくなる状態を作る妖怪じみたものだとか。
穢れというのは人間が本心で生きてない時に生まれるもので、ちょっとした人間関係で「いい嘘」をついても「悪い嘘」をついても生まれていくものであり、裏切ったり裏切られたり、人間の感情のごちゃごちゃしたもので生まれ出るものであり。
本心からの生活を行うと集団では「わがまま」「場を乱す」などで大抵は認められないため、人間の社会生活ではかならず生まれ出てくるものであるらしい。
なので、昔から人は穢れをうまく土地に溜めないやり方を生み出していった。
その一つのやり方として龍脈に穢れを乗せて流してしまい、土地に溜め込まないようにする方法がある。それを行っていたのが俺の過去生。
他にも神社や寺を配置することで、穢れを常に祓う場所を設け、土地、集落に穢れが溜まりにくいようにしていく方法もあったのだとか。
「今の者たちは、そんなこと考えずに街づくり、開発とか行っておるがな」
ケモ耳少女がそう言うが
「今の街では穢れが流れていかないのか?」
「電車や道路で多くの人間が移動するじゃろ。その流れに乗って流されていくで、龍脈ではなく人間が自分達の穢れを流し他の地域へと循環させておる。
じゃから、特定の場所に溜まりすぎることはないんじゃが、それを考えて配置されてるわけではないからのう。
変に偏るところが生まれることもある。その時は誰かが贄となってその穢れを解放することもあるがの」
「贄ってなんだ?」
「生贄、人柱じゃ。都市部でその役割となったものが一定数出るじゃろ」
つまり、自殺者のことらしい。
あれって、そう言う土地の穢れ祓いがうまくできてないから出てくるものなのか。
「ぬしの過去生のような、そんな働きをするものがいればそれらも贄とならずに済んだであろうにの。これだけ人が増えておるんじゃ致し方あるまい」
精霊という存在は、その辺ドライなんだな。
で、話はそんな過去生の俺の話から現在へと移り。
その過去生で俺が封じ込めた黒蜘蛛がこの神社の石燈籠にいて。
その黒蜘蛛の見張りを行っていたのが、このケモ耳娘の精霊。
あの女性には黒蜘蛛の分体が取り付いていて、俺の過去生を知り酒で正常な意識を失わせここに誘導し封印を解こうとしたということ。
この封印は俺の過去生が行ったものなので、同じ魂を持つ俺が行わないと解放されないものらしく地震で倒れたり近所の悪ガキが転がしても解放はされなかったとか。
「つまり、過去生で俺が封じ込めてた黒蜘蛛が解放されるために現生で俺を襲ってきたと。つまり、その女が黒蜘蛛だったってことか?」
「いや、黒蜘蛛の分霊じゃ。わしら物質を持たぬものたちはいくらでも分霊を作ることができる。ほれ、おぬしたちがコピペしておるようなものじゃ。
本体の容量をそのまま受け入れられる依代があれば、全てをコピペできるのじゃが。
黒蜘蛛の容量を人間一人に押し込めるには空き容量が足りぬのでな、一部だけが入り込み動いてたところじゃ。
あの女が、自分より若い男と交尾を行い、うまくいけば自分に貢ぐものを作りたいという欲と、黒蜘蛛のお前を呼び込み誘い込みたいという欲の部分がうまく一致したのであろうな」
「だったら、今までだって俺をここに誘導する人間が出てきてもよかったんじゃないのか?」
「ほれ、その黒蜘蛛の欲と一致するものがそうそうおるものではない。ぬしを押し倒してモノにしたいという欲を持つ女がおらんかったのじゃろう」
つまり、俺とエッチしたいと思う女性が今までの人生に存在してなかったということなのか。
あの思わせぶりな態度をとっていた今まで出会ってきた女子たちはなんだったのだ。俺の勘違いだったのか?
「ぬしは童貞であろう」
「・・・違う」
「隠しても無駄じゃ。金や対価ではなく純粋に、ぬしと交尾を望む女の気を全く纏っておらぬからな。そのようなお互い求めて肉体を重ねることができると、女の気をぬしの周りに溜め込むことができる。
すると黒蜘蛛のような穢れを持つものは入り込むことができないのじゃが。
女の気が希薄じゃからつけ込まれたのであろうて」
確かに、彼女いない歴年齢、25年以上彼女という存在はいない。
「黒蜘蛛は、流れの良いこの土地を穢れさせ、自分達に近い物たちが集まる土地を作りたいと思っておるのじゃ。それには、ぬしが邪魔になる」
「俺、別に龍脈とか知らんしさっき知ったばっかだし」
「ぬしは、わしの主人となれる素質を持つからの、狙われて仕方ないわい」
「お前の、主人?」
「ぬしは魂でわしを縛っておるんじゃよ。
過去生の時に「黒蜘蛛を見張るために」わしを木に封じおったでな。黒蜘蛛が世に出る際には自分と同じ魂を持つものと協力し封印せよと、おぬしの過去生が契約していったわい」
「なんで、そんな古い契約を守るんだよ」
「契約は契約じゃ。ぬしの過去生には恩があるでな」
「つまり、過去生、俺の知らん奴がなんかした結果が、今の俺の家を破壊したってことか」
「簡単に言うとそうじゃな」
「たまらんな、それなんとかすることできんのかよ」
「簡単じゃ、やつを封じればわしも役目が終わるでぬしは解放される」
「どうやって封じるんだよ」
「わしに任せろ」
と薄い胸を逸らして偉そうにする。
ケモ耳少女の戯言に付き合わせれているだけではないのか、と思わないでもないが。
実際に部屋が爆発し、この少女に引き摺られてここまできてるのだからその現実は避けられない。
ん?そういえば
「肉体がない存在とか言いながら、俺の家のポテチ食い荒らしてたじゃないか」
「実体化するには依代がいるのじゃ。そのためにポテチなるものを使ったに過ぎん」
「じゃあ、その体はポテチでできているのか?」
「ポテチ5袋分の質量で構成されておる」
精霊が肉体を得るのになぜポテチを使う必要があったのか
「根菜には大地の力、塩には清めと海の力が封じ込まれておる。
それらが適切に配合されたものが、あのポテチなるものであったのじゃ」
本当なのだろうか。
単に、味が気に入ったから食ってただけではないのか?
「であるからして、先ほどから飛び回っておってかなり依代を消耗してしもうた。
追加を持ってこい」
「つまり?」
「ポテチをたくさん買ってこいと言うことじゃ!」
とりあえず、俺はコンビニであるだけのポテチ薄塩味を買わされることとなった。
フライドポテトはダメらしいので、なんか意味があるのかどうなのか
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