番外編 2 調査1日目~3日目
【一日目・深夜】
「今日はもう夜も遅いので、詳しい調査は明日以降に回します」
≪はい≫
「じゃあ、おやすみなさい」
(暗い室内、ベッドにユウコ、居間のカーペットにアズサが眠っている。カメラは倍速で進むが、二人が時折寝返りを打つ以外は大きな変化はない。玄関側のカメラも同様だ。しかし)
【午前四時】
(ふと、カメラの倍速が止まる)
うっ……ううっ……
(うめき声……。カメラの映像では判然としないが、アズサの声ではないように思える。となるとモザイク付きなのでわからないが、ユウコの声ということになるか。 かと思うと、ユウコが起き上がった。それと同時に声がやむ。彼女はあたりを見回している。しかし、すぐにまた布団を被り、また寝息を立て始めた。それ以降はまた倍速編集がかかり、夜が明けた)
【二日目・朝】
「おはようございます」
≪おはようございます≫
「ユウコさん、これからお仕事ですよね」
≪ええ≫
「そしたら、私は一旦戻って今日の映像確認します。夜にはエリカが来るので」
≪わかりました≫
暗転カット
(エリカの顔が映る。部屋の外らしい)
『カメラ回ってるかな……よし大丈夫そう。エリカです。今日は私が担当しますね』
≪鍵、開けますね≫
(扉が開く。暗い部屋に電気が点く)
『お邪魔しまーす』
≪はい。お風呂とかご飯は……≫
『あ、全部すましてきたので、お気遣いなく』
≪あら……そうですか。お酒とかも、買ってきたんですけど≫
『せっかくなので、そっちはいただきますね』
カット
(上空のカメラがふたりを映す。世間話に花が咲いているようだ)
≪いつも廃墟とかに行くの、怖くはないんですか?≫
『怖いですよもちろん。でもまあ、それがいいっていうか。ううん……なんて言ったらいいんですかね』
≪事情があるんですね。お二人にも≫
『まあ、そうですね』
≪わたしなんか、いつも拝見してて羨ましい気持ちになるんですよ≫
『羨ましい?』
≪とても仲がいいように見えて。信頼し合ってる感じが、なんとも≫
『そんな風に見えます?』
≪ええ、とっても≫
『まあ、昔から知ってる仲ですからね。腐れ縁ってやつです』
≪腐っても縁じゃないですか。わたしには、そういう人いないので、ほんとに羨ましいです≫
『……飲みましょ。飲んでもう、やな事わすれましょうよ』
≪そうですね……≫
【二日目・夜】
(カット、一転、就寝した二人の姿。昨日と同じ配置で眠りについている。倍速がかかり、変化はない。玄関側も同じく)
【深夜二時】
(何もないまま過ぎるかと思いきや、倍速が止まる。視聴者が身構える時間だ)
コツッ……コツッ……ツルルルル……コツッ……ツルルル
(何かを叩くような小さな音、その後に床を滑るような音が、同じく小さく聞こえる。玄関側のカメラが玄関の方を映す。扉に向けての廊下はフローリングがなされている。その音の元としては一番考えられるのだが……何もない。すると)
『……』
(エリカ、首だけを軽く起こしている。音のせいで目が覚めたのだろうか。机の上にあるスマホをとって、窓側に向けている)
『だめだ……だめだ……だめだ……だめだ……』
(エリカの小さな呟き。なにを表している?)
(エリカが少し撮影しているうちに、音は消えた。それからすぐにエリカもスマホを置いてまた眠りについた。この日はユウコの側に変化はなかった)
【三日目・朝】
≪エリカさん、おはようございます≫
『ああ……おはようございます』
≪すごく眠たげですけど≫
『なんだか、寝つきが悪くて……』
(なぜ、深夜の行動について話さない?)
≪わたし、仕事なのでそろそろ……≫
『そうですね……ごめんなさい、ちょっと顔洗ってきます』
カット・部屋の外
『今日はアズちゃんの方が来るので』
≪はい。また、18時頃に≫
『はい』
(エリカ、昨夜酒を交えて談笑していたのとは違い、やけに疲弊した様子だ)
テロップ
【エリカはこの日、最後までそのことについて語らなかった】
【三日目・夜】
【19時】
(室内)
「今日もよろしくお願いします」
≪はい≫
「あの、二日前の映像なんですけど」
≪はい≫
「どこかからうめき声が聞こえて、そのあとユウコさんが起き上がってまわりを見てるのが映ってたんですけど」
≪……はあ≫
「ちなみに記憶ってあります?」
≪なんとなくは……ただ、うめき声はとくには……≫
「そう、ですか」
≪あの、アズサさん≫
「何ですか?」
≪実は、ちょっと話したいことがあって……信じてもらえるかどうかわからないんですけど……≫
「は、はあ」
(すると、ユウコは今まで以上に低い声で語り出した)
≪おとといの夜、実は夢を見たんです≫
【ユウコさんの見た夢】
≪私がこの部屋に立っているんですけど、不思議なのが、床に私が寝てるんです≫
「つまり、寝てる自分を見下ろしてるんですか」
≪はい。私はベッドじゃなくて床に寝ていて。そのまましばらくすると、どこかから小さく水の音が聞こえてきて。ほら、最初に話したあの水滴の音です。またいつもみたいに出所を探そうとしたとき、急に首が苦しくなったんです。息が出来ないくらいに。苦しいっ……! 死ぬっ……って思ったとき目が覚めて≫
「それが、あの映像の最後の部分だったんですかね」
≪その映像、見てもいいですか?≫
「ええ。構いませんけど」
【映像確認後】
「うめき声が入ってるんですけど、これはユウコさんの声っぽいですよね。夢の話と総合しても」
≪そう、ですね。≫
「それ以外は、特にカメラには映っていなかったんですけど……」
≪あの、あともう一つ≫
「はい」
≪エリカさん、大丈夫でした?≫
「え?」
≪今朝すごく疲れてたんで、ずっと気がかりだったんですけど≫
「私も今日エリちゃんとは会ってないんでわかんないですね……ちょっと連絡してみます」
≪はい≫
【急遽、エリカに連絡を取る】
「もしもし、エリちゃん?」
(電話越し、ノイズ交じりの声が聞こえる)
『はい。どうしたの?』
「大丈夫? ユウコさんが心配してたけど」
『ああ……ちょっと疲れちゃっただけだよ。昨日も特に何もなかったから大丈夫』「そう? ならいいけど。あ、昨日のデータ確認してる?」
『今からするとこ』
「そう。わかった。無理はしないで」
『はあい』
「じゃあ」
『うんばいばーい』
【三日目・深夜】
「それじゃ、今日も二つカメラおかせてもらいますね」
≪はい≫
(部屋の電気が落ちる。それ以降の映像は目に見える変化はない。玄関側に仕掛けられたカメラも同様だ。これまではどこかで一度ストップがかかっていたが、この日は特に何も起こらなかったらしい)
【三日目は異変はなく終わった】
【このまま何事もなく調査終了か、そう思われた】
【がしかし……この部屋にいるソレが、ついに姿を現す】
(映像が映し出される。これは、玄関の方を向いたカメラ? と、そのとき、玄関近くのクローゼットの折り戸が、少しずつ、少しずつ、開いて……)
暗転・テロップ
【後編へ続く】
荒廃散歩 蓬葉 yomoginoha @houtamiyasina
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