番外編 事故物件調査

【※当動画を見たことによるについて、○○(チャンネル名)は一切責任を負いません】


(いつもの二人が映し出される。場所は屋外ではなく、普通の部屋だ)

「ようこそ○○(伏字:チャンネル名)へ。アズサと」

『エリカです』

「突然なんだけど、エリちゃんは「心理的瑕疵」ってことば知ってる?」

『心理的かし……ちょっとわかんないな』

「だと思った」

『うん。なら聞くな』

「心理的瑕疵って言うのは不動産の用語で、不動産を取引するときに売主側、あるいは買主側に、が生じる可能性のある事柄をいうのよ」

『心理的抵抗?』

「うん。その原因は、周りにたとえばいかがわしい店とか、いわゆるカタギじゃない人が住んでいたりだとか、そういう場合もあるんだけれど、基本的にこの言葉を聞いたときに思い浮かべるのは、いわゆるだよね」


(テロップ)

【事故物件】

【浸水があったり権利などについて係争中であったりする物件。また、



【年間、約1万5000戸超の物件で自殺や殺人事件が発生しており、コロナ禍になってからは特に件数が増加している】




「今回は、とある物件を訪問したいと思います。しかも実は視聴者さんの依頼でもあるんですよ」

『リアルタイムで住んでるんだ』

「そうそう。だから今から伺っていろいろ話を聞こうと思います」

『はい』






カット

(カメラ、物件内部、頭上から居間を映している。ベッド側、マスクをつけたアズサ、エリカが所せましと座り、円卓をはさんでタンスのある側、モザイクがかかった女性が座っている)

「今回は依頼の方ありがとうございます」

≪いえ、こちらこそありがとうございます≫

(テロップで、【ユウコ(仮名)さん 20代】という仮名と年齢が表示される。低い声の女性だ)

「単刀直入に伺いたいんですけど、ここはどういった物件なんですか?」

≪わたしが聞いた話では、まあその、首吊り……自殺があったらしくて≫

『首吊り……』

「その方はどのような?」

≪40代の、女性の方だそうです。もともと母親と暮らしていたそうなんですが、介護の疲れで自ら……と≫

「なるほど」

『その母親は、どうなったんですか? 介護者が亡くなったということは……』

≪管理人の方が言うには、娘が亡くなったあと、この部屋で衰弱してそのまま……だそうです≫

『てことはここは二人が……?』

≪そういうことになりますね≫

「場所はここ、ですか?」

≪母親の方は、ちょうどそこで≫

(ユウコ、指をさす。そこにはベランダに通じる窓がある)

「娘の方は」

≪玄関の所にクローゼットがあったと思うんですが、その中でひっそりと……≫


(ここで物件の上面図が示される)


(玄関から家にあがると右に浴室、左に例のクローゼットがある。少し進むと、また右にトイレが、左にキッチンがある。そして居間があり、窓があってベランダだ。居間は頭上からカメラが、窓際から廊下の方を映している。そのため、カメラから見て右手、手前から窓の方に向かってベッドが縦に置かれ、左手にはタンスと本棚が並んでいる。その中間に円卓があり、今はベッド側にアズサとエリカが、タンス側にユウコが座っている)


「ユウコさんは、この部屋を借りた段階でそういう話は知っていたんですか?」

≪ええ、まあ、うすうすは。お家賃、安かったですし、不動産屋さんもやけにおどおどしてましたし≫

『それなのに、借りちゃったんですか?』

≪ええ。お金ないですしね。わたしもそういう話はあまり信じてなかったから≫

(それを過去形にしているということは)

「信じてなかった……ってことは今は」

≪……去年入居してから、どれくらいのときだったかな。深夜、身体が動かなくなって。そしたら、スッ……スッ……スッって小さく音がして≫

「誰かが近づいてくる音……?」」

≪いや、足音ではなかったと思うんですけど。その日はそれだけで、気づいたら朝になってて≫

「はい」

≪それから少し経ったとき、また深夜に目を覚ましたんです。。というのもまたどこかからピト……ピト……ピト……って音がして。水道締め忘れたかなって思って、キッチンの方に行ったんです。でも水は出ていなかった。お風呂もトイレも。その日は雨も降ってませんでしたから、聞こえるはずないんですけど。でも、ふと気づいたら、その音は聞こえなくなってたんですよ≫

「何の音だったんでしょう」

≪さあ……。その後も何回か水の音は聞こえるのに、水の出てる場所は見当たらなくて。結局気づいたら音は聞こえなくなるんです≫

『水の音……気になるねアズちゃん』

「うん」

≪ただ、亡くなった方の姿や声は聞いたことはないんです。わたし自身霊感もないですし、当たり前かもしれませんけど≫

「ユウコさんは、ここを出るという考えはないんですか」

≪そうですね……。お金も安いですし、アパートのひとも親切ですしね。それに、信じられないと思うかもしれないですけど、意外と住み心地は悪くないんですよ。ほんとに≫


テロップ

【事情をきいた私たちは、一日交替で計六日間、ユウコさんと生活して検証することに】



カット

「それじゃ、今日は私がユウコさんのお部屋にお邪魔してなにか起こるか見て見たいと思います。カメラは居間の上空に一つ、玄関の方に向けて一つ、そして万が一のときには私のスマホのカメラを使っていきたいと思います。じゃあ、ユウコさん、よろしくお願いします」

≪こちらこそ、どうぞよろしくお願いします≫



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