チャルナック

恥目司

チャルナック

 僕は一般人にはない特別な力を持っている。

 力の名前は"チャルナック"。一体何なのかわからない。

 今、僕はその力を使う事なく平凡に暮らしている。

「おい、無原。呼ばれてるぞ」

 どこぞの誰かに声をかけられ、自分が呼ばれている事を知る。

 因みに無原は僕の名前だ。

 とにかく一人で学校まで走った。

 教室に入ると机と椅子が交互に上に積み重なっていた一番上に少女が座っていた。

「誰だ?」

 僕は少女に尋ねる。

 しかし彼女は何も言わずに人差し指で僕を指す。

 すると、ドゴォンという爆音とともに壁から3トン程の大型のトラックが、いきなり僕を襲ってきた。

 ぶつかる瞬間に骨が次々にぶつかる感触がする。

 ーあ、死ぬー

 そう思った時には意識が途絶えていた。

 結局、僕は"チャルナック"という力を使う事なく死んでいった。

 どんな力だったんだろ。というかなぜ今死ぬんだろう。

 呼ばれた理由も、椅子と机が積み重なった理由も、その上で座っていた少女の正体もわからない。

「何だったんだ。この人生」

 思えば、僕の一生って平凡だった。何もない空っぽだった。

 次にまた人間として生まれたら絶対に平凡な人生にはしないようにしよう。

「ほうほう。お前は次も人間に生まれたいのじゃな」

 しわがれた声が背後からした。

 振り返るとそこに白装束の老人がいた。

「先の人生は不遇じゃったな」

「はぁ…」

「哀れなお前の為に異世界転生させてあげよう」

 は?異世界転生?

「それって最近のラノベの流行りみたいな?」

「そうじゃ。わしらも流行りに乗らんといけんからの」

 転生させる理由が幼稚すぎる。

「ちょっと待ってくれ。さすがに異世界で生活はしたくない。俺は異世界が嫌いなんだ。」

「どうしてじゃ?お前も平凡な人生にしたくないって思ってたんじゃろ?」

「だからってなんでも異世界転生すれば大丈夫って訳じゃないんだよ」

 老人は不服そうな顔をしている。

「そうか。お前は異世界転生が嫌いなのか」

 しばらく長考して老人が指を立てて言った。

「ではわしのルーレットでどこかへ行かせてやる」

「運次第なのかよ」

「では行くぞ。ランダムGO!」

「どこかのゲーム会社に怒られないかなぁ」

 目の前が赤い光に包まれる。


 そして僕は異世界転生もといどこかへ転生する事になった。

 そういえば"チャルナック"はどうなったんだろう。



 ふと気づくと僕は教室の中にいた。事故があったのか、眼前には大型の何かがぶつかった痕があった。

 待てよ。教室?大型の何かがぶつかった痕?

 明らかに僕が轢かれた後の光景だ。

 しかもよく見ると、机や椅子が飛散している。

 まさか、時を飛んだのか?

 異世界転生を断ったら元の世界に戻ったってことか?

 それなら嬉しい。

「生きてる……のか?」

 自分の腕を触ってみる。

 皮膚の感触、肉の温かさ、その下にある硬い骨。

 それら全てが人間のモノである事を確信させてくれた。

「やった。生きてる!!!!」

 嬉しさのあまりに僕は歓喜した。まるで奇跡だ。

 しかしその奇跡はすぐに掻き消される。

 ぶつかった痕跡の丁度中心のところに赤い塊が数個散らばっていた事に気づいた。

「何だコレ……?」

 触れると生温かくブニブニしており、赤い液体が掌をべったりと染めた。

 そう、肉片だった。

(肉?まさか…)

 視線を逸らすと、そこに目玉が1つ転げ落ちていた。

「っ〜〜〜!!!!」

 僕は叫ぶより前に嘔吐してしまった。

 胃の中を空っぽにすると冷静になる事ができた。

 まず先に考えたのは過去の僕が轢かれてミンチになった事であった。

 だけど、それだと僕が今存在している説明がつかない。

 僕は実体があり幽霊になっていない。

(じゃあ他の人が轢かれたのか?)

 誰が轢かれたかはすぐに見当がついた。

 轢かれる前に積み上げた机と椅子の上に座っていたあの少女だ。

 だけど少女が人差し指を僕に指したから、トラックに轢かれて死んだのであって何故彼女が死ぬのか分からない。

 と、その時

 ぽんぽんと左の肩を軽く叩かれた。

 咄嗟に振り返ると、そこに少女がいた。

 黒髪のロングで血で染まっている白いワンピースを着た少女。一見普通の少女に見えたが、顔の右半分がなかった。

「あなたが悪いのよ。選ばなかったあなたが。」

 少女とは思えないほど低い声で話す。

「あなたの死は"チャルナック"を消すはずだったのよ。」

 チャルナックを消す?どういう事だ?

「あなたが異世界転生を嫌ったおかげで時が回るわ。」

 僕が何かしたからこんな事になっているのか?

 嫌だ。僕は何も悪くない。

 僕は……なんにも悪くない。

 視界が薄らいでいく。



 ある日、学校から帰る時

「おい、無原。呼ばれてるぞ。」

 どこぞの誰かに声をかけられ、僕は学校へと踵を返した。

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チャルナック 恥目司 @hajimetsukasa

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