9.それでは、ウルトラマンとは何者か

 それでは、そんな社会問題や復讐者達の化身たる怪獣と戦うウルトラマンとは何者であろうか。

 設定上、ウルトラマンとは光の国の住人が人工太陽プラズマスパーク(光の国を照らす太陽が消滅したことにより開発された)から発せられるディファレーター光線を浴びて超人の力を得たものとされている。即ち、誤解を恐れずに言うのであれば、彼は強力な放射線を浴びた「被曝者」ということになる。

 ウルトラマンと科特隊の関係は、ウルトラマン=米国、科特隊=日本のメタファーであり、冷戦期の両国の関係を示したものであるという考察がしばしばなされる。ウルトラマンが銀色のボディである理由は、戦時中に日本を爆撃したB29が銀無垢であったから、と言われることも多い。

 私の考えは、少し違う。確かにウルトラマンはアメリカナイズされたヒーローではあるが、その本質は、放射線を浴びた「被曝者」である。つまり、被曝した身体をアメリカナイズした外見で覆い隠した存在が、ウルトラマンなのだ。そう、ウルトラマンとは、被曝国でありながら、アメリカナイズされた価値観にその身を隠して発展を続けていた戦後日本の姿そのものなのだ。

 被曝国家が、アメリカナイズされたスーツにその身を包み、スペシウム光線(強力な放射線)でもって、あらゆる社会問題やマイノリティのメタファーを撃ち滅ぼしていく。「ウルトラマン」という作品は、ともすれば悪辣なブラックジョークに堕してしまいかねない、ある意味で非常に「危うい」モチーフを扱った、現実世界に対する諧謔であったのだ。

 だが、製作側は「ウルトラマン」を単なる露悪趣味の作品としては終わらせなかった。だからこそ、最後にウルトラマンは死なねばならなかったのだ。

 ウルトラマンを最後に打倒した怪獣・ゼットンこそが、製作者が「ウルトラマン」という作品に対して出した「回答」である。ゼットンとは何者か。彼は、全身真っ黒で、頭には角が生えている。目も、口も、耳も、指も無く、顔面や胸にはケロイドを思わせる黄疸がある。あらゆるマイノリティの要素を詰め合わせた様な怪獣である。そしてゼットンは、ウルトラマンのスペシウム光線を反射して彼を倒す。今まで自分達(あらゆる社会問題やマイノリティ)を撃ち滅ぼしてきた伝家の宝刀が、最後はウルトラマン(戦後日本)自身を滅ぼしてしまう。製作側の問題意識は、このような形で結実し、「ウルトラマン」という策作品を、単なる現実問題のパロディではなく、未来に向けてのテーマを残して作品を完結させたのである。「このままではいけない」と。

 では、その「未来」とは如何なるものであるのか。ウルトラマンと対になる存在--彼の正義への挑戦者として現れた侵略者のエピソードを元に、最後の章で考察してみようと思う。

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ウルトラマンと日本 時田宗暢 @tokitamunenobu

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