自分の部屋で義姉モノのエロマンガを読んで自分で処理をしようとしたところを義姉に見つかってしまったら、何故か義姉がエロマンガみたいなことをしてくるようになった。

サンボン

自分の部屋で義姉モノのエロマンガを読んで自分で処理をしようとしたところを義姉に見つかってしまったら、何故か義姉がエロマンガみたいなことをしてくるようになった。

「…………………………」

「…………………………」


 俺は今、同い年で同じクラスの義姉、“黒部くろべあかね”に、自己処理をしようとしていた瞬間を目撃されてしまった。


 しかも、タブレットに表示された、義姉モノのエロマンガと共に。


 さて……ここはどう対応するのは正解だろうか。


 やっぱり、素直に説明するか? ……って、どうやって説明するんだよ!?

 アレか!? これは男の生理現象で、健全な男子高校生なら一日一回はしないと悶々として目が血走って、授業中に悶えてクネクネするって説明すればいいのか!?


 そ、それとも、恥ずかしそうにしながら無理やり“アカネ姉”を追い出して、晩メシになったら何食わぬ顔でリビングに行って、何事もなかったかのように平常運転でやり過ごすのか!? いや無理だろ!?


 と、とにかく……幸いまだズボンまでは降ろしてなかったし、このエロマンガの画像を閉じよう……って!?


 なんと、タブレットを手に取ろうとした瞬間、それをアカネ姉に奪われてしまった!?


「ちょ!? ア、アカネ姉!?」

「ふうん……“セイくん”って、こんなのが趣味なんだあ……」


 アカネ姉はタブレットの画面をスワイプしながら、次々とページを送っては「へえ……」とか「ウソ……」とか呟きながら、まじまじと読んでやがる……。


 ちなみにその義姉モノのエロマンガ、言っておくがアブノーマルな要素はほとんどなく、どちらかと言えば一緒にお風呂に入ったり、両親の旅行中ずっとイチャイチャエロエロしてたり、あるいはトイレの鍵が閉まってなくてトイレ中の義姉と出くわすハプニングがあってそのままトイレでエッチしたりとか……うん、普通の健全なエロマンガだよな?


 ただ……そのヒロインが、義姉・・ってだけで。


 なら、今俺がすべきことはただ一つ。


「アカネ姉! そのタブレット返せ!」

「あっ!」


 俺は無理やりタブレットを奪い、ソッコーで画面を待機状態にした。

 はは……これでパスワードが分からないアカネ姉には開くことはできまい。


「……まあ、いいけど」


 そんな言葉をポツリ、と呟くと、アカネ姉は部屋から出て行った。


「うう……これからどんな顔してアカネ姉と接すりゃいいんだよ……」


 俺は、この人生最大の失態に頭を抱えつつ、すぐにでもホームセンターでドアの鍵を買ってきて取り付けようと心に誓った。


 ◇


「よう! “誠二せいじ”!」


 次の日の朝、教室に入るなり腐れ縁の“高木たかぎ”が声をかけてきた。


「なんだよ……俺は今、忙しいんだよ」


 そう……俺はこのバカに構っているほどの余裕はない。

 今も今後のアカネ姉との接し方について、脳内で絶賛会議中だ。


「いやさ……いつも思うけどお前、あの“霧崎きりさき”さん……いや、今はお前と同じ黒部さんか。そんな彼女と一緒に一つ屋根の下で暮らしてるって、どんなエロゲだよ!」


 などと高木がツッコむが……実際どんなエロゲだよって言いたい。


 アカネ姉が家にやって来たのは高校二年の春。

 突然、クソ親父からいずなさんと再婚するって聞かされ、思わず飲んでいたエナジードリンクを口から吐き出したのを覚えてる。


 しかも、再婚相手のいずなさんの連れ子が、同じクラスの女の子……アカネ姉だったんだから。


 ちなみに、アカネ姉は栗色の長い髪をポニーテールにまとめ、眼鏡の奥にはアクアマリンに輝く瞳、少し幼さの残るけど絶対的に可愛い顔立ちに柔らかそうな小さな唇。

 つまり、この学校でもかなりの美少女の部類に入る。

 それだけじゃない。その百五十センチに満たないクラスで一番低い身長なのに、胸のサイズはクラスで一番デカイ。いや、胸のデカさは学年トップかもしれない。


 まあ、そんなアカネ姉が俺の義姉なわけだから、それどんなエロゲだよって言いたくなる気持ちはよく分かる。正直、俺も同じ思いだ。


 何より……俺が自己処理をする時は、いつもアカネ姉がお相手だったりもするし。


 だから、必然的に義姉モノのエロマンガ(お気に入り☆5)でそんなことをしてしまうのも、しょうがないよねって話で……って。


「で? そんなお前が、今日に限ってなんで一人で・・・登校してるんだ?」

「……色々あるんだよ」


 そう……色々、な……。

 もちろん俺だって、アカネ姉と一緒に登校できなかったのは断腸の思いだけど、それによって昨日のことを追求されたりでもしたら、俺はどんな顔をすればいいんだよ。


 などと考えこみながら机に突っ伏していると。


「セイくん。これ」


 目の前にドン、と置かれたのは、俺の弁当だった。

 もちろん、置いたのはアカネ姉なわけで。


「もう……私を置いてくなんて、セイくんひどいよ」

「お、おう……」


 俺はおずおずと弁当を受け取ると、ペコリ、と頭を下げた。

 だ、だけどアカネ姉……あんまり普段と変わらない感じ?


 でも。


「んー? セイくん、ちょっと顔が赤いよ?」


 そう言って、アカネ姉が前髪をまくし上げると。


 ――ぴと。


「ア、アカネ姉!?」

「んー……ちょっと熱っぽいみたい」


 い、いや、ここ教室だぞ!?

 なんで俺の額におでこくっつけてるんだよ!?


「とにかく、無理しちゃだめだからね? 昨日も具合悪くて、晩ご飯食べたの遅かったんでしょ?」

「ま、まあ……」

「それじゃ」


 そう言うと、アカネ姉は自分の席へと戻っていった。


「オイオイオイ! 朝からうらやましい野郎だな!」

「ウルセー」


 い、いやだけど、確かにチョットおかしい……。

 アカネ姉が家に来てから、それなりに距離が近くなったりはしたけど、それでも、ここまで直接的なスキンシップを取ったりなんてこと、そこまでなかったのに……。


 結局、俺は首を捻りつつも、まずは昨日のエロマンガの件の言い訳を考えることのほうが先なので、一旦思考の外に置くことにした。


 ◇


 ――キーンコーン。


 昼休みになり、俺はアカネ姉が持ってきてくれた弁当を取り出すと。


「あれ? メモ……?」


 四つに折りたたんだメモ用紙が入っていたので、取り出してみると。


『今日のお昼休みは、お姉ちゃんと一緒に食べよ? 屋上の入口前の踊り場で待ってる』


「ええー……どういうことだろう……」


 いや、別に一緒に昼メシ食うこと自体は初めてじゃないし構わないんだけど……なんでそんな場所で?


 俺は不思議に思いながらも、弁当を持って指定された場所へと向かうと。


「あ! 待ってたよー!」


 俺の姿を見た瞬間、アカネ姉がぱああ、と笑顔を見せた。

 チクショウ、やっぱり可愛いなあ……。


「そ、それでアカネ姉、なんだって今日に限ってここで昼メシを……?」

「ん? そりゃあ、ねえ……」


 すると。


 ――ぴと。


「っ!? アカネ姉!?」

「えへへ……こういうことだってできるから、かな……」


 い、いやいや!? なんで俺の股の間にすっぽりと入ってきて、こんなもたれかかってくるの!?


「ア、アカネ姉……むしろコレだと、弁当が食べづらいんじゃ……」

「えー? 私はセイくんにもたれられて楽チンなんだけど?」

「そ、それはそうかもしれないけど……」


 い、いや、俺が全然食べられないんだよ! 

 しかも、アカネ姉のポニーテールが俺の鼻をくすぐってくるし、シャンプーのいい匂いするし!


「もう、しょうがないなあ……」


 口を尖らせ、アカネ姉はジト目で俺を睨む。

 と、とりあえず、これでどいてくれるのかな……って!?


「はい、アーン」

「えええええ!?」


 アカネ姉は弁当のおかずを箸でつまむと、俺の口元へ運んできた!?


「ど、どうして……」

「? だって、セイくんが食べづらいって言うから」


 いや、言ったけど!?

 でも、そういうことじゃなくて!?


「えー……ひょっとして、アーンよりも口移しのほうがよかったりする?」

「い、いやいやいやいやいや!」


 口移しってなんだよ!? それ、なんのエロゲ!?


「えへへ、じゃあガマンして食べないとね」

「うぐう……」


 結局、アカネ姉にされるがまま、俺はアーンによって弁当を食べた……。


 ◇


「セイくん! 一緒に帰ろ!」


 放課後になり、俺が教室から逃げ出すよりも一足早くアカネ姉に捕まってしまった……。

 昨日のエロマンガの件といい、おでこの件といい、昼休みの件といい……俺はどうしたら……。


 だけど、俺のそんな悩みはお構いなしに、アカネ姉は俺の手をグイグイ引っ張ってくる……。

 いや、今までそんなこと、したことないじゃん。


 でも。


「そ、それじゃ、行こうか……」


 結局俺はそんなアカネ姉に負け、カバンを持って一緒に教室を出た。

 うう……クラスの連中も、俺達のことをジロジロと見てたなあ……。


「えへへー……お母さんにお米買ってきてって頼まれたんだよ」

「あー……」


 なるほど……だから、荷物運び要員として誘ってきたのか。

 ようやく納得した俺は、胸を撫で下ろした。


 まあ……だからって、一連の件で気まずいってことに関しては同じなんだけど。


 で、俺達は電車に乗ったんだけど……うぐう、この時間、いつも混んでるんだよなあ……。


「アカネ姉、大丈夫……って!?」


 気づけば、アカネ姉は電車のドアと俺にサンドイッチされ、巨大な胸を押し付けながら抱きついてる!?


「そ、その……苦しいね……」


 アカネ姉は俺を見上げながら苦笑する。

 た、確かに、アカネ姉って身長が低いから余計に押されてつらいんだよなあ……。


 だったら。


 ――グイ。


「あ……」


 俺はドアを全力で押して無理やり空間を作ると、アカネ姉はようやく苦しさから解放されたみたいだ。良かった。


 なのに。


「っ!? アカネ姉!?」

「えへへー……相変わらず・・・・・セイくんは優しいね……」


 結局アカネ姉は俺にしがみついたままで、嬉しそうに抱きついて頬ずりしてくるんだけど……コレ、なんのエロゲ!?


 ◇


「ごちそうさまでしたー!」

「ごちそうさま……」


 晩メシを食い終わり、アカネ姉は満足そうに手を合わせるけど……俺は立て続けに起こったエロトラブルに、完全に食欲も失せてしまっていて少し残してしまった。


「あ……誠二くん、まだ調子が悪いの……?」

「あ、あははー! だ、大丈夫! ちょっと疲れてるだけっすから! 俺、部屋に戻ります!」


 危ない危ない……さすがにいずなさんに心配かけるわけにはいかない。

 しかも、アカネ姉とのエロトラブルは絶対に知られないようにしないと……!


「ふう……」


 部屋の扉を閉じ、ベッドに横たわる。


「あー……そういや、ホームセンターで鍵買ってくるの忘れたなー……」


 まあ、アカネ姉と一緒だったし結局は寄り道できそうになかったけど。


 それよりも。


「……アカネ姉、明らかにおかしいよな」


 元々アカネ姉は、家族になる前はどちらかといえばおとなしくて、いつもニコニコしてはいるけど積極的に誰かに話し掛けたりするようなタイプじゃなかった。


 それでも、俺と家族になったからか、それ以降は色々とギクシャクしながらも俺に話し掛けるようになってきて、仲良くしようとしてくれて。


 俺は、そんな彼女の気遣いというか優しさというか、そういったのが嬉しくて、本当の意味で慕うようになっていた。

 ま、まあ、それまではどちらかと言えばエロの対象としてのほうが強かったのは否定しないけどな……。


「はは……でも、この家に来てすぐの時、『私のほうが三か月年上なんだから、絶対に“お姉ちゃん”って呼んでね!』って、すごく念を押されたっけ」


 あの時のことを思い出し、俺はクスリ、と笑う。

 そして、妥協点として俺は“アカネ姉”って呼ぶようにしたんだよな。


 それが、だ。

 昨日あのエロマンガをチラッと見てから、どう考えても様子がおかしい。

 やたらとスキンシップして、おでこを当ててきたり俺の股の間にすっぽりと収まったり、電車で胸を押しつけて抱きついてきたり……。


 おかげで俺、自分のき上がる欲望を抑え込むのに必死なんだけど。


「ハア……とりあえず、スッキリしとく、かあ……?」


 そう考え、ベッドの上に転がっているタブレットを手に取……って、イヤイヤイヤ、昨日それで失敗したばっかりじゃんよ!?


 ガマンだガマン……!


「ハア……風呂にでも入って頭をスッキリさせよ……」


 ということで、俺は部屋を出て風呂に入る。


「ウーン……やっぱり謎すぎる……」


 身体を洗いながら、そんなことを呟いていると。


 ――カララ。


「えへへ……セイくん、背中を流してあげるね?」

「っ!? アカネ姉!?」


 ま、まさか!? 風呂にまで入ってくるのかよ!?

 俺は慌てて前を隠して背を向ける。


「どど、どうして!?」

「ホラ……私達って姉弟でしょ? だから、もっと仲良くなりたいな、って」


 イ、イヤイヤイヤイヤイヤ!? 仲良くなり方、おかしくない!? これどんなエロゲだよ!?


「とと、とにかく! 身体くらい自分で洗えるからアカネ姉は出て行ってくれよ!」

「もう! 遠慮しないの!」


 そう言ってアカネ姉は俺からスポンジを奪うと、背中を優しくこすり始めた。


「どう? 気持ちいい?」

「…………………………」


 い、いや、なんて答えりゃいいんだよ……。

 つーか、むしろ俺の後ろにあの巨大な胸を露わにしたアカネ姉がいるかと思うと……くそう! 静まれ! とにかく静まれ俺!


「はい。じゃあ次は前を洗ってあげるね?」

「ま、前えええええええッッッ!?」


 そそそ、そんなのムリ! 絶対にムリ!

 前なんて向いたら、やっぱり見えちまうし見られちまうじゃん!?


「んー……えい!」

「えい! って!?」


 すると、アカネ姉はひょこっと俺の前に回り込んできたああああ!?

 俺は咄嗟に前を隠すと……って!?


「えへへー……さすがに私も、裸で入る勇気なんかないから」


 アカネ姉は、学校指定のスク水を着ていた。

 で、でも、胸が大きすぎるせいでバッチリ胸の谷間が溢れそうになってるし、ムチムチしてるっていうかパッツンパッツンっていうか……くそう! 下手すりゃ裸よりもエロいんだけど!?


「ゴシゴシ、ゴシゴシ……」

「うう……」


 も、もう限界だ!


「わ、悪いアカネ姉! 俺、もう上がる!」

「あっ! セイくん!」


 俺は風呂場から飛び出し、バスタオルを腰に巻いて自分の部屋までダッシュした。

 こ、こんなの、心臓に悪すぎる……。


 ◇


「おかしい……どう考えてもおかしい……」


 少なくともこの半年間、アカネ姉がこんなことをしたことは一度だってなかった。

 なのに急に、こんなことをするはずがない。


 あの……普段は大人しくて引っ込み思案なところがある、アカネ姉が。


「……これじゃ、ハッキリ言ってエロゲのイベントをかたっぱしから回収してるようなモンだもんな」


 そう……よくよく考えたら、コレ、エロゲ……というか、昨日お世話になろうとした、あのエロマンガのシチュに似てない?


「だ、だけど、アカネ姉があのマンガを読んだのはほんのちょっとだけだから、さすがに分かんねーだろ……って、ここで悩んでても埒が明かない、か……」


 色々悩んだ結果、俺は重い腰を上げる。

 こうなったら、アカネ姉に直接問いただすしかないだろう。


「アカネ姉……いる?」


 俺は扉を開けてアカネ姉の部屋の中に入る……と……!?


「あ、ああ……!」


 顔を真っ赤にしたアカネ姉が、俺を見た瞬間フリーズした。

 そして、その手に持っているスマホ画面には……見覚え、の、ある……マンガ、が……っ!?


「アアア、アカネ姉!?」

「そそそ、その! こ、これは違うの! 違うんだから!?」


 ま、間違いない……。

 今、アカネ姉が読んでいたマンガ……昨日のエロマンガじゃねーか!?


「な、なんでアカネ姉がそれを読んでるんだよ!?」

「べべ、別にいいでしょ!? それよりも、ノックもしないで入ってこないでよ!」


 アカネ姉は素早くスマホを後ろに隠し、涙目で抗議する。

 というか、最初にノックもしないで部屋に入ってきたの、アカネ姉なんだけど!?


 だけど……これで色々と合点がいった。

 今日の一連のアカネ姉の行動……全部、エロマンガであったシチュだ……。


「な、なんでまた……」

「…………………………」


 俺は少し呆れた表情でアカネ姉を見るけど……うん、アカネ姉は頬をプクー、と膨らませ、顔を背けてしまった。


「ハア……と、とにかく、明日からはいつもどおりで頼むよ……」


 それだけを言い残し、俺は部屋を出ようとすると、


「……だって、セイくんはこういうお姉さんが好きなのかな、って……」


 アカネ姉が俺の服をつまみ、ポツリ、と呟いた。

 というか、エロマンガみたいなお姉さんが好みかって言われれば、そんなシチュにはメッチャ憧れはしているけれども! しているんだけれども!


「あ、あれはマンガの中だからであって、そ、その……リアルでこんなシチュがあると、俺も男だし、理性が崩壊しそうになる、わけで……アカネ姉、可愛いから……」


 ああもう……ただでさえ、アカネ姉には空想世界でいつも慰めてもらってたのに、もう耐えられそうにないんだけど。

 そもそも義姉モノのエロマンガを読んでるのだって、ヒロインをアカネ姉に置き換えてるからであって……って、そんなこと口が裂けても言えない。絶対に墓場まで持っていく。


 だけど。


「え、えへへ……そっかー……」


 今の俺の言葉にどんな精神魔法がかかっていたのかは分からないけど、アカネ姉は頬を染めながら嬉しそうにはにかんだ。


 くそう……こんな可愛い表情、反則だろ……。


 ◇


「セイくん! 早く行こ!」

「わ!? ちょ!?」


 学校の最寄り駅に電車が到着するなり、俺の腕を引っ張って改札をくぐる。


 とりあえず、あの一件があってからもう一週間経つけど、この前みたいに積極的なスキンシップなんかは鳴りを潜め、今までどおりの生活に戻った。


 これで俺の心の平穏が保たれた反面、物足りない自分がいることは否定しないが。


「? どうしたの?」


 ジッ、と下から俺の顔をのぞき込むアカネ姉。

 う……やっぱりアカネ姉、可愛いよな……。


「な、何でもない。早く学校に行こ……っ!?」


 すると、アカネ姉がまさかのハグをしてきた!?


「えへへー……たまにはいいよね?」

「うぐう!?」


 く、くそう、俺の心がアカネ姉を引きはがすのを拒否しやがる……!


 とにかく。


 俺はこれからも、たまにエロマンガのシチュを仕掛けてくる義姉に振り回されることになりそうだ……。


 ◇


 ■黒部茜視点


 私がセイくん……黒部誠二くんと出逢ったのは、高校入試の時。


 お母さんの仕事の都合で今の街に引っ越すことになることもあって地元を離れて誰も知り合いのない高校を受けることになったんだけど……。


「あ、あの……」


 土地勘の全くない私は道に迷ってしまい、道行く人に尋ねようとするけど、元々引っ込み思案で誰かと話すのが苦手な私は、結局声を掛けられずに知らない道路で立ち尽くしていた。


 ……このままだと、試験に間に合わない。


 私は泣きそうになるのを必死でこらえ、空を仰ぐ。


 その時だった。


「……ど、どうしたの?」


 一人の学生服を着た男の子が、声を掛けてきた。

 地元の学生さんかな……この男の子に尋ねたら、教えてくれるかも。


 そう思い、勇気を出して話をしようとするけど……やっぱり私は、尋ねることができなかった。


 だけど。


「ウーン……君は困ってる、だよね? だったら、はいの時の時は頷いて、いいえの時は首を振るだけでいいから」


 そう言って、男の子はニコリ、と微笑んだ。

 私は、男の子に言われたとおり、困ってるって意思を示すために頷いた。


「そ、そっか……見かけない制服だけど、ひょっとして……転校してきたり?」

「(フルフル)」

「じゃあ次の質問、君は中学生?」

「(コクリ)」

「ええー……この街に転校してきたんじゃなくて、しかも中学生がここにいる理由って……」


 男の子は呟きながら、真剣に私のことを考えてくれている。

 本当は……私がちゃんと説明できたらいいんだけど……。


 すると。


「……ひょっとしてだけど、“海明かいめい高校”の入試を受けに来た、とか……?」

「っ! (コクコク!)」


 おずおずと尋ねる男の子に、私は何度も頷いた。

 よかった! 分かってくれた!


「はは、そっか。なら俺と一緒に行こう。実は俺も、そこで入試を受ける予定だからさ」

「あ……う、うん!」


 そう言ってはにかむ男の子に連れられ、私は無事、海明高校にたどり着くことができた。


「そ、その……ありがとう……」

「ん? いやいや、礼を言われるほどのことじゃないから。それより、四月からよろしくな!」


 男の子は手を挙げ、そのまま会場に入って行ってしまった。


「名前……聞いとけばよかったな……」


 受験票で口元を隠しながら、私はそんな男の子の背中を見つめていた。


 そして私は無事に海明高校に合格し、四月から通うことになり、下駄箱の前に貼り出されたクラス分けを確認していると。


「おー……“黒部”、お前のクラスどこよ」

「俺? 三組だったな……って」

「あ……」


 別の男の子と仲良さそうにクラス分けを見ている、あの時の男の子と出逢った。


「はは、また会ったな」

「う、うん!」

「君は何組?」

「あ、わ、私は三組……」

「お! じゃあ俺と一緒だな! 俺は“黒部誠二”。これからよろしくな!」


 そう言って、男の子はス、と右手を差し出した。

 私はその手を取って握手すると。


「うん! わ、私は“霧崎茜”。そ、その……よろしくね!」


 ここから……私の義弟になる、セイくんとの高校生活が始まった。


 ◇


「よう、重そうだし半分持つよ」

「? 女子はみんな体育館に向かったぞ?」

「なあ、俺達と一緒に昼メシ食わない?」


 入学してからというもの、周りに知り合いが一人もいない私に、セイくん……黒部くんは、いつも声を掛けてくれた。

 多分、いつも一人でいたりしているのを見て気にかけてくれているんだろう。


 それに、他の女の子達と仲良くなれるようにって、クラスのイベントがあったりする時は決まって私を誘い、女の子と隣同士になったりグループに加わるように仕向けたりする。


 そのおかげで仲の良い友達ができたけど……黒部くんが仕事は終わったとばかりに離れていくのは不満だった。

 私は、黒部くんとだって仲良くなりたいのに……。


 だから私は、自分なりに積極的に黒部くんの傍にいるようにした。

 すると、いつも彼は私に気づいてくれて、微笑んでは話かけてくれた。


 私は、それがたまらなく嬉しかった。


 それからも、私は黒部くんとたくさん話して、たくさん一緒にいて、いつしか緊張せずに冗談だって言い合えるような、そんな仲になっていて……そして。


 ――私は、黒部くんを好きになっていた。


 いつか……黒部くんに私の想いを伝えられるといいな……。


 そんなことを考えていた高校一年の終わり。


 お母さんから、再婚するって打ち明けられた。

 そもそもこの街に引っ越してきたのも、その再婚相手が住む街で、これからの生活に私が慣れるようにって配慮だった。


 そして、お母さんの再婚相手には私と同い年の男の子がいるらしく、一度顔合わせをすることになった。

 うわあ……私、黒部くん以外の男の子なんて、絶対にムリだよお……。


 そんなことを考えながら、再婚相手の人……私のお父さんになる人の家に行くと。


「え……? 霧崎さん!?」

「黒部くん!?」


 なんと、再婚相手というのは黒部くんのお父さんで、その子どもの男の子は黒部くんだった。


 私は思わず絶句する。

 だ、だって、黒部くんのお父さんとお母さんが再婚するってことは、私と黒部くんは姉弟になるってことで、もう……好きになっちゃいけない、ってことで……。


 そんな私の様子を見て察したのか、お母さんが耳打ちした。


『こういったケースでは、姉弟でも結婚できるわよ?』


 それを聞いた瞬間、私は二人の再婚を全力で応援した。

 だって、別に障害もないんだし、それに黒部くんと一緒に暮らすことができるんだから、私にとっては幸せでしかない。


 それから、私がお姉ちゃん、セイくんが弟となって一緒に暮らすようになって半年後。


 私は見てしまった。


 セイくんが、そ、その……エッチなマンガをタブレットで読んでるところを……。

 しかも、義姉と主人公との関係で、あんなことやこんなこと……。


 慌ててタブレットを回収されたからほとんど読めなかったけど、マンガのタイトルだけはバッチリ覚えた。

 えへへ……無駄に記憶力がいいのが役に立っちゃった。


 私は部屋に戻ると、早速スマホで検索して、買っちゃった。

 そして、ベッドに潜りながらそのエッチなマンガを読んだんだけど……うわあ……セイくん、ああいう積極的なお姉ちゃんが好き、なのかな……。


 でも……このマンガのお姉ちゃんみたいなことをセイくんにしてあげたら、セイくんも私のこと、意識してくれるかな……?


 私はフンス! と意気込んで、次の日に臨んだ……んだけど。


「……えへへ。セイくんはちょっと困ってたけど、その代わりに私のこと可愛いって言ってくれたし……うん、やっぱりこのマンガは、すごく参考になったよ」


 も、もちろん、セイくんとその先・・・に進む時には、今以上に参考にさせてもらうけど……。


 だから、これからも。


「えへへ……セイくん、私、もっともっと頑張って、いつか振り向かせてみせるんだから!」


 私は拳を握って気合いを入れた。


 でも。


「……部屋に鍵、いるよね……」

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