第51話「真っ黄色」

父「外痔は出血して痛みはひどいけど出血の量は少ないんだ。トイレットペーパーに少しつく程度だった。内痔は痛くないけど出血すると量が多いらしい」


娘「内痔の人は仕事中や外出中に出血したらたいへんね。知らない人なら救急車を呼ぶんじゃない?」

父「そうだね、出血を見たら命に関わると思って救急車を呼ぶかもね」


娘「お父さんは内痔にはならなかったの?」

父「俺は外痔だけだった。職場の人は内痔で肛門の外に出てくるから手術したな……」

娘「外に出てくるって、たまに聞くんだけど何が出てくるの?」


父「何だろう? 直腸の内側の粘膜かな? 冬子は、口の中を歯で噛んで血豆ができたことないか?」

娘「あるよ。針で刺して血を抜いたら、すぐに治るけどね」

父「そういうことが直腸で起こって、血豆が肛門の外に出るイメージじゃないかな? 破れたら血豆の中の血があふれだすんだろう」

娘「それなら、針で刺せば血が出て治るんじゃないの?」


父「それが、そうもいかないらしい。手術で切り取っても、また出来る人も多いようだ。俺の職場の人は注射をして患部を固めたらしい」

娘「注射で治るんなら楽でいいじゃない」

父「治るんならいいけどな……」

娘「治らないの?」

父「いろいろあって、使いたがらない医師もいるらしい」

娘「副作用があるとか?」

父「俺は、詳しくは知らないが良い面だけではないようだ。冬子は抗生物質を知ってるだろ?」


娘「抗生物質? ペニシリンとか?」

父「そう、腸の中に悪い菌が多くなった時に、悪い菌を殺す薬」

娘「病気が治っていいんじゃない?」

父「そうだね。抗生物質のおかげで命が助かった人も多いからね」

娘「それじゃーいいんじゃない? 抗生物質!」


父「いざという時はね。でも、使わなくても何とかなりそうな時は使わないほうがいいと思うよ」

娘「それは、なぜ?」

父「抗生物質は、菌を皆殺しにするらしいんだ。昔から腸にいる良い菌もいなくなってしまい。病気が治っても体調が崩れるようだ」


娘「薬の副作用みたいなものかな?」

父「効く薬は副作用も強いようだね。できれば、痔も初期なら指で押すくらいで治したいと思わないか?」

娘「それは、そうね。それで治るなら……」


父「完全ではないけど、俺は不自由しないで痛みもなく排便できるようになった」

娘「いいね、それを教えて」

父「そうだな、簡単に言えばお尻の骨の内側から肛門までを指圧するってことだ」

娘「それだけ?」


父「昔の本ならそれだけかな? 間違いではないけど、それだけでは分からないだろ?」

娘「分からないね……」

父「実際に指導を受けて、そういう文があれば思い出してわかるんだけど、指導を受けてないと分からないんだ」

娘「おじいさんも仙術書はわかりずらいって言ってたけど、そういうこと……」


父「そういうことだね。まず指圧と言っても直接指圧するのか衣服の上からするのかだね」

娘「どうやるの?」

父「決まりはないが、人それぞれで何々流になるんだが、俺のやり方だから、三日月流だ。俺は最初、下着の上から押していた。パンツの上では生地が薄いので、パンツとももひきをはいた上から押すと具合がよかった」


娘「なるほど、パンツとももひきの上からね……」

 冬子はノートにメモを取った。


父「次に姿勢だ」

娘「うん、姿勢ね」

父「姿勢が大切なんだ。最初は試行錯誤して便座に方足を乗せて、乗せた足の膝に自分の胸が着く姿勢を取って、ももひきの上から押すんだ」

娘「トイレの中でできるならいいね」


父「トイレの中でできるけど、めんどうなので、実は、あまりトイレではしなかった」

娘「……どこでやってたの?」

父「自分の部屋でテレビを見ながらやっていた。横になって右側15分、左側15分と30分の番組をみながらやっていた。ちょうど15分でコマーシャルになるから、体の位置を反対にかえてな」

娘「1日30分!? それで良くなったの?」


父「いや、良くはならなかった。現状維持で悪くはならなかった」


娘「微妙だね」

父「やりかたが間違っていたんだ。まず、姿勢がダメ、時間も長すぎた。そういえば、ナオちゃんが感染症で、病院に隔離されたことがあったな……」

娘「小学生の時?」


父「小学6年生の時だ……何の病気だったか忘れたが、伝染る病気なので、お見舞いも禁止だった。久しぶりに学校に来た時は、なぜか歯が真っ黄色だった……今でも、あの歯は覚えているよ。薬の副作用なのかな?」

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