第46話「三つの袋」
娘「それでは、お父さん、お尻が痛くなった原因から教えてください」
冬子はノートにメモをとりながら勘蔵の技を教わっている。
父「原因か、直接の原因は、あれだよ、あれ、石だよ!」
娘「ナオちゃんさんと行ってた釣りで座っていた石? 岩?」
父「岩だな。夏場はいいんだよ、暖かいから。秋になって岩が冷えていたのは知っていたんだが、面倒だからそのまま座っていたんだ。座布団の一枚もひけば良かったんだが、座布団が汚れるからとケチった結果だ。後悔先に立たずだな……」
娘「え〜っと、原因は座布団をケチったと……」
ノートに記入する冬子。
父「原因と聞かれたら、そうなるけど、他にも加齢はあるぞ。お尻の筋肉が減っているんだ」
娘「お尻がたれるって良く言うけど、男の人もたれるの?」
父「垂れるか!? どうだろう、垂れる感じはないが薄くなるような気がする。ふかふかの座布団が使っているうちにペタッとなるような」
娘「そうね、歳を取ると下半身の筋肉は減っていくように感じるわね」
父「椅子に座っていてお尻が痛くなるなんて50歳以前にはなかったんだ。お尻といっても臀部だぞ、筋肉の部分」
娘「50歳くらいから筋肉は減るのかな?」
父「どうしてお腹が減るのかな? みたいだが、筋肉は減るね。特に下半身だな。昔はあぐらをかいた姿勢から、そのまま立ち上がることができたが、今やテーブルに手をついて“よっこらしょ”だ。もっと歳をとった人は靴下を履けないって、よく聞くんだ。やっぱり、老化は足からだな」
娘「足の老化がお尻の筋肉の減少になるの?」
父「どうなんだろうな? 筋肉は鍛えれば何歳からでも増えるようだけど、筋肉を鍛えるのって辛いからやりたくないんだよな……俺は三日坊主で終わりだ」
娘「お尻の導引は辛くないの?」
父「あれも痛い時はやるよ。痛みから抜け出したくて、でも、痛くなくなるとやらないんだ。面倒だから……」
娘「お父さん、本当に面倒くさがりだよね。プラモデルも途中のやつがいっぱいあるもんね」
父「なんか、作るのが面倒になるんだよね。2~3時間でできるんならいいけど、何日もかかるやつは途中で作る気力がなくなってしまう」
娘「根気が無いの? 人間には三つの気が必要だとか言ってなかった?」
父「三つの気? なんだっけ? 根気、元気、やる気か? これは、俺じゃないぞ。学校でよくいってたんじゃないか?」
娘「そうだっけ? 校長先生だったかな?」
父「それじゃ~っ、結婚に必要な三つの袋は知ってるか?」
娘「それ知ってる。最初に聞いた時は感動したけど、何度も聞いたら飽きるね」
父「オチを知ってるからな、でも大切な事ではあるんだ。冬子の結婚式に言ってやろうか?」
娘「別のがいいな……」
父「そう言うな、あれも深いんだぞ。第一の袋が堪忍袋。破れたら縫え、破れたら縫えってな。短気をおこすと後から後悔する。何も結婚だけじゃない。仕事でも習い事でもそうだ、上の者に反発したらもう教えてもらえないぞ。導引でも習い始めた者が、こうした方がいいんじゃないですかとか、全然効かないなんて言ったら、もう本気で教えてもらえないかもしれない」
娘「へ〜〜っ、そういう意味なの」
父「二つ目はなんだっけ?」
娘「巾着袋じゃない?」
父「そうだ、そう、そう。巾着袋。巾着袋は給料袋のことで、仕事を大切にして生活に必要なお金を切らさないようにしようという事だ」
娘「そうだったの、なんとなく聞いていた」
父「三つ目は『金○袋』と言う人もいて、これも大切だが、ここは、やはり『お袋』だろうな。結婚相手は親を見ろってくらいで親の影響は大きいからな、俺もいまだに親が嫌がるだろうと思うことはできない。親のしつけは大人になっても続くぞ。昔の結婚は家と家の結婚だったからな」
娘「昔は、お見合い結婚が多かったの?」
父「そうらしい。身分とか家柄とかもあったらしいからな。戦争中は顔も見たことのない者と結婚なんてのも普通にあったらしい」
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