第33話「雪に飛び込む」

 

父「冬に雪の上に乗っかる遊びをしていたんだ」


娘「小学生の時?」

父「そう、6年生の時、ナオちゃんとあと2名で、高い所から雪の積もっている所に飛び込む遊び」

娘「それ、面白いの?」

父「面白いよ、みんなでやるとね。あと、溶けかけたスケートリンクの上を歩いたりね」


娘「あたしは、やりたくないかな……」

父「面白いんだけどな……それでさ、雪に飛び込んだやつが血だらけになったんだ」

娘「なんで、氷?」

父「いや、畑の上に飛び込んだんだ。雪が積もっているから分からなかったけどね」


娘「畑で血が出るの?」


父「竹を切ったのがあったんだ、巻き付けたりするのに使うやつかな?」

娘「トマトとかを付けるための細い竹?」

父「俺はトマトは食わないからよくわからないけど、とにかく竹の先が尖ったやつにお尻が刺さったんだ」


娘「えっ、まさか真ん中に刺さったの!?」


父「いや、真ん中ではないんだ、横というか、本当のお尻。ジーパンをはいていたのが良かったんだろうけど、ジーパンは破けてお尻から血が流れていたよ」

娘「横でもたいへんだね。救急車を呼んだ?」

父「近所の家に行って電話で呼んでもらった。その頃は携帯電話どころか、家の中にも電話が無い家が多い時代だからね」


娘「それで、どうなったの?」

父「引っ掻いた傷で深くは刺さらなかったので入院もしなかた」

娘「良かったわね、真ん中じゃなくて」

父「そうだね。もし真ん中で肛門を締め付ける筋肉が切れたら大手術か、一生もらすようになったかもね……」


娘「本当の真ん中に入っても大変だったわね」

父「串刺しか!? でも、そういう事故もあるらしいよ。後ろに転んだひょうしに鉄筋が刺さったとか。まっ、工事現場とかでね」

娘「あたしの友達がスキーで転んでお尻を切ったってのがあったな……」


父「どんな転び方してるんだ? 俺は新婚旅行でハワイに行ってジェットスキーをやったけど、あれも危険なんだ」

娘「ジェットスキーってスクリューは無いんじゃないの?」

父「水圧が凄いんだ。後ろに転んだ拍子に水圧がちょうどお尻の中に入っちゃう事があるらしくて講習で注意していた」


娘「はははははっ、お尻の中に水が入るの?」

父「水が入るだけならいいけど、水圧で腸が破れる事故があったらしい」

娘「えええぇぇ〜っ、それは笑い事じゃないわね」

父「ハワイまで遊びに来て、腸が破れたら、それはたまらん。治ればまだいいけど……」

娘「治らなかったの?」


父「その後は知らない。だいたい、どうやって縫うんだろう内側からでは手が入らないだろう……腹を切り開いて縫うか?」

娘「直腸を切り取る手術ってよくあるよ」

父「そうだよな、俺の職場でもいたよ。腸を切り取った人」

娘「腸を切り取る機械と腸と腸をつなげる機械があるそうよ」

父「そんなのがあるのか、便利な物があるな、俺は使いたくないけど……」



娘「お父さん、学校の先生に怒られたの? 竹が刺さった時に」

父「えっ!? 竹が刺さった時か……どうだったかな? 怒られはしなかったな。でも、雪に飛び込む遊びはしないようにって言われたな……」

娘「そうなの、あたしはてっきり殴られたんだと思った」


父「背中を押して雪の中に入れたわけじゃないから、自分で飛び込む遊びだからな……」

娘「それでも、事故とかあると学校に行きづらいんじゃない?」

父「そうだな〜先生に怒られたら、やっぱり学校に行きたくない時はあったな。体温計を服で擦って熱があるって何回か仮病で休んだ」


娘「お父さんもそういう事があったの」

父「それはあるよ。そういえばこのあいだ灯油を買いに行ったんだ。歩いて」

娘「車で行かなかったの」

父「運動をかねてなるべく歩くようにしているんだ。10リットルの灯油だからね」


娘「それが、何かあったの?」

父「ガソリンスタンドのそばにパチンコ屋があるだろ」

娘「あるね……」

父「それでパチンコ屋の入口にロッカーがあるんだ、中が見える無料のやつ」

娘「うん、知ってる……」

父「それで、そのロッカーに灯油のポリタンクを入れてパチンコを打っていたんだ。もちろんポリタンクの中は空だぞ」


娘「結局、打ったんだ……」

父「そうしたら、1時間くらいして店員の人が来て『ロッカーにポリタンクを入れてませんか?』って言うんだ」

娘「よく分かったね、お父さんが入れたって」

父「たぶん、ロッカーにポリタンクが有るのを誰かが見て店員の人に言ったんだろう。そして、カメラで録画したのを確認して来たのだと思う。最近の監視カメラは人の顔までわかるんだな……」


娘「あれでしょ、パチンコ屋さんの中にガソリンをまいた事件があったから警戒してるんじゃない?」

父「たぶん、そうだろうな。ロッカーを開けて中身が入っていないか確認したいって言うんだ」

娘「それは、しかたないかもね。自分の店にガソリンをまかれたら大変だもの」

父「そうだよな、ポリタンクにガソリンを入れてはいけないんだが、自分で入れることはできるもんな……結局、確認して、空のポリタンクならロッカーに入れて良いってことになったんだ」


娘「それは良かったんじゃない?」

父「別に問題にはならなかったけど、小さい店だろ、なんだか居心地が悪くなってすぐに出たよ」

娘「まぁ、なんとなく気持ちはわかる……」

父「学校でも、店でも狭い空間なんだから、何かあると居心地が悪くなるよ……」

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