第30話「不登校」


父「会社のトイレの大の方でウォ○ュレットでやたらと長く洗っている人がいるんだ、俺がオシッコをしている間中、聞こえている。俺も洗っていた時期があるが、洗らいすぎるのはよくない」


娘「洗いすぎると痒くなるの?」


父「皮膚には、皮膚を守る良い菌がいるらしいんだ。その良い菌はお尻を綺麗にしてくれるらしくて、洗いすぎると良い菌までいなくなってしまうらしい」

娘「それ、ボディーソープであったよ。良い菌は残すって」

父「全身に良い菌がいて体を守っているんじゃないかな? 体やお尻も洗い過ぎると、かえって皮膚に良くないだろうな」


娘「お父さんが、お尻が痛くなった時は、ナオちゃんさんは、お尻は痛くなかったの? 一緒に釣りをしていたんでしょう」


父「ナオちゃんか、どうなんだろう、何も聞いていない」

娘「ナオちゃんさんは健康だったの?」

父「どうだったかな? リュウマチで手が痛いと言っていたな……」

娘「リュウマチは女の人が多いんじゃないの?」

父「あれは冷えでなるんだろ、寒い冬にバイクで郵便配達ならなってもおかしくない」


娘「導引にはリュウマチの治し方はないの?」

父「あれは免疫の異常だから、薬草風呂と腹を揉んだらよくなるんじゃないかな? 昔の本に、リュウマチで寝たきりになり、薬をのんでも良くならず、絶望していた女性が、自分のお腹を揉むと体調が良くることを発見して、自力で治したというのがあったな」


娘「それは、ナオちゃんさんには教えなかったの?」

父「一応教えたけど、やらなかっただろう。導引に興味はなかったからな……」

娘「男の人って導引やらないよね。なんで?」

父「それは、めんどくさいから。体かたいし……」


娘「病気になってもやらない人はやらないよね」

父「やらないね。病気は菌やウイルスでなるので病気になったら病院に行って注射して治してもらうっていうのが、子供の時の教育にあるんじゃないかな? もっと昔は、鬼や悪い虫で病気になると信じられていて、病気になったら祈祷きとうをしてもらっていたらしいからね。体を動かすことで病気を治すという考えは一般的ではないかもしれないね」


娘「お尻が痛くても祈祷していたのかな?」

父「やっていたと思うよ。高貴な人なら、僧侶にお経をあげてもらったり、巫女に踊ってもらってたんじゃないかな」


娘「ナオちゃんさんは、お寺で厄払いとかはしなかったの?」

父「厄払いか、さそわれて、一緒にしたことがあったな。お祓いしてもらって、塩と箸をもらった……なんでしてもったのかは忘れたけど、その頃、体調悪かったのかな?」


娘「ナオちゃんさんは、あまり喋らない人だったの?」

父「いや、いや、とんでもない、さわぎまくる人だったよ。クラスで目立つ子。タレントで言うと、明石家さ○ま」

娘「そうなの?」

父「そうだよ、一緒にそろばん教室に行ってたけど、うるさいんだ。よく女の先生に怒られてた」


娘「お父さん、そろばんできるの?」

父「いゃ、できない……もう、そろばんも持っていない」

娘「何年も行ってたの?」

父「小学5年から6年の2年間かな?」

娘「そろばん使いなよ」


父「俺は、そういう計算とか苦手だ」

娘「ナオちゃんさんもそろばん苦手だったの?」

父「ナオちゃんは順調にすすんだ。小学6年生で2級取っていたよ」

娘「お父さんは?」

父「俺は……3級だ」


娘「3級は持っているんだ……」

父「3級は普通だな。ナオちゃんは、そろばんはできたんだな……でも、騒ぎまくっていた」

娘「どんなふうに?」

父「机の足を乗せる板があったんだけど踏みまくって壊したり……あっ、トイレから出て来た奴をからかいまくっていたな……」

娘「なに、それ?」


父「ナオちゃんがトイレに行ったら、ちょうどトイレから出て来た男の子がいたんだって、学年は一つ下で、その男の子がズボンを下げてお尻を出したままで『紙が無い』って言ったらしい」


娘「お尻を拭かないで出てきたの?」


父「そうらしい、それから、そろばん教室で、そいつのあだ名が『紙』になった。学校でもみんなに話して、給食の時に牛乳飲んでいると『紙が無い』って言うんだ」

娘「牛乳を飲む時に何か言うのは定番なんだね」


父「よくやっていたね。牛乳を吹き出すのが面白くてな……風邪をひいて学校休んだ人には、給食の余りを家にいっぱい持って行ったりとかして遊んでいたね」

娘「ナオちゃんさんはガキ大将だったの?」

父「暴力はふるわないけど、口は回ったね。一日中喋っていたんじゃないかな? トイレなんかでも、学校で大の方に入った奴を見つけたら、仲間を集めて下から覗いていたからね。もちろん男子だけど」


娘「それは、困った子?」


父「ナオちゃんと雪合戦したら、雪の中に石が入っていたこともあったな」

娘「それはまずいんじゃないの?」

父「雪の中に石を入れる奴は他にもいて、俺は頭に当たって血が流れたことがあったよ」

娘「それは大問題になるんじゃないの?」

父「いや、何も問題にならなかった。時代かな?」

娘「そんな時代なの?」

父「学校の先生も生徒を叩いていたぞ。流石にまずかったようで次の年に転勤になったけどな」


娘「生徒を叩いてもいい時代なの?」


父「いゃ、戦時中じゃないから生徒を叩いたらダメだよ。クラスに不登校の奴が一人いたんだ」

娘「昔も不登校っていたんだ」

父「そいつはクラスの中でケンカして、椅子を振り回して先生に怒られたんだ。それから学校にこなくなった。当時はプロレスが流行っていてテレビでパイプ椅子を振り回すシーンが何度も放送されていたからね。そいつは先生に怒られる前も何回か椅子を振り回していた。皆んなは、そいつのことを発○魔神と呼んでいた」


娘「それは……ナオちゃんさんなの?」

父「いや、ナオちゃんはケンカはしなかった。そいつはしばらく学校に来なかったんだけど、久しぶりに母親と一緒に学校に来たんだ」

娘「よかったじゃない」


父「けれど、ドアの前で立ち止まったまま教室に入ろうとしないんだ。それで先生が母親が目の前にいるのに、その不登校の奴を持ち上げて床に叩きつけたんだ」

娘「えっ、それ、お父さん見てたの?」

父「うん、見てた。今でも鮮明に覚えている。たぶん、先生もプロレスを見てたんだろうね。30代の男の先生で、まるでプロレスのワンシーンのように、生徒を胸まで持ち上げて床に叩きつけたんだ」

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