第29話「天ぷら屋さん」
父「ナオちゃんは高校を卒業してから、天ぷら屋さんに就職したんだ。俺と高校は別だったけど、就職先は教えてもらった」
娘「料理が好きだったの?」
父「どうなんだろう? 俺はナオちゃんの料理を食べたことはないが、当時、料理の漫画が流行っていて、俺の同級生も高校を卒業して料理の店に就職したのが何人かいたな……」
娘「お父さん、ナオちゃんさんの勤めているお店には行ったことあるの?」
父「高校を卒業して就職した次の年のお正月に食べに行ったよ。親父とお袋を連れて、俺の給料で会計したんだ」
娘「へ〜っ、凄いじゃない。それで、ナオちゃんさんが天ぷらを作ってくれたの?」
父「いや、まだお客さんには作らせてもらえなかった」
娘「あ〜っ、そっか、残念。ナオちゃんさんは、ずっと、天ぷら屋さんで働いていたの?」
父「いや、2年くらいで辞めて、俺が自動車の工場から戻ったら郵便屋さんになっていた。ナオちゃんは、背が高いから料理するにも皿を洗うにも台が低過ぎるんだ。台所は160~170cm位の身長に合わせてあるだろうから、2mの身長では特注の台でもないと腰が痛くなるよ」
娘「直ちゃんさん、腰が痛いって言ってたの?」
父「腰が痛いのはしょっちゅう言っていた」
娘「それは残念ね。でも、郵便屋さんもいいじゃない冬は大変だろうけど」
父「若い頃はバイクに乗って郵便を配達していたみたいだよ。歳取ってからは亡くなるまで内勤だったらしいけどね。バイクも身長に合わなかったんじゃないかな……」
娘「仕事中の事故じゃなかったんだ」
父「そうなんだ、仕事中ではないんだ。雪のある冬の道をバイクで走るのは危ないだろうけど、そういう事故ではなかった」
娘「学校を卒業してからも会っていたの?」
父「たまに会って飲んでたよ。40歳の後半くらいに、ナオちゃんはキャンプと釣りにはまって、俺も一緒にいっていたんだ」
娘「そういえば、お父さんテントとか持ってるね」
父「何回か一緒に行ったろ」
娘「うん、行ったね。覚えてる。魚釣ったね」
父「あれがな……」
娘「どうかしたの?」
父「山や川でキャンプして魚を釣ってたろ」
娘「そうだね、焼いて食べたね」
父「あの時、釣りをするのにちょうどいい椅子になる岩があったんだ」
娘「それも覚えてる、岩に座って魚釣ってたね」
父「そうなんだ、実に座り心地が良かった。まるで誰かが釣り用に作ったのかと思うくらいに……」
娘「それは、いいんじゃないの?」
父「いいんだけどな……」
娘「なにかあったの?」
父「座布団を使うべきだった……」
娘「お尻が冷えた?」
父「何度かキャンプして寒くなっても行ってたんだよ、そしたら……」
娘「そしたら……」
父「お尻が痛くなった……」
娘「それは痔?」
父「そう、トイレが辛くなった」
娘「その時は、トイレットペーパーで押してなかったの?」
父「トイレットペーパーの使い方に気が付いたのはつい最近なんだ。小学校の授業でトイレットペーパーの使い方を教えた方がいいんじゃないかな?」
娘「小学生に教えるの?」
父「このあいだ、仕事がひまになって皆んなで仕事で使うカバーを縫ったんだよ」
娘「縫い物? 手でやったの?」
父「そう、手縫い、男の人もやったんだ。そうしたら、小学校の家庭科で習った縫い方を覚えている人が多いんだよ」
娘「男の人もできるの?」
父「糸の結び方とか、小学校で習ったことを覚えていて、なんとなくできるんだ。別々の小学校でも同じ授業をしてるんだな。やっぱり教育って凄いと思ったよ!」
娘「そうね、糸の結び目の作り方とか、教わらないと分からないわね……」
父「そうだろう、基本的なことは教わらないと、なかなかできないよ。だから、お尻の拭き方も学校で教えるべきではないかな?」
娘「そういうのは、親が教えるんじゃないの?」
父「親も知らないよ。だいたい俺もいろいろ試して、やっと気が付いたんだ」
娘「それじゃ〜誰も知らないんじゃないの?」
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