第28話「ナオちゃん 2」


父「ナオちゃんの話しをしよう。まあ、供養だと思って聞いてくれ」

娘「うん、いいよ」


父「ナオちゃんは、俺の小学校の同級生で5年生と6年生の時に同じクラスだったんだ。もともと近所だから知っていたけど、町内会は道路を挟んでいたから別だったんだ」


娘「身長2mの人でしょう?」

父「そう、デカかったな〜〜っ。正確には2m以上あったんだ。小学6年生で180cmだった!」

娘「おっきいね。お父さんは小学生6年生の時は何cmだったの?」

父「俺か……165cmくらいかな? クラスでは、後ろから3番目の身長だった」

娘「中学生ではあんまり伸びなかったんだね」


父「そうだね。でも、今、俺は172cmで普通だけど、幕末の英雄、坂本竜馬も同じくらいの身長だったらしくて、坂本竜馬は当時大男と言われていたんだぞ」

娘「自動車工場の坂本さんはもっと小さかった?」


父「あの、坂本さんはもういいよ。思い出すと怖い。ナオちゃんの家は、不思議なアパートの部屋だったんだ」


娘「不思議なアパート? あたしも知ってる?」


父「冬子が生まれる前にアパートは取り壊したから、冬子は知らない」

娘「なんだ……」

父「玄関を開けると階段があるんだ、それが長い! 今、考えたら3階だったんだな。真っ直ぐに3階まで階段が伸びていたんだ」

娘「それは、変わっているわね。鉄筋?」

父「まさか、木造だよ」

娘「木造3階建て?」

父「そうなんだ……同じそろばん教室に通っていて、下から『ナオちゃん〜!』って叫んで、一緒に行っていた」


娘「チャイムとかインターホンは無かったの?」

父「ない、ない! 昔だから、家の玄関も寝る時しかカギを閉めない時代だよ」

娘「昔は、みんなそうだったの?」

父「そうだよ。小学生の時は家に電話があるのがクラスで半分くらいで、テレビも白黒だったかな?」


娘「テレビゲームとかも無かった?」

父「ない、ない。俺、テレビゲームしないだろ。子供の時に無かったからやり方も知らないんだ」

娘「そういえばそうだね、なんでやらないのかと思ってた……やり方知らないの?」

父「やったことはあるよ。でも、子供の時にやってないから、そんなにやる気にならないんだ……」

娘「お父さんの子供の時って、どんな遊びをしてたの?」


父「子供の時ね……ナオちゃんが野球が好きで野球ばっかりだったな……」


娘「へ〜〜っ、それ初めて聞いた。お父さんテレビで野球見ないじゃない」

父「俺は、あんまり野球は好きじゃなかった……」

娘「野球してたんでしょ?」

父「やってたね。なんとなく……親父が野球を見ないだろ、だから、俺も野球はルールもよく知らないでやっていたんだ」


娘「そうだね、おじいさん野球見なかったね。相撲はよく見てたけど」


父「そうなんだ、親父は昔から相撲が好きで、相撲の放送をしている時間は他の番組は見せてくれないんだ」

娘「整骨院でも相撲のテレビを見ながら仕事してたよ……それで、野球の他は何をしてたの?」

父「小学生の時か? あ〜〜っ、凧揚げが流行っていたな」

娘「凧揚げ? 最近は見ないね」


父「ゲイ○カイトって知らないか?」


娘「なんか、聞いたことある。三角形のやつかな?」

父「そうそれだ! あれが流行っていて、よく電線に引っ掛かってる凧があったな……俺は、正月には凧揚げをするもんだと思っていて、小学生の時に正月に凧揚げをしたことがあるんだ」


娘「へへっ、ここで? 真冬じゃない……」


父「俺もずっと変だと思っていたんだ。こんな雪のなかで凧揚げをするのかって? 寒くて楽しくなかった」

娘「あれは暖かい土地でのお正月でしょ?」

父「そうなんだよ。自動車の工場に行ってた時、正月って暖かかったんだ。こっちみたいに氷点下じゃないんだ」

娘「ここは寒いからね……」


父「年賀状に新春のお慶びを申し上げます。なんて書くじゃない」

娘「うん、書くね」

父「向こうじゃ、正月は本当に春なんだ! ポカポカしてたもんな、あれなら凧揚げもできるよ」

娘「そうなんだ」


父「正月と言えば、向こうで初めて伊勢エビを食べたぞ!」

娘「えっ、伊勢エビ!? いいな〜っ」

父「こっちでは正月でも伊勢エビは見かけないもんな。市場でもカニばっかりだ」

娘「そうだよ、あたし食べたこと無い!本物を見たこともないよ」


父「名古屋の食品街で、いっぱい売ってた。伊勢エビを半分に切って上にグラタンを乗せてオーブンで焼いた物が千円だった」

娘「食べたの?」

父「食べたよ、何個も……」

娘「何個も……美味しかった?」

父「美味しかったよ。半分は頭だけどね、伊勢エビは姿が綺麗だね」

娘「あたしも食べてみたいな……」

 じ〜っと、勘蔵を見る冬子。


父「こっちでは、売ってるの見たことないから……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る