第27話「痒くなる」

 

父「お尻を揉みすぎたせいか、お尻が痒くなったことがあった」


娘「お尻って、あっちの方かな?」

父「そう、出口の方ね。そのころウォ○ュレットをよく使っていたんだ」

娘「お父さん、ウォ○ュレットは使わないんじゃなかった?」

父「ウォ○ュレットを使えないほど痛くなったのは後の方で、最初の頃は、まだウォ○ュレットを使っても大丈夫だった。綺麗にしたら治るような気がして良く使っていたが、かえって良くなかったようだ」


娘「痒いって、どのくらい?」


父「このくらい」

 勘蔵が肩幅より少し広く手を開いている。

娘「……わかんないけど、痒かったのね」

父「人前でも掻きたくなるような強烈なものだった」

娘「薬に痒み止めはなかったの?」

父「今はドラッグストアでも、お尻の痒み専用の塗り薬が売っているが、当時はなかったと思う。俺の使っていた安い薬にも痒み止めの成分は入っていたが、痒かった。寝ていても痒みで目が覚めるんだ」


娘「寝ていて痒くなるの?」


父「そうなんだよ。便って朝に出す人が多いだろ。寝ている間に便が出口まで動いてくるから、それで痒くなったんだと思う」

娘「そういうものなの、掻いたらよくなるの?」


父「掻くより押したらだいぶおさまった、寝てる時はできるけど、仕事中は困った」


娘「病院いったらよかったのに」

父「病院か……手術しましょうなんて言われたら怖いからな……」

娘「手遅れになってたら大変だよ」

父「わかってはいるが、肛門科は敷居が高いよ。見せないとならないからな……女の人ならなおらさじゃないか?」

娘「若い女の子は恥ずかしいだろうね。男の先生だったら顔から火が出るんじゃない?」


父「若い女の子は痔にはならないような気がする。特に綺麗な子は……」

娘「男の人って、綺麗な女の人はトイレに行かないと思ってない?」

父「わかってはいるけど、そういう幻想は持ってるな。昔のアイドルは、トイレに行くなんて言わなかったし、ピ○ク・レディーもトイレには行かないと思っていた」


娘「お父さん、ピ○ク・レディー好きだね」


父「ちょうど、俺が思春期の頃に大ヒットしていたんだ! あの体の露出の多い衣装で踊られたらたまらなかった」

娘「ビデオに撮っていたの?」

父「その頃は、まだ家にビデオはなかった。テレビにかじりついて見てたよ」

娘「ピ○ク・レディーのサインとかあったら大変だね」


父「それが、俺が中学生の時に雑誌に4コマ漫画を投稿して、大賞を取ったんだ。賞品がピ○ク・レディーのサイン色紙だった!」


娘「凄いじゃない! 人気のある時でしょう」

父「人気絶頂の時だ。しかし賞品は届かなかった……」

娘「なんで?」

父「さぁ、なんでだろうね?」

娘「雑誌社に電話とかしなかったの?」

父「そういうのはしないな」

娘「そんなもんなの?」

父「昔は、あまりそういうことはしなかったと思うよ」


娘「それで、お尻の痒みはどうなったの?」

父「あぁ、痒みか……ピ○ク・レディーが、お尻を掻いていたら100年の恋も冷めるな……冬子も彼氏の前でお尻を掻くなよ」

娘「そうなの?」

父「女の子のスカートの中には凄くいい物があるような気がするんだ」

娘「いまだにそんなことを思っているの?」

父「なんでだろうな? 世の中が密かにそういう暗示を男性にかけているんじゃないのか? それとも本能か? 男のズボンの中には1ミリも興味がないがな……」


娘「お父さんは、男の人には興味はないの?」


父「恋愛の対象ではない。バレンタインにチョコをくれた男の人がいたが、冷や汗が出た! 共用の風呂で男の裸を見ても何とも思わないし、むしろ中年のおじさんのお尻を見たら気分が悪くなった」

娘「自動車工場で?」

父「そう、股関にタオルをあてて前後に引っ張って洗うおじさんがいて、まるでコントだった。風呂場の椅子は汚いと言って椅子に座らないで、しゃがんだまんま体を洗っていたおじさんもいたな」


娘「寮のお風呂って大きかったんでしょ」


父「お風呂は立派だった、同じ時間に帰って来ていっぱい人が入っても余裕があった。バスタオルを体に巻いて湯舟に浸かっていた奴もいたよ」

娘「バスタオルって、テレビの温泉に浸かる人みたいに?」

父「そう、共用の風呂の入り方を知らないんだろうな」


娘「共用のお風呂って入り方があるの?」


父「それは、あるよ。まず体を洗うかシャワーで汚れを取ってから湯舟に浸かるんだけど、湯舟にタオルを入れてはいけないというのが普通だな」

娘「タオルで隠さないの?」

父「湯舟に浸からない時は隠すけど、見る人もいないよ。むしろ見たくない。一度、とんでもないのを見たが、あれは病気だな……」


娘「何を見たの?」


父「自動車の工場で、膝くらいまである若い男がいたんだ」

娘「膝くらいまである? 何が……」

父「あれだよ。俺も見て信じられなかった」

娘「……あれか?」


父「西郷隆盛先生が南の島の牢獄に入れられて、蚊に刺されて“フィラリア”という病気になったらしいんだ。それで、西郷先生の股関のリンパ液が溜まって、子供の頭くらいになって馬に乗ることができなかったという記録があるらしい」


娘「そんな病気があるの?」


父「あるらしい、足にリンパ液が溜まる象足病ってのもあるし、手術で股関や脇のリンパ節を取った人もリンパ液が溜まるようだね」

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