第23話「秘伝?」


父「よし、今度こそ秘伝を話すぞ」

娘「まだ話してなかったの? ハンバーグで忘れてたよ」


父「せっかく話す気になったんだから聞いてくれ。三日月流の導引に『水の姿勢』があるじゃないか」

娘「うん、腎臓のぎょうね」

父「あれは手を背中に入れて左右に揺らすだろ、これをお腹に手をあてて同じように揺らすんだ」

娘「ん? お腹に手……あお向けに寝て膝を曲げて、お腹に手を当てて揺らす……」

 冬子は椅子から立ち上がり、床に寝て勘蔵の言う秘伝をやってみた。


父「そう、糖尿病だから肋骨の下に右手を当てて、すい臓を狙ってそのまま膝を右に倒す、膝を戻してまた倒す。左側をやる時は左手で肋骨の下を押さえて左に膝を倒す。便秘用には手を腸や膀胱に当てて同じように膝を倒す。これをゆっくりとやる」


娘「なるほどね、お腹を押して膝を動かすのは、おじいさんの導引にはないね」


父「俺が閃いた!」


娘「凄いけど、秘伝には今一歩じゃないかな? 水の姿勢の変形で、『歩きながら腎臓を押さえる行』に似ている」

父「なんだ、『歩きながら腎臓を押さえる行』を知っているのか? 残念だ……」

娘「講習会で、おじいさんがいろんな腎臓の行を教えてくれたよ。じゃがいものポタージュのスープを飲むとかもね」

父「じゃがいもか、腎臓病には治す薬がないから、じゃがいもが効くってやつだな。本当に効くかは疑問だが、腎臓は毛細血管の固まりだから毛細血管を広げる温泉やお風呂が効く気がするが、親父もいろいろと教えているんだな……お腹を押すのは、女の人は生理中は押したらダメだぞ。あと内臓や血管に異常があって押したら破れるような人は、当然だけど押したらダメだよ」


娘「血管が破れたらどうなるの?」


父「それは、血液が漏れてアウトでしょう。有名なアニメの声優が車の運転中にお腹の血管が破れて亡くなったのはショックだったな〜」

娘「事故じゃないの?」

父「うん、事故ではなくて、車の運転中にお腹の血管が破れたみたいだよ、まだ若かったのに、ボールを七つ集めたら生き返らないかな?」

娘「ドラ○ンボール?」

父「そう、ブ○マ、俺、あの人のきつめの性格と声が好きだったんだ」

娘「あの人、性格が、お母さんにちょっと似てるね」

父「……そうだね」

 なぜか汗ばむ勘蔵。


娘「夜間頻尿は、湯たんぽを持ってスクワットしてそのまま頭の上に持ち上げるのと、お腹に手を当てて膝を倒す動きで良くなる?」


父「あと、膝を上げるんだ。足を上げる筋肉が弱るから、柱に掴まりながら膝をゆっくり上げる動き」

娘「なるほど、その三つ?」

父「追加するなら股関節周りをなでるんだ、座っている事で血管が曲った状態で何時間もいることがある、それで膀胱まわりの血流が悪くなることもある」

娘「それで終わり?」

父「ふくらはぎももむ、某番組で足を上げることでふくらはぎに溜まった水分が改善されるとやっていた」

娘「他には?」

父「足湯で温める」

娘「まだある?」

父「仙骨をなでる」

娘「もういい?」

父「股関節を回す」

娘「終わったかな?」

父「これは、やったことはないけれど漢方薬でニワトリのトサカが効くとか……」

娘「あとは?」

父「骨盤底筋体操」

娘「ここで出るの!?」

父「決めては金の姿勢、『舟をこぐ』だ! これは仙骨から出る副交感神経に関係するから、オシッコが緊張で漏れそうになるのを治してくれる」

娘「舟をこぐか、おじいさんもよくやってたよ」

父「そんなものかな? 病院に行けば薬もあるようだし、ドラッグストアで漢方薬の八味地黄丸も効くらしい」


娘「夜間頻尿は若い人も困っている人が多いらしいわよ」

父「女性は出産で筋肉が切れたりするらしいね、尿だけじゃなく、お尻の方も筋肉が切れたりして大変なようだ」

娘「それは導引で治るの?」

父「筋肉が切れたのは病院に行かないと無理。病院にいっても治るのと治らないのがあるみたいだ」

娘「お尻も困っている人は多いんでしょう」


父「成人の3人に1人は痔で困っているらしい」


娘「それじゃ、お父さんが教えてやらなければ」

父「俺のやり方で助かる人は多いと思うよ。初期のいぼ痔と切れ痔なら良くなると思う」

娘「お父さんは、どのくらい悪かったの?」


父「俺か……恥ずかしながら、紙で拭くのが辛い時、あんまり痛いので鏡で自分のを見たことがあるんだ。自分の肛門を見るのは、本当に嫌で痔になってもずっと見なかったんだ」

娘「うん、そうしたら?」

父「思っていたほどひどい形では無かったんだ。俺はてっきり、とても見られないほどひどいことになってると思って、怖くて見れなかった……しかし、白い物がついていた。トイレットペーパーだと思ってシャワーの時に丁寧に洗ったんだ」


娘「シャワーは大丈夫なんだ」


父「シャワーはぎりぎり、オシュ○ットは水圧が高くて無理」

娘「あたしは大丈夫だけどね」

父「お前は若いからだ! 俺だって50歳までは大丈夫だったんだ。あの岩にさえ座らなければ……」

娘「わかった、わかった。それで白い物はどうなったの?」

父「あっ、白い物か、あれはトイレットペーパーじゃなかった。シャワーの後もあった。たぶんうみだ」


娘「膿? お尻にできるの」


父「できてたな。腸から穴が空く膿ではなく、表面にできた膿だろう、もし腸から穴が空いている膿だったら病院にいかないと治らなかっただろうな」



 ❃



【三日月流導引】


『水の姿勢』


①布団の上に仰向けに寝ます。

②左手の甲を上にして布団と背中の間に入れます。

 最初は、肋骨の一番下、腎臓のある部分にあてます。

③両膝を曲げて左側に倒します。

 膝を倒す事で手の甲で腎臓を押すことができます。

 1回に押す時間は約10秒程度です。

④肋骨から徐々に骨盤まで手を下に降ろしていき腰全体を押します。

⑤右側も同じようにやりましょう。


 導引では背骨を押す事は禁止されています。背骨には手をかけないようにしてください。

 背骨を圧迫して、中を走る神経を傷付けると取り返しのつかないことになるからです。

 背骨の調節は膝を左右に動かす事で自然と正しい位置になるようにします。


『歩きながら腎臓を押える行』


 これは、歩いている時に後で手を組み、肋骨の下辺りを押さえながら歩きます。

 ちょうど腎臓を押える形になります。

 歩くことで腎臓を押すことになります。

 水の姿勢より弱い行法ですが、時間のない時や仕事帰りに疲れた時などに便利です。


『舟をこぐ』


①片足を半歩前に出して立ちます。

②頭を前に倒しながら腕を下から上へ上げ肩より少し高い所まで上げ、腰に力を入れアゴを引きながら、胸を広げるように手を引きます。

 

 渡し舟をこぐような気持ちで、体の力を抜いてゆっくりとやるといいと思います。

 片側2~3分で前に出す足を変えて左右。

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