第12話「初めての痔」
父「坂本さんの話しは怖いから、お尻の話しをしよう。俺が初めて痔になったのが自動車工場で働いていた時なんだ」
娘「なに痔? 切れ痔?」
父「最初は、いぼ痔だった」
娘「痛かった?」
父「痛かったかな? 今から思えば、それほどたいしたことはなかったんだろうな……冬子は去年のN○Kの大○ドラマは見たか?」
娘「えっ、なに、いきなり大○? あたしは大○ドラマ見ないの知ってるじゃない……」
父「歴史物も面白いぞ」
娘「で、その歴史物がどうかしたの?」
父「そんなことで切れるなよ……」
娘「切れてま・せ・ん!」
切れ気味の冬子。
父「そうか……それでな、去年の大○ドラマの第1回目で江戸時代のお尻の治し方を放送したんだ」
娘「N○Kで、そんなの放送したらダメなんじゃないの?」
父「原作者は、よっぽど世間に知らせたかったんじゃないかな? 1番視聴率の良い1回目でやったもんな」
娘「それは、どんな内容だったの?」
父「内容はこんなだった……」
江戸時代。
水戸藩主 徳川
「こうして中指を立て肛門を打てば
一生痔を患うことはない……」
父「と、徳川斉昭が息子に言うシーンがあったんだ」
娘「本当なの?」
父「本当さ、嘘だと思ったらDVDで見てみろ」
娘「いゃ、本当みたいだね。近所のレンタルビデオ屋さんも閉店しちゃったし……」
父「あ〜っ、あそこな、たまに借りたかったんだけど、無くなると寂しいな」
娘「そうだね、DVDを選んでいる時って楽しかったね」
父「閉店セールで海外ドラマのシリーズ物を買ったんだけど最後の巻だけ無いんだよ」
娘「誰かが最後の巻だけ買ったのかな?」
父「たぶんね」
娘「それで、江戸時代はどうなったの?」
父「あ〜っ、あれか……あれは導引だよ。俺が習ったお尻の導引と基本は同じだ」
娘「中指でやるの?」
父「直立でやる場合は中指と薬指を使うな。薬を塗る時は人差し指だな」
娘「直接押すの?」
父「江戸時代はたぶん直接押してたんだろうな、殿様なら紙でふいていただろうが、トイレットペーパーみたいな柔らかい紙はまだないだろう。風呂に入りながら押すやり方もあるけどな」
娘「お風呂の中で?」
父「温めて押すから痛みが減るみたいだね、俺も自動車工場にいた時は、お風呂の中で押してたよ」
娘「お風呂は共用でしょ、周りから見えるじゃない」
父「それがな、寮の風呂場はけっこうデカくて、泡風呂もあったんだ! ブクブクと空気が出るやつ、あれだと泡で体は見えないからお尻を押しても見えないんだ」
娘「寮のお風呂に泡風呂まであるの? 凄いね!」
父「あの頃は、まさにバブルだ!」
娘「…………」
父(あれっ、冬子にバブル景気はわからなかったかな?)
娘「お風呂の中で押して治ったの?」
父「ああっ、治った。一週間くらいだったと思う。簡単に治ったよ。よく、痔は治らないなんて言う人がいるから、いぼ痔になった時は焦ったけど、こんなに簡単に治るじゃないかって、その時は痔をなめてた」
娘「お尻の導引は効くんだ」
父「初期のものにはね……」
娘「お風呂の中で押して治るんなら簡単でいいね」
父「初期ならね……俺が50歳でなった痔は、お風呂の中で押すなんて痛くてとてもできなかったんだ」
娘「痔って、同じじゃないの?」
父「全然違う。薬を塗るのも泣きながら塗っていた。まっ、それはだいぶ後の話しだが。自動車工場でなった痔は、お風呂の中で5分くらい押すだけで簡単に治った。そういえば、風呂場で叫ぶ奴がいたな〜っ」
娘「風呂場で叫ぶ……痔が痛くて?」
父「痔ではないけど、一緒に入社した奴が風呂場で『なんでそんな事を言うんだ!』とか『ひどい事ばかり言うな!』とか誰かに抗議してるんだよ」
娘「なにそれ、誰もいないの?」
父「そう、そいつがしゃべっている所には誰もいないんだ。体を洗う所で座って、よく言ってたよ。知らない人は、そいつの横に座って体を洗うんだけど、突然叫び出すからビックリする人がいっぱいいたよ。俺は風呂に入りながら見ていたよ」
娘「……ん〜〜っ、それ、ひょっとして統合○調症じゃないの?」
父「たぶんね。頭の中に誰かの言葉が聞こえるらしい『○んでしまえ』とか『お前は○ズだ』とか、ひどい事ばかり言うらしくて、その言葉に対して抗議して叫ぶようだ」
娘「誰もいないんでしょ」
父「人がいる所でも叫んでいるけど、誰もそんなひどい事は言ってないよ」
娘「そういう人でも自動車の工場は働けるの?」
父「働いていたよ。契約期間が終わっても契約期間を延長してたから問題ないみたいだね」
娘「そんなもんなんだ……」
父「俺、そいつと一緒の入社だから健康診断も一緒だったんだ。尿検査や血液検査で再検査をする人も多かったけど、そいつは再検査も無かった……」
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