第3話 裏の裏
激闘から一夜明け迎えた日曜日の朝。
昨日の命のやり取りが嘘のように穏やかな朝だ。
しかし、僕は昨日の出来事について反芻思考に陥っていたせいで一睡も出来ずに朝を迎えていたので、相変わらず疲労は残ったままだ。
もう一度状況を整理してみよう。
僕は伊藤と音楽室から出ようとした時にちょうどゲーム参加者であった福島に襲われ戦闘になった。偶然にしてはあまりにタイミングが良すぎるのだ。
そして奴は他のゲーム参加者があの時間にあの場所に来ることを知っていた。
だが、奴は僕らのうちどちらがゲームの参加者か判別がついていないように見えた。
考えれる可能性としては……1つ、あそこで僕と福島が戦うことを運営側に仕組まれていて、伊藤は単なる偶然でそこにいた。これはあの趣味の悪い運営が考えそうな手口ではある。
そして2つ、伊藤玲緒菜、彼女もこのゲームの参加者で何らかの形で僕と福島がゲーム参加者であることを知り、あのタイミングであの場所に僕を呼ぶことで漁夫の利を狙ったという可能性だ。まだ彼女を深くは知らないが、昨日の一件で間違いなく裏がある女だということだけはわかったので、あながちありえなくもない話だ。
そして3つ、
ピーンポーン
休日の朝になんとも珍しい来客用のインターホンが鳴った。
「宅配便にしては早いし、誰だよ、こんな朝から。」
僕は重い身体をベッドから持ち上げ、渋々立ち上がり、インターホンの受話器に向かう。すると……
ピーンポーン
「うるさいな!今出るよ!」
インターホンのカメラを覗き込むと、そこには見覚えのある美人が映っていた。
伊藤玲緒菜だ……
「なっ!?……お前!!どういうことだ!?」
「何よ、朝からうるさいわね。」
「それはこっちのセリフだよ……」
「とりあえずここ開けなさいよ!」
勢いのせいなのか彼女にそう言われると何故か素直にオートロック式の玄関のロックを解除してしまった。
僕の部屋は32階なので、ここまで上がってくるのに数分はかかる。
それまでに顔を洗い、歯を磨き、着替えを済まし、最低限の身支度を整えなければいけない。
「いやいや、何を僕は……」
そう、あの激闘後突如姿を消したので、結局彼女が敵なのか味方なのかすらはっきりしていないのだ。まずゲームの参加者なのかや、そもそも彼女のスキルらしきものも見ていないので、こちらの判断材料が少なすぎるのだ。
いくら超絶美人のクラスメイトが休日に突然自分の家に来るなどという、どこぞのラブコメのような展開と言えど、現状得体の知れない恐怖心の方が勝っているので気が気ではない。
だが、こうして僕の家まで来るということは彼女も何かしら今回の件に絡んでいるのは間違いないのだろう。
何故、僕の家と部屋番号が特定されているのかはわからないが……
ピーンポーン
そんなことを考えながら来客の準備を整えていると、玄関のインターホンが鳴った。
今度は二度目を鳴らされる前にしっかりとお出迎えをした。
「アナタ随分と不便な所に住んでいるのね……どんだけセキュリティーしっかりしてるのよここ!しかも、ここまで上がってくるのもかなり時間かかったし……!!」
「とりあえず上がってくれ……」
玄関先での一悶着を終え、来客用のテーブルに着いてもらい、紅茶を出した。
「あら、気が利くわね。流石お坊ちゃんね。」
「お褒めに預かり光栄ですよ、お嬢様。」
学校のマドンナで皆の憧れの伊藤玲緒菜がこうして目の前で小言を言いながら、僕が入れた紅茶を飲んでいる。昨日の音楽室でのこともそうだが、未だに信じられない光景だ。
しかし、同時にそれを自然に受け入れてしまっている自分もいる。
人間の本能というものが、どの程度当てになるのかはわからないが、彼女に対する危機感が全くないのである。
「今日は話があって来たの。」
「また随分と単刀直入だな。」
「えぇそうね。回りくどいのは嫌いなのよ。まぁでも……そうね、あなたも私に聞きたいこといっぱいありそうだし、私が知ってることは全部答えるわ。その代わり……」
「その代わり……?」
「私のパートナーになってちょうだい。」
「は!?パートナー!?」
僕は予想の範疇を大きく超える彼女の言葉に何も返すことができず、無様にただ復唱することしかできなかった。
「ちょ、、ちょっと待て!なんだ?パートナーって……急にそんな……だいたい僕らまともに喋ったのも……」
「アナタなんか変な勘違いしてない?」
「ん…!?」
「はぁ……もういいわ。ゲームのことよ、アナタがリアルレイドゲームの参加者だってことはわかってんのよ!で、私も参加してるから、アナタは私の味方になりなさいってことよ!」
あぁ、なるほど。そういうことか!
いや、そっちだとしても驚くわ!!!!
心の中でテンプレートのような一人ノリツッコミを終えたつもりが、かなり顔に出ていたようだ。
「まぁアナタも薄々気付いてたんでしょ?」
「気付いていたというか、有り得ない可能性を潰していくとそれしか残らないからな……でも、確定的な要素が無さすぎて確証には至らなかった。」
「とりあえず私はアナタに危害を加える気はないわ。」
わからないことだらけだが、どうやら伊藤玲緒菜が味方であるということだけはわかった。
もっと色々聞き出さないと。
「君の言い分はわかった。だが、返事は少し待ってくれ。先に僕の質問に答えてくれ。」
「えぇ、でも知ってることしか答えられないけどね。」
「まず、なぜ僕がゲームの参加者であることを知っていた?いや、それだけじゃない僕の家を知ってたり、どうやって僕に関する情報を手に入れた?」
「そうね、まずはどうして私がアナタのことを色々知っていたか。それは簡単よ、運営から教えてもらったのよ。」
、、、、?
「ポイント!?」
「そう。リアルレイドゲームの報酬で貰えるポイントはあらゆる物を購入できる。私はアナタの情報を購入しただけよ。」
なるほど。確かに腑には落ちたが、自分が知らないところで自分の情報が売買されているというのはあまり気持ちの良いものではなかった。
「そこまでわかればあとは簡単でしょ?このゲームでポイントを稼ぐ方法は2種類しかない。1つは他の参加者を何らかの方法で特定し、最終的にはキルすること。そして2つめはクエストよ。」
「クエスト……!?」
「昨日の件、私はこのクエストを受けていたのよ。」
『4月16日 金曜日 17時30分 桜ノ宮学園 第二音楽室にて敵プレイヤーを殲滅せよ。』
伊藤はスマートフォンのクリア済みのクエスト画面を得意げにこちらに見せてきた。
「これをクリアすれば普通のキルよりかなりガッポリ報酬が貰えるのよ。で、私達プレイヤーは各々受けられるクエストが違うんだけど、私がそれを選んだら、他にもこのクエストを選んでた奴がいたのよ。」
「なるほど、それが福島純也か。」
「そう。ただ、あの時点では私も誰がゲームの参加者なのかわからなかったの。でも、同じクエストを受けているその誰かは間違いなくあの場所に来る。だから私は普段からあの第二音楽室を出入りしてるアナタの情報を買ったのよ。」
「なら、もし僕が君の敵だった場合君は僕を殺したのか?」
自分でも何故こんなことを口走ってしまったのだろうか、目の前にいる美女のせいか、もしくは昨日一睡もできなかったのが響いているのだろうか。
「それはないわ。そもそも私にアナタは殺せないし、アナタ以外にもこの学校内にゲームの参加者がいるのはわかってたからそっちがターゲットだと思っていたわ。女の勘よ。」
女の勘。非常に便利な言葉だ。
だが、人生は時としてこのような非科学的なものに大きく左右されてしまうものだ。
「むしろ逆に、何も知らないアナタがいつものように第二音楽室に行って、その相手に殺されたりすることの方が心配だったわ。」
「伊藤……君案外良い奴なんだな。」
「何よ?」
「だってそれってつまり、僕を助けてくれたってことだろ?」
「べ、別に助けたわけじゃないわよ!!ただ、私が勝手に受けたクエストで関係ない人が巻き込まれるのは私にとって不本意なのだけよ!!」
彼女は頬を赤らめながら強く否定し、僕はそれを見て初めて優越感を覚えた。
「わかったよ。とりあえず僕で良ければ協力するよ。僕もこのゲームについては色々知りたいし。」
「決まりね。じゃあまずはお互いの手札の確認の。あなたのスキルはだいたい知ってるけど、要は相手のスキルの無効化と精神支配……だったかしら?」
「あぁそうだ。ただ、色々と制限があって、特にスキル持ちへの精神支配はなかなか難しいんだよ。よくわからないけど、スキルはその能力だけじゃなくて精神を守るフィルターのような役割も担っているっぽいんだ。」
「そうなの?じゃあ私がアナタの奴隷になることはないってわけね。」
「当たり前だろ……」
そう答えるも、昨日の許されざる行為や、それだけではなく今までの自分の行いが自分の言葉を否定している。
僕は結果的に自分の手を汚さず、殺人という業を無関係の人に背負わせてしまったのだ。例え、やらなければやられるという状況下であったとしても、もう少しマシな手段はなかったのかと、今更ながら自分を責めていた。
「あまり自分を責めないで。あの状況ではあれがベストな選択だったと思うし、なんていうか、今のアナタが尽くせる最善策は尽くしたのだから、その結果に私は文句なんて言わない。」
「でも、僕は先生や無関係の……」
「言ったでしょ?あの時のアナタにはあれしか方法はなかった。それで私とアナタの命は救われた。それでいいじゃない?足りないものを数えてたらキリが無いわよ。」
「君はいいのか!?自分の身を委ねる相手があんな手段を使うような奴で……!!」
「アナタは優しいだけよ。でも、それ以上に頭が回る。だから精神的に負荷がかかっているだけよ。だからこそ私はアナタをパートナーに選んだのよ。それに彼女達に負い目を感じるなら、最後まで責任を果たしなさい。」
僕はその言葉で胸につっかえていたものが浄化された気がした。
学校のマドンナ、皆の憧れの伊藤玲緒菜。
そんな彼女も裏ではちょっと気の強い普通の女の子だった。
しかし、その裏の裏は芯が強くてブレない強い人だった。
「君の言う通りだよ。ありがとう。君は強いんだね。」
「まぁそうでもないけどね、ただ周りが持ってるイメージが全てではないわ。私は優等生でもないし、全然お嬢様でもない。アナタみたいにお金もないし、それに家族もいないもの。」
そう言うと少し表情を曇らせたが、僕はむしろこんなに完璧で華やかな人でも色々あるんだなと思うと、ほんの少し安心感が生まれ、特に追求はしなかった。もちろん気にならないわけではないが、話したがらないかもしれないし、そんなセンシティブなことを聞くよりも、今は信頼できる味方ができたことを素直に喜ぶべきだ。
「それはそうと、アナタあの闘いの後から変わったことがあるんじゃない?」
「変わったこと?」
変わったこと。それは自分でもはっきりと自覚している。なんとなく感覚でわかるだけなのだが、絶対的に自分のものとして自分の中にある。
「福島のスキルか。」
僕はあの闘いで福島を殺した。その後、自分の中に奴のスキルが目覚めたのがわかった。
否、目覚めたのではなく奪ったのだ。
「僕も初めての経験で驚いている。何せ人を殺すことなんて今までなかったからね。それでいざそうなると僕のスキルは殺した相手の能力を奪える能力もついていたというわけだ……でも、どうしてそれを君が?」
「言ったでしょ。私はアナタの情報を買ったのよ。」
「あぁ、そうだったな……」
一通り話がまとまったところで、伊藤が切り出した。
「ってことで、改めてよろしくね!優理!!」
「ゆ、ゆうり…!?」
「当たり前でしょ?正式にパートナーになったんだから、他人行儀な呼び方は辞めましょう。私のことも玲緒菜でいいわ!」
「わかったよ、れ、れお……な。」
急に人の呼び名を変えるというのはどうにも小恥ずかしいものだ。
「そうと決まれば今後のことを決めましょう!まずはポイントで何か買うわよ。あぁ、あと今日から私もここに住むから、あとで買い出しにでも行くわよ。」
へ?
「はぁぁぁぁぁぁ!?!?!?こ、ここに住む!?!?!?」
スキル持ちが現実世界で命懸けのゲームをする話 水原泉 @Izumi_Mizuhara
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