35.エピローグ
館の再購入によって寝床と食事の心配は解消された。使用人たちが皆真面目に働いてくれるお陰で快適な暮らしは確保されている。
お金に関してもダンジョンから持ち帰った宝物を諸事に捌いてまだ備蓄ができるほどに十分ある。これに関しては今現在は。の話であり、そのうちまた金策を編み出さなくてはならないだろう。
その時はキリシマにも頼りになる仲間がいる。バーレッドやスクルージはもとより、ルタも今となってはどの手伝い屋よりもレベルが高く戦闘能力を持つ一員だ。
キリシマが後衛を、ルタが回復役を、バーレッドが中衛と奇襲を、スクルージには壁役を。
それぞれの役目がはっきりしているこのメンバーで、個性を活かした立ち回りを意識すれば以前の戦い方も再現できるかもしれない。
「この世界で生きていく」と、いう点での心配はないが、「ログアウトして元の世界に戻れるか」ということに至っては何一つ打開策はない。
当初の目的を忘れていたというわけではない。
背景の宝を盗めば運営が動いてくれるだとか、手伝い屋を戦闘パーティに加えるというイレギュラーな行動を起こせば何かしらの処置をされると思って行動していたのだが、そこには警告の赤文字すら現れることはなかった。
これではふりだしで突っ立っているのと変わらない。
「……さて」
いつまでも買い戻した愛しの我が家の外観を眺めているばかりではいられない。
異世界と化したゲームの中で生活していくためにこれからやること、やらなくてはいけないことが山ほどある。息をしているだけでも時間は惜しい。すぐにでも忙しくなっていくのだ。
キリシマは新調したマントを翻して館の中へと入っていった。
手伝い屋たちに指示を出す時間だ。
「……はい。ああ。シャーロッテ邸の地下ダンジョンにあいつらが来るって話、信じて待ち伏せてたら合流できました。AKさんの言う通りでした。仲間と再会できたのもあんたのお陰だ。本当、ありがとうございます」
キリシマから指示を受けたバーレッドは、一人木陰で通話機能を立ち上げて会話をしていたスクルージのもとへやって来た。
鎧を脱いでも大きながっしりとした背中に声を掛ける。
直前の動作を不審に思いながら、
「スクルージさん。今の通信の相手って、もしかしてヴァロランドの……」
「聞いてたのか……?」
呼ばれたスクルージは振り向き見、口走る。何と言い訳をしたものか考え答える台詞を探る隙に、何故か彼よりもバーレッドの方が青ざめた表情になっていて。
「バーレッド? いや、説明させてくれ! 俺もヴァロランドのことは悪い奴らだと思って……」
「でも、そんなはず……」
バーレッドは当惑し、焦りと疑問が入り混じった顔で一度かぶりを振る。
そして、いや。まさか。と、独り言のような小声で前置きをしてから正面に立つスクルージを真っ直ぐに見つめて唾を飲んだ。
「だって、AKは僕の……赤川の、別(サブ)アカウントなんですよ?」
END
***
2022.3.17. 完結
最後までお読みくださりありがとうございました!
戦うイケメンコンテスト用に書いた中編でした。
イケメン複数登場させて戦わせる話で、長編化できそうな感じにということだったのでこんな風になりました。
お付き合いくださった読者様に感謝です!
よかったらいつもの長編もよろしくお願いします~~
バーレッドとキリシマ~サービス終了後のゲーム世界に取り残されたお人好しな剣士と人嫌いなりきり魔術師。正反対で凸凹な二人が家を買い戻すまで~ 海老飛 りいと @ebito_reat
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