異世界に飛ばされかけたので駄々をこねる話

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異世界に飛ばされかけたので駄々をこねる話

「ん? なんだここは?」


 気が付けば男は真っ白な空間で立っていた。


「俺、さっきまで寝てた筈だよな。パジャマじゃないし、なんだこの恰好」


 男の姿が、いわゆる戦国時代のような鎧姿に変わっていた。勿論、刀も脇にあり、抜いてみると恐ろしいほどに輝く刀身がその姿を見せていた。思わず怖くなった男は刀を慌ててしまい、どうにかして逃げ出そうと部屋をウロウロしてみるのだった。


「おーい! おーい!!」


 どんなに大声を出しても誰も返事をしない。最初は緊張していた男も次第に今の環境に慣れ、緊張より何も説明もないこの状況にイライラしてきていた。ひとしきり暴れるように走り回った男は、さすがに疲れてしまい、その場で座って俯いていた。


 どれくらい時間が経ったであろうか、ふと目の前に人がいるような気配を感じ、頭を上げてみると、そこには全身白い服を着た白髪の老人がそこに立っていた。


 お互い目が合って暫くの沈黙があたりを埋め尽くす。


「いや、何か喋れよ!!」


 突然の大声に驚いた顔をした老人。よほどマイペースなのか口をもごもごさせているが中々話し出さない。もう一度、催促しようとしたその時、老人は漸く声を出すのだった。


「儂はお主の世界でいう『カミサマ』じゃ。お主にお願いがあっての? 聞いてくれんかね?」


 何だ、このくそジジイ……。男はずっと真っ白な空間で待たされたイライラを我慢しつつ、話をする為に立ち上がった。


「『カミサマ』だか、何だか知らないが、はやく俺を元の場所に返してくれないか??」


 途端に眉間に皺を寄せて、難しい顔をする自称『カミサマ』。その態度に男はイライラが増していくばかりだった。


「儂の願いじゃがな、『異世界』に行って魔王を倒してきてほしいんじゃ」


 結果、華麗に男の話をスルーする『カミサマ』。


「『異世界』ってなんだよ! この恰好に関係してるのか!?」


 話に乗ってきたと勘違いした『カミサマ』は立派に生えた髭をひと撫でし、話を続けていく。


「『異世界』とはな、お主がいた世界とは別の世界を指すのじゃ。その鎧は、儂が特別に作った装備じゃ。旅は辛く、困難を極めるじゃろう。せめてもの気持ちで用意したわい」


「『異世界』の意味じゃないから! そんなの俺だってラノベを読んでて知ってるし! そもそも何で俺が選ばれたんだ??」


「それはじゃな……。お主の才能を見込んでじゃ」


「俺の才能って? 選んだ位なんだし、魔王なんて簡単に倒せるって事でいいんだな??」


「倒せる訳なかろう? 魔王じゃぞ。魔の王、魔王じゃ。今のお主じゃ一瞬で消し炭じゃ」


「倒せないのかよ!! 簡単に倒せない人を選ぶなんて『カミサマ』無能だな


 イライラから思わず、毒舌になってしまう。話もきちんと聞いてくれないし。


「そもそもさ、何でジャパニーズ鎧なの?? 刀はさ、男のロマンだからわかるけど、こんな重い甲冑着て動けると思うの? それとも異世界に行けばチートで身体が強くなってるとか?」


 ちなみに先程暴れて走り回ったといっても、駆け足がせいぜいである。一般人に鎧はとても重い。


「そんなチートは無理じゃ。だから動けないじゃろうな。あと、お主の強さじゃが、最初はスライムにも負ける弱さじゃ」


「なんでやねー-----ん!! 動けない鎧を用意するのもおかしいし、弱すぎなのもおかしいでしょ!? ちなみにそのスライムってどれくらいの立ち位置? 最近のスライムって強いよね? 四天王位?」


「ドラ〇エのスライム位じゃ」


「一番最初やないかー---い!! それって俺、もはや村人じゃん! 何で俺を本当に選んだの??」


「だからじゃな、才能が……」


「どんな才能!?」


 大事な事を先程スルーされたので再度追及。この『カミサマ』、ちょっと都合が悪い事があるとスルーする事が多い。どうせ異世界っていえば、ホイホイ行ってくれると思っていたので、予想外の反撃に困る始めているのである。


「えっとじゃな……、魔族に対して究極バフがつくんじゃ」


「なんだ、それなら楽勝じゃないか」


「魔物相手には付かんのじゃがな」


「欠陥品やないかー---い!! ダメじゃん! よくさ、無能なキャラがー、とか何か特化したーとかあるけど、工夫すればいけるっていっても、いくら何でもスライムに負ける俺がどうやって魔王のとこまで行くのさ」


「それは何とか頑張ってほしいのじゃ」


「そんな魔族特化じゃなくても、もっと能力の高い人いない? ちなみにさ、魔王を倒したら帰れるの?」


「帰れん」


「根拠は?」


「今まで帰った勇者はおらん」


 若干『カミサマ』もやけっぱちになってきている。だって出来ないもんは出来ないんだもん。


「データは? 転移させる時の魔法? と改良してってよくあるじゃん!」


「ま、まぁひょっとしてあるのかもしれんな」


 答えるのに疲れてよく考えないで答えてしまった『カミサマ』の発言を、この男が逃す筈がない。


「え? けどさっき帰る方法はないって言ってなかった??」


「最近物忘れが激しくての……」


「それって嘘ついたって事だよね?」


「えっと……」 


「ていうかあなたが『カミサマ』な証拠は?」


「えっとそれはじゃな……」


「そんな証拠も出せないような『カミサマ』の為に俺は戦わないから。そもそも知らない人に倒せって言われても嫌だし」


「これは世界が望んでいる事なんじゃぞ?」


「『カミサマ』じゃなくて?」


「えっ……」


「世界って何? 俺を選んだのは『カミサマ』じゃなくて世界?」


「いや、それはじゃな……」


「ていう事はさ、こんな中途半端な才能しかない俺を選んだ世界が悪いんじゃないかな? そんな世界じゃ魔王に支配されても仕方と思うんだけど?」


「いや、儂だってじゃな、立場というものが……」


「『カミサマ』の証拠も出せなくて、元の世界に返す事も出来ないような立場って何?」


「うぐっ」


「それにさ、魔王が悪者って根拠は? むしろ、救う為のこの世界の人間って善人なの?」


「せ、世界を支配しようとするんじゃから悪者じゃろ?」


 必死に言い訳を考える『カミサマ』。


「支配するからって悪者になるとは限らないから。ていうか、やっぱりこの世界の人類が善人か答えられないって事は――――」


 追及する男。


「あぁもう誰か!! この男を元の世界に返してくれ!! 頼む、頼むからあああああああああ!!」


 『カミサマ』がついに頭を抱え込んでしまって、そのまま消えてしまった。ついに『カミサマ』の心が折れた。


 その後、甲冑は消え、急に男の姿が薄く透けると、意識が遠のき、気が付いた時には元の世界に戻されていた。やっぱり『カミサマ』は嘘つきで――――。


『もうやめてくれえええええええええ!!』


 何はともあれ、こうしてどうにかして男は無事、元の世界に帰る事が出来たのでした。めでたしめでたし。

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