第11話 赤い闇のデュー

 シャンリーの所に暫く滞在したが、自分の領土の事もあるのでクラスターと共に帰途についた。

 まずはクラスターの領地に行き、護衛兵の入れ替えを行う。

 今度はクラスターの所への永佳も見込んで、未婚の三男や四男で構成するっもりだ。

「相変わらず、恐ろしい男だな」

 馬上で二人並んだとき、クラスターが答えた

「何が・・?」

 ダンが逆に聞き返してきた。

「オレなら妻を差し出して、将軍職を得るぞ」

「ふっ、くだらん。オレはお前ではない」

 ダンが鼻で笑った。

「タイミング良く、皇帝陛下があらわれたものだな」

 クラスターが首をひねった。

「あの魔法使いが動いたのさ」

「デューとかいう上級魔法使いか」

「アカデミーでは、『赤い闇』と呼ばれる凄腕らしいぞ」

 ダンもある程度の情報綱は持っていた。辺境伯からも、ある程度の話は聞けた。

「でも、今度の事件でアカデミーをやめてきました」

 ダンとクラスターの聞を噂の魔法使いが歩いていた。

「アンタ、いつからいたの」

 クラスターが馬上から下を覗きこむようにして聞いた。

「姿を消して今着いたばかりですよ。

 私もマージア州で学校でも開くか、占師でもやろうかと思いまして、ストレンツオ様に許可を頂こうかと」

「構わんよ、先日はありがとう。皇帝が来たことには感謝している」

 ダンが答えた。

「ストレンツオ様が皇太子を説教する邪魔をしたかとおもい。

 怒られるのを覚悟できたのです。

 さしでがましいことをしました」

「いや、本当に助かったよ、一度できる限りのことをさせてくれ」

 ダンが口にした。

「商売上の事を色々と保証してもらえれぱ十分です。

 感謝といってはなんですが、あなたのザッファーラがかなり裸に近い格好で国境線をウロウロしてましたよ」

 ダンが前方に目を凝らした。

「ゲー、アレは…」

 皇太子の軍に囲まれて悲鳴一つあげなかった男が青ざめながら悲鳴を上げた。

 帝国ではニンフ、サルディーラではアルフ、南方やヴァレンシアの原住氏ではフェイ・騎馬民族や内海ではジンといろいろ呼ばれているが妖精の事だろう…。

 神々の下で音楽を奏で、歌を歌い、夜伽の相手もする。

 退屈を慰める特別な存在がいたようである。

 昔は享楽的だったから神々が勝利を奪えたとき、妖精達が裸になって百人ほど国境付近の道に並び、花冠を捧げて戦勝を祝った。

 ソフィアの倫理など古代の神にはなかったから、おおらかにも馬上で酒でも飲みながら居城までなさっていたのだろう。

 今度の大戦は、今までの小競り合いとは違い、ザッファーラにそう言った祝い方をさせたくなるような規模の大きい戦ではあった。

「道を開けろ」

 ダンが叫んだ。

 本当は箱詰めにして押し入れにしまっておきたい。

 服を着た姿すら他人には見せたくないのだ。

 その愛する妻がスケスケのワンピースは来ているが、ソフィア正教圏においては裸同前である。

 ダンは馬に乗ったまま走らせた。

「戦勝おめでとうございます」

 ザッファーラが笑みをつくり花輪を差し出した。

 近くによれば下着さえつけていない、プラチナプロンドの下の毛まではっきりと見えた。

「ありがとう」

 まずは花輪を受けた。

 こういった生活習慣のギャップを責める気にはなれなかった。

 ゆっくりとマントを脱いでザッファーラを包んだ。

「こういう事やってもいいけど、もう少し服を着てくれ、見せ物小屋の女じゃないから」

 涙ぐんで赤面させた。

「私、お前に恥をかかせたか」

 ザッファーラはダンに抱きかかえられながら困惑と寂しさが混じった複雑な表情をした。

 彼女は少しずつ何かを取り戻し始めていた、同時に時折みせる世界に対しての自分の存在の異質さを感じたときに見せる、寂しさと自信の無さを見せる。

 ダンは胸が詰まったように苦しくなる。

 自分の愛、そこから産まれる行為において、ザッファーラのそういった物を埋めてあげることができない自らの未熟を恥じた。

 そっと抱き上げて共に馬に乗った。

 抱いていてもそのまま消えてしまうのでは、時々不安になる。

 彼女は幻…。

 愛するという行為によってのみ、実体を得る。

 幽霊、夢、幻に近い存在。

「ザッファーラ」

 お互い馬上の人になるとダンは頬ずりをした。

 彼女の身体をローブで包んだ。

 不安なのだ。

 いつもお前が部屋から消えて、思い出から消えて、心にぼっかりと穴が開いて、僕の人生はあなたを永遠に探し続ける旅となる。

「僕と出会った時に比べて君は色々な物を取り戻している。

 多分女も取り戻せる。神々の最大の欠点は完璧すぎるのが特徴なのだから。

 僕の子供について心配せずに、罪悪感を抱かず、穏やかに時を過ごそう」

 ダンは澄み渡った青空を見上げた。

「この空は僕達の空なのだから…」

 笑いながらザッファーラはダンの心臓の音を聞いた。

「私は今を生きている」

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男の真実 鈴木 @yann1234

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