ハードルが高い

 結果的に、戦争にはなりませんでした。

 ただし、国を危機に陥れたとして、マリナ様は国外追放され、マリナ様を皇国に連れてきた貴族も家から勘当され、同じように国外追放されたそうです。

 皇国は、常識はずれな行動をした隣国に対して、正式に抗議し、皇国に有利な条件でいくつかの条約を結びました。

 要約すれば、

『常識はずれな外交官寄越すとかないわー。

 娼婦を馬鹿にするわけじゃないけど、皇族の婚儀の夜会に、平民連れてくるとかないわー。

 めっちゃばかにされたわー。

 晴れの日を台無しにされたわー。

 うちとお前の所の戦力差考えて、今回の事してるんだったら、その喧嘩は買うよ?』

 という感じでしょうか?

 ワーグナー様は、今回の事をそれなりにお怒りのようで、お父様に交渉して、上級魔導士の師団を国境付近に準備していたようです。

 本当に、戦争にならなくてよかったですわ。

 マリナ様が務めていた娼館は、麻薬の使用で摘発もされたそうで、芋づる式に隣国の犯罪が明るみに出たとか。

 国外追放になって、マリナ様は大丈夫でしょうか?

 一応、未だに護衛の魔導士は変わらずつけていますが、上級魔導士にした方がいいのでしょうか?


「はあ、まったく……。あの女のせいでせっかくの初夜が台無しだったよ」

「えっ!?」

「本当はもっとちゃんとミレイアを確かめたかったのに」


 いえいえいえ、十分だったと思いますよ!?

 あれ以上の事を求められるのでしたら、前人未到のダンジョンに単身放り込まれた方がましですよ!?

 初夜から続く夜の事情を思い出して、思わず顔を赤くしておりますと、ワーグナー様がにっこりと微笑みました。


「僕、色々勉強したんだよね」

「勉強、ですか?」

「あ、もちろん実地はミレイアが初めてだよ。見てはいたけど」

「み、みて!?」


 あんな破廉恥な事を、どなたに教わったというのですかっ。


「わ、わたくし、皇妃様の執務を手伝ってまいりますわ」

「わかったよ。いやぁ、ミレイアが治癒魔法も得意なおかげで色々助かるな」


 なぜでしょう、なんでしょう、自爆している気がしてならないのですがっ。

 顔が赤いまま、皇妃陛下の所に参りますと、「あらあら」と微笑まれてしまいました。


「皇妃陛下、ワーグナー様との夜の事なのですが」

「若いっていいわねえ。報告は聞いているわ。孫の顔が早く見ることが出来そうで嬉しいわ」

「あのっその……ひ、控えるとか、は」

「何を言っているのです、ミレイア。側妃を取らないと決めた以上、跡継ぎを産むのはミレイアだけなのですよ。最も、弟妹の子供を養子にもらうと言う手もありますが、わたくしとしては、やはりワーグナーとミレイアの子供に跡を継いでほしいと思っています」

「そう、ですか」


 皇族は子だくさんですものね。

 ワーグナー様も絶倫でいらっしゃいますものね。

 昨晩も、いえ、朝方まで離してくださいませんでしたものねっ。

 わたくしの貞操観念が、ここ最近色々な意味で揺さぶられておりますわ。

 寝不足に関しては、回復魔法で何とでもなるのですが、こうも連日ですと、ぴぃちゃん達の視線の生温かさがつらいです。

 皇妃陛下の仕事、城の様々な事の手配や、夜会やお茶会の手配などを手伝っておりますと、「そういえば」と声をかけられました。


「わたくしが新婚の時は、蜜月ということで一ヶ月程公務をお休みしていたのだけれど、ミレイアは大丈夫なの?」

「え……」

「皇族の子って、独占欲が強いから、婚儀を上げると一ヶ月ぐらい花嫁を離さなくなってしまうの。もちろん、側妃の時も同じだと聞いたわ」

「そ、そうですか」

「だから、ワーグナーがミレイアを解放してるって聞いた時は、本当に驚いたのよ」

「ほ、ほほほ……」


 なるほど? 朝方まで抱きつぶされるのはまだ甘いということなのですね!?

 一ヶ月もあんな恥ずかしい事を繰り返すなんて、謹んでご遠慮申し上げますわ!

 ただでさえ、後処理をしてくれるメイド達に合わせる顔がありませんのに。


「わ、わたくしは今ぐらいがちょうどよいと思い、ますわ」

「そう? でも、無理なら遠慮なく言ってちょうだいね。ミレイアが手伝ってくれるのはありがたいけれど、そのせいでワーグナーの機嫌が悪くなるのは困るもの」

「ほ、ほほほ……」


 なんと言えと!?

 マロン様とそう言う関係になるという事を、全く考えてこなかったせいで、わたくしの中では閨の知識は最低限なのです。

 今でもいっぱいいっぱいです。

 こんな事でしたら、本当に高難易度のダンジョンに放り込まれた方がましですわ。

 いえ、いっそぴぃちゃん達とどこかに転移してバトルをすべきでしょうか?

 と、とにかく何とかして発散しなければ、いけない気がしますの、色々と!


「こ、皇妃陛下」

「お母様って呼んで♡」

「お母様」

「なにかしら、ミレイア」

「わたくし、取り急ぎ用事が出来ましたわ」

「あら、ワーグナーの所に行くのかしら?」

「ちょっと、北の不毛の大地に行ってまいりますわ」

「え?」

「大丈夫です、夜には戻ります」

「み、ミレイア?」


 わたくしはそう言いますと手早く書類をまとめ、執務室を出ると、ぴぃちゃん達を連れて、北の不毛の大地まで転移いたしました。

 ここは何百年も瘴気が蔓延している場所で、浄化してもあとからあとから湧いてくる不思議な場所です。


『ミレイア、いきなりどうしたのです?』

「ちょっと、発散をしたくて」

『ふむ、発散とな?』

『これだけ瘴気が濃いのに、なんともないのは、ミレイアと契約を結んでいるおかげですわね』

『そうですね。すばらしいことです』

「そうですわね。ちょっと発散したいので、どなたかお相手をお願いします」

『『『え?』』』

『仕方がありませんね』


 ぴぃちゃんが擬態の一部を解いて、わたくしと対峙します。


『ミレイア、以前教えた秘術がどこまで熟成したか、見せてもらいますわ』

「ご満足いただけるように頑張りますわ」


 そこから、夜になるまで、わたくしは四体の幻獣相手にかなり本気の戦闘をいたしまして、ぴぃちゃん以外からも、門外不出という秘術を教えていただきました。

 その夜、わたくしは初めて閨で気絶という体験をいたしました。

 御伽噺の産物だと思っていましたが、本当にあるのですね。



=END=

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稀代の魔導士は皇太子の溺愛に微笑む 茄子 @nasu_meido

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