2
片腕だけで抱き留められているのに、少しも動けないほど京牙の腕は力強く、右頬が胸に縛り付けられたようで動けない。
京牙の胸から激しい鼓動の音が聞こえてくる。
「会いたかった。ずっと……ずっと待っていた」
「は、離して!」
『この、瑞希から離れろ!』
ツヨキが両手で京牙の頭をひたすら叩いている。
『瑞希になにするんだ!』
ヒカリも京牙の足にかじりついた。
二人は結界を張りながらも必死に京牙から瑞希を引きはがそうとする。
三者三様に必死に抵抗を試みるが、全く京牙には効いている気配がない。
「お前たち、秘密の部屋に入ったな?」
あっさりと剣が瑞希の手から奪われるとそれは遠くに放り投げられた。
「あの剣では俺は封印できない」
「えっ……」
「何故ならあれは偽物だからだ」
そう言うと、瑞希を抱きかかえたまま京牙は体を起こした。
「この小人たちがお前のツノになっていたのか。そうか……こいつらは式神だなお前が俺を封印しようとしたってことは、お前は巫子だ」
何もかも見抜かれている。それも同然だ、京牙はあの絵巻を持っていた。
あの絵巻の意味がわかっていれば、剣を自分の胸に突き立てる行動も、その周りにいる者が式神であることも京牙にはすぐに理解できることだろう。
「だがな……っ……!」
そう言いかけて、京牙の視線は瑞希をすり抜け瑞希よりずっと背後にいる誰かに気づいた。
柔らかだった表情がまるで別人のように曇り、目つきまで鋭く変わって行く。
瑞希にはそれが何かわからないが、京牙の頭にへばりついていたツヨキの顔が瑞希の背後を見たのか青ざめて行き、ヒカリも同じようにツヨキの元へ走り寄って行く、二人は一点を見つめ、互いに手を握りしめた。
背後がまるで日の光を塞ぐように陰って行く。瑞希はそれが恐ろしい何かであることを悟った。
「京牙……。やっと見つけたか……」
その声は地中深くから響くような地鳴りのような声で、背中がぞわりとした。
ツヨキとヒカリが互いに抱き合いながら涙目になり震えあがっている。
瑞希が恐る恐る後ろを振り返ると、そこには家来の鬼たちを従えた、身の丈三メートルはあろうかと思うような恰幅のいい鬼が鎧を着た馬に乗り、見下ろしていた。
「はい。やっと捕まえました。父さん」
あきらかに先ほどとは態度の変わった京牙が瑞希を更にきつく抱き留める。
「えっ、きょ、京牙?」
「よくも俺を騙していたな、この生贄め」
昨日、そして今さっきとは全く違う目つきの鋭い京牙が自分の体を締め付けてくる。
その瞬間瑞希は封印に失敗したことを悟った。
村への道は昨日とは真逆に地獄だった。体中縄で縛られた状態で荷車に乗せられた。鬼の瑞希と人間の瑞希の扱いの違いをまざまざと見せつけられる事態だった。
ツヨキとヒカリも背中合わせにグルグル巻きに縄で縛られ、ツヨキはむっとした表情で、ヒカリは半べそ状態で瑞希の横に座っている。
あれほど優しかった京牙は先ほど自分を一瞥した後視線も合わせてくれない。
今日は街の裏道を通ってきたのか昨日の道とは違う方向に向かっていた。
そのまま荷車に乗せられ数人の鬼に引かれ、坂道を登っていく。
『瑞希大丈夫か……』
ツヨキが頭の中に話しかけてくる。
『うん』
『あの馬に乗ってる奴、ヤバい気を発してる。けど、俺らが気づくまで気配消してやがった。かなりのやり手だ』
『桃治さんが、一筋縄では行かないって言ってましたけど、まさにその通りでしたね……僕たちどうなっちゃうんでしょうか』
『瑞希はどうか知らねぇけど、俺たちは邪魔だろうな、消されちまうかもしれない』
『そ、そんな……』
ヒカリはそう呟くと身を震わせた。
山の中腹辺りで下方に街が見下ろせる。
瑞希はかなり高い所に来たことを知り、更に見たことのある屋敷を見て、そこが京牙の家であることを悟った。この城は京牙の家の更に上にあったのかと思う。
ふと誰かの視線を感じて振り返ると、京牙は先ほどと変わりなく険しい表情をしている。
(京牙……俺の事許せないのかもしれない。ある意味自分を封印しようとしていたのが鬼に変装していた巫子だなんて……。僕これからどうなるんだろう)
気づくと目の前に天に届きそうな勢いの大きな門が構えていて、いかつい瓦屋根に左右に大きなツノがついている。
その大きさに圧倒されてしまった。開いた門はとても分厚く、ここを通ったらもう外に出られないような予感すらした。
中はヒンヤリしていて大きな柱が並んでいる広間に出ると、その先にある地下の階段へ連れていかれた。
そのまま幾つも並んでいる牢屋の一つに乱暴に三人は放り投げらえた。
「京牙っ!」
牢屋の格子越しに叫んだ瑞希だったが、京牙に一瞥されただけでそのままみなは引き上げてしまった。
「くっそ、乱暴にしやがって」
「僕らどうなってしまうんでしょう……」
瑞希は言葉もなく、しばらくうな垂れた。
自分が思っている以上に京牙の変貌ぶりに驚きショック受けてる自分に気づいた。
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