6
「あ……」
横にスライドしたドアの先に部屋が現れた。
「おぉぉ! すげぇ! 部屋だ。ここはからくり屋敷なのか?」
ツヨキが感動で目を光らせた。
「や、やばくない?」
瑞希は見てはいけないものを見てしまったようで慌てる。けれど凄く気にはなる。明らかにこれは京牙の秘密の部屋。
「なんだここ。瑞希、行ってみようぜ!」
「いや、まずいよ、そこに入るのは流石に……」
そう言いながらもこんな偶然に秘密のドアが開くとその先が知りたくなるのが人間だ。
次々に部屋に入って行くツヨキとヒカリの後を戸惑いながらも瑞希はついて行った。
そっと部屋を覗き込むと思ったより部屋は整然としていた。木彫りの大きなテーブルと椅子。壁には額縁に入れた何かが飾ってある。
近くに行きそれを眺めてみて瑞希の息が止まりそうになった。
「こ、これは……」
どこかで見たはずだ。これは村の神社の蔵で見たあの絵巻に似ている。
いや、似ているどころか、そのものだ。
「なんで……? これがここに?」
あの時は巫子が鬼王に生贄として捧げられて、好き放題されている絵にショックを受けた。その後とにかく逃げなければと慌てて支度したものだから、その絵巻の先は見ていなかった。改めてその絵巻きを見ると、さらにその先の様子が描かれている。
それは巫子が鬼王に従う振りをしながら、懐にある剣で鬼を封じようとしているのだ。
「これは鬼封じの虎の巻じゃねぇか!」
ツヨキが声を上げる。
「え、虎の巻き?」
「そうだぜ。なんでこれがこんなところに置いてあるんだ?」
瑞希は自分が聞きたいくらいだと思った。確かそれを抱えて逃げた。そこまでは覚えている。
「あっ、みなさん、これを見てください!」
そうこうしていると、ヒカリがなにやら騒いでる。
それは部屋の奥の棚の上に透明なケースに飾られてあった。
「おぁあ! これ封印の剣にすげぇ似てる」
「なんだって……」
ヒカリが透明のケースの蓋を外そうとする、ツヨキも手伝うとそれは思ったよりもあっさりと空いた。
二人が剣を瑞希の手の上に持ってくる。緊張した瑞希は剣の柄を掴み、鞘を引き抜いた。刃の部分は約三十センチくらいで、刃も欠けておらず、鈍く光っている。
「似てるどころか。そのものじゃありませんか?」
ヒカリも言う。
「まさかこんなところにあったなんてな」
「でももしそうだとしても、どうして鬼を封印する剣がこんなところに……?」
「わかんねぇけどよ、先代の人身御供が持って行って、運よくこの世界に持ち込めたんじゃねぇのか? んでもって何かの拍子に京牙がこれを手にする機会があったんだ。そしてあいつが今度の鬼王になるってことだから、自分を封印するものだって気づいたんじゃねぇか?」
「ねぇ、ヒカリ、ツヨキ、桃治おじさんと連絡取れない?」
「それがな……さっきから俺らずっとコンタクト取ってるんだが、連絡とれねぇんだよな。なんかアンテナ感度悪いんかな?」
ツヨキはそう言いながら頭を振った。
「確かに、あれ以来コンタクト取れていませんね。でも私たちが桃治さんから聞いていた剣のイメージはこれと全く同じでしたよ?」
「紅葉ちゃんの話によると次期鬼王は京牙って事だったよな、つまり……」
「「人身御供を授かる鬼ってことになる!」」
ツヨキとヒカリが同時に叫ぶ。瑞希は少なからずもショックを受けた。自分を助けてくれたはずの京牙が、実は自分にとって一番の敵だったのだ。
「このままじゃもし瑞希さんが自分が人身御供ってことがばれたら……」
「京牙に好き放題されて、子供産まされた挙句に食われちゃうぞ!」
「そ、そんな……」
信じたくなかった。自分に親切にしてくれていた京牙が、実は桃治おじさんが、村のみんなが、封じたいと長年願っていた鬼だなんて。
「いい人そうでしたけど、実は京牙が宿敵だったんですね」
「そういやあいつ、瑞希が落ちた滝の傍にいたよな?」
「もしかして、彼があそこにいた目的って人身御供を待ち構えていた?」
そういえばさっき京牙の仲間がいつも京牙が河原にばかり行っているという話を聞いたばかりだ。
まさか、京牙は自分の人身御供を待ち構えていて……。
瑞希の中で混乱がなかったわけではないが、今までのことが全て合点は行く。
(僕はどうしたらいいんだろうか……。)
「とにかく、新しい着物探してる場合じゃねぇよ、さっさとこの家から出た方がいい!」
「そうだ、僕達が先回りしてしまおう! この剣を持ちだして、先に京牙を封印しちゃうんだ!」
瑞希は懐に剣を忍ばせ京牙が昔履いていたらしき小さなブーツを見つけると、それを拝借することにした。これでいくらでも走れる。
奉公人の角武とアザミの目を盗み、二階から紐の梯子に化けたツヨキとヒカリにつかまりながら降りると、一目散に昨日の河原へ向かうことにした。水の匂いを頼りに、ツヨキとヒカリが河原に導く。
河原に向かって走っている途中で、ふと京牙のことが頭をよぎった。
自分の頭を覗き、角があることに落胆していたことを思い出す。
それらを思い出すと、やはり京牙の目的が見えてくる。
何故か胸が痛む。いや、痛めることはない。むしろ敵がこんなに早く見つけることができて、逆に返り討ちにできる可能性が出て来たではないか。
そう自分に言い聞かせながら、瑞希は昨日京牙が自分を背負って歩いてきてくれた道を逆走していた。
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