2
広い絨毯引きのだだっ広い玄関……。
奉公人らはみんな笑顔で出迎えていて頼りになりそうな人たちだったが、やはり頭には立派なツノが二本ついている。
「ぁあ、京牙さまの御客人でございますね、いらっしゃいませ」
妙に腰の低い初老の奉公人が俺の元へくると、「ささ、お部屋に案内いたします」と頭を下げた。
(京牙はどうやらこの村の中でもお金持ちの鬼らしい……)
戸惑う瑞希に京牙は遠慮すんなって顔で瑞希を見た。
オドオドする瑞希に京牙もついてきてくれるらしい。
奉公人と京牙に連れられ、瑞希が広い階段の前まで来ると頭の上から高い声が響いた。
「あれぇ~お兄ちゃん、その人だぁれ?」
見上げると髪の長い女の子が二階の階段の縁に寄りかかったようにこちらを見ていた。
「おぅ! 紅葉(もみじ)今帰ったぞ」
「お帰り、お兄ちゃん!」
紅葉と呼ばれたその女の子は、凄くスタイルが良くて、丈の短い着物を着て瑞希を好奇心いっぱいの顔で見ている。
瑞希たちが二階に上がり、彼女と同じ位置に立つと彼女も背が高い。瑞希よりも一回り大きかった。
瑞希が彼女の前でぺこりと頭を下げると、彼女も頭を下げた。
瑞希が紅葉の前を通るとき彼女は少し鼻をひくりとさせ、少し訝しむような顔をする。
そのことを瑞希たちは知らないまま、部屋に向かった。
通された部屋はまるで旅館の一室のようだった。
そして畳が十畳は軽く超えるくらいの広さだ。
「すご……」
「客用の部屋だけど、お前ならいくらいてもいいからな」
京牙はにっこり笑うと少しだけ牙が見えた。
「食事の時間になりましたら、お呼びいたしますので、しばし、おくつろぎください」
奉公人の声に瑞希は慌てるようにお辞儀をすると、二人はそのまま部屋を出て行ってしまった。
部屋の広さに思わず感嘆の声が出る。
(想像していた以上に凄い……)
辺りを見回すとこの部屋には和式だったがトイレも樹でできたお風呂もついている。誰にも気づかいせず一人で過ごすにはばっちりだ。
窓から外が見え、そこから村が一望できた。
(なんだかえらいところに来てしまった……)
瑞希は思わずため息が出た。
洗面所には大きな鏡が取り付けてあり、瑞希はさっきの事を思い出した。
「そうだ!」
瑞希は先ほどから気になっていたことを改めて確かめようと鏡に映る自分をじっと見る。
自分の頭にはやはり二つの角がついている、そこに再び真剣な眼差しで手を触れ、さっきよりも綿密に調べ始めた。
『あぁん、だから止めてってば』
(!)
さっきと同じ声が頭の中に響く。
「一体何がどうなってるんだ?」
瑞希はわけもわからず再び角を触りまくった。
『もう我慢できないよう……』
うふふ、という笑い声が頭に響く。
『バカ、少しくらいくすぐったくても我慢しろよ!』
『無理だよう、もう限界だよう!』
次の瞬間瑞希の頭に二つの煙幕ができると、角が消え、洗面台に二匹の小人が降り立ってきた。
「! きっ、君たちは!」
忘れもしない、瑞希がこの世界に来る前にトロッコで一緒に逃亡を図ってくれた、陰陽師の桃治おじさんの式神たちだ。手のひらに乗るくらいの小さな小人。
手足が短く頭でっかちだ。
「よぉ! 俺はツヨキってんだ」
小さいながら力こぶを見せるツヨキ。
「ボクはヒカリだよ!」
ヒカリは人見知りするのか、もじもじした様子で恥ずかしそうにしている。
「お前、おいらたちがツノに化けなかったらヤバかったんだぜ!」
「そうだよ。ボクら大慌てツノになったんだ」
瑞希はその見た目の可愛らしさに加え、心細かった気持ちから思わず二匹の小人たちをひとまとめにして抱き締めた。
「君たち生きてたんだね! 良かったぁ、良かったよ~!」
「止めてくださいよ~くすぐったいですよぅ」
一人の式神が顔を真っ赤にして身もだえる。
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