8

「なんだぁ!」

「す、す、すみませんっ、そのっ、僕外に出ます」

「何言ってんだお前、今外に出たら危ないぞ?」

 門番が瑞希の慌てぶりを訝しむ。

 京牙がすぐに追いついてきて瑞希を諭す。

「そうだぞミズキ、もうじき夜が来る。お前昼間襲われたからまだ俺が気づけたものの、夜じゃ完全にアウトだったんだぞ?」

「いや、だって僕っ、僕はっ……」

 瑞希は言葉に詰まった。


(だってこの街っ……鬼っ……鬼の巣じゃないかぁあああああ!)


 心の中で悲鳴を上げたが、すぐに門番が瑞希の頭に手を置いた。


「ひっ!」

「見かけない小鬼だなこいつ……」


(えっ?)


「だろ? 子鬼だと思ったんだが、これでこいつ今年で20歳なんだってよ」

「マジか、随分小さな鬼だな、でもまぁ、二本角だから俺らの仲間か」

「そうだぜ、一本鬼の一つ目野郎に襲われそうになってた」

「そりゃ危なかったな坊主。あ、坊主じゃねぇのか?」

 

 その場にいた全員が和やかに笑い出す。

 そしてどの鬼もみんな瑞希に温かな視線を送っているのだ。


(え、まって……僕。仲間だと……。鬼だと思われてる? なんで?)


 そう思いふと瑞希は自分の頭をそっと触る。

 

(えっ!)


 自分の頭の上には確かに二本の固い角のような感触がした。


「えっ、何がっど、どどどうなって?!」


 今度は瑞希は街中へ走り出した。


「なんだなんだ? どうした今度は、忙しい奴だな」


 瑞希は商店街を駆け抜けながら左右見渡した、丁度手鏡を売っているお店を見つけ、すぐに店にある手鏡を手に取る。


「あぁ、ぼうや、店の物を手にしたらダメだよ、お母さんはどこ?」

 鏡の中に映る自分の頭の上に立派な角が二本、確かに生えていた。


(な、なにがどうなってるんだ? 僕はこの世界に転生でもして鬼にでもなったのか?)


 子供をあやすように店の女に手鏡をそっと奪われ、瑞希は横にある姿見で確かに自分が鬼であることを確認した。


「どうした?!ミズキ」


 慌てて入って来る京牙にお店の女は少しだけ顔を赤らめ親し気な声を出す。

「あらあら、京牙さん、京牙さんの知り合いかぃ?」

「あぁ、ま、まぁな」

「それなら、どうぞ、これは京でも指折りの職人が作った手鏡だよ、お勧めだよ」

 そう言うとまたそっと瑞希の手に手鏡を渡した。

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