6

(そんなことないよな……)

 ふと京牙の横顔を見て瑞希は首を振った。

 京牙は裸足のままの瑞希に気づいた。

「お前、服もなかったが、靴もないのか?」

「あ、う、うん……ごめん」

 そう言うと京牙は笑う。

「別に謝らなくてもいいんだけどな」

 そう言いながら少し考え事をするとしゃがみこみ、こちらを見た。

「なんにしても裸足でこの先歩いて行くのはキツイと思うからよ、俺がおんぶしていってやる」

「なっ、いいよ! そんなことしてくれなくても!」

「いや、無理だからよ」

「いいってば!」

「ちっせえんだから、歩くのも遅いだろうしな」

「な、何か靴の代わりになるようなものないかな。そ、それで歩くから! 僕は君と同じにもう『大人』だしっ!」

 瑞希は少しむくれて京牙を見上げた。その態度は少しも大人っぽくは見えない。


「ったく……しょうがねぇな……」


 京牙は渋い顔をして頭を抱えると、何か閃いた様子で、懐から布巾のような布切れを取り出した。口でそれを半分に裂く。


「その岩に座りな」

「え……」

「いいから」

 言われたとおりに座ると、その布で瑞希の足を包み、撒き始めた。

「簡易的な布わらじだけど、これが靴代わりだ。これしかねぇよ。この辺りは何もねぇし、これでよしっ」

 そう言うと瑞希の頭にポンっと手を置いた。

 大きな手で温かい。子供じゃないって言ったのに、完全に自分を子供扱いしての行動なんだろうなとふと瑞希は思った。

(くっそ……ちょっとくらいでかいからってなんか余裕ぶっこいてないかこいつ。ムカついてきたから意地でも歩いてやる)


 それから二人は岩肌が多かった草原や草木の多い茂った草原を抜け、更に大きな道へ出た。

 そこから道沿いに歩いて行く。


「それにしてもこんなに何もない所で、あんな無防備な状態で助かった奴なんて珍しいぞ、この辺り巡回してると言っても、俺もそんな年がら年中行かないからな。お前ほんとラッキーだったな」

「……うん……。ありがとう」

 妙に素直になった瑞希を京牙は改めて見た。

「お前あそこで何してたんだ?」

「えっ……」

 言葉が繋げられず、言い淀んでいると、京牙は頭を掻いた。

「……言いたくねぇならいいけどよ」

 それから二人は無言でひたすら歩く。

 やはり油断をすると距離が広がってしまう。京牙に必死についていった。

 それでも彼の広い歩幅に合わなくて、慌てて小走りに追いかけて行く。

 確かに彼は背も高いが足も長い。ブーツを履いていたが、足も大きい。

 鞘に収まった重そうな鉈も軽々と肩に担いでいた。


「……ミズキ。やっぱちっせぇから歩くのも遅いな」

「く、靴がないからだよ、そ、それに京牙は足が速いし」

「……そうか? これでもいつもの半分の速度に落としてるつもりなんだが……」

 そう言うとちらりと京牙は瑞希の足元を見た。やはり、布では限界があるようだ。

 

 足が遅いだけじゃない。恐らく無理して歩いたのか傷んでいるようだ。

 段々と瑞希の足が遅くなっていく。

 京牙はため息をつくとしゃがみこんだ。

「やっぱ、お前歩くの遅いし、靴じゃないし、俺がおんぶしてってやる」

「いいよ、自分で歩くから」

「無理すんなって、足それ以上痛めると後が辛いぞ?」


 確かに瑞希はもう足がしびれていた。でも自分でも何故こんなにムキになっているのかわからない。

 でも同じ年の京牙に自分を子供扱いして欲しくない何かがあるのかもしれない。

 

 この世界で初めて会った人で、この人に頼る以外今は方法が思いつかないのに。

 それでも今ここで自分を助けてくれた人にムキになっても仕方ないような気にもなってきた。


 瑞希は大人しく京牙の背中におぶさることにした。


「最初からこうすればよかったのによ……」


 それは嫌々というよりもやっぱり仕方ない奴だなってどこか弱い物を守るような、そんな言い方に聞こえた。

 安定感のある背中に乗っかると目線が地上から高くなる。

 今さっき会ったばかりなのに、ここに来てから一番ほっとする時間が彼の背中だとは。

 ふと気づくと風が頬に当たり、遠くの空が赤みががってきた。

(そうか……もう夕方なんだ……)

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