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小人が押しているハンドルを自分も取り、ぐいぐい押した、しかし、漕いでも漕いでもなかなかトンネルから抜けない。
(あれ? このトンネルこんなに長かっただろうか)
そのうちレバーが前後に勝手に動き出した。トロッコが下り坂に差し掛かり、加速がついているせいだ。
小人たちが今度は慌ててブレーキをかけようとしたが、トロッコはそのまままるでジェットコースターのように滑り出す。
ふとトンネルが抜けたと思った瞬間、目の前の線路が途中で切れていることがわかった。
「え? あ! こ、ここは? あ、あぁぁああああああ!」
考える間もなかった。加速をつけたトロッコは瑞希と小人たちを乗せたまま、途切れた線路から飛び出す。車体が宙に浮いた。
そのまま断崖絶壁から谷底へ落ちて行く。
落ちて行く間、視界には見たこともないような大きな滝の水の塊が、自分らとともに谷底に落ちるように流れていた。
(死ぬときってこんなあっけないのかな?)
落ちて行く先が真っ暗でなにも見えない。瑞希は奈落の底へ落ちて行った。
谷底に落ちながら目の前が真っ暗になり、瑞希は自分の意識も川と共に落ちて行くのを感じた。
どのくらいの時間が経ったのだろうか、ふと冷たい雨が肩にさらさらと降り注いでいる感触がした。
何かドドドという音を立てているものが近くにあることに気づき、目が覚めると、丸い石が無数に転がっている川辺に下半身水に浸かったまま横たわっていることに気づく。
まるで太鼓を叩くような大きな音をたてているのは、近くの滝壺だ。
(僕……まだ生きてる……? 確かトロッコで逃走して、トンネルを抜けたと思ったらその先は崖になってて……確かそのまま)
途方もない底へ落ちた割には自分にははっきりした意識がある。
「……?! 小人さんたちは?!」
共に落ちた彼らの存在を思い出し、瑞希は飛び起きて周囲を見渡したが、小人もトロッコもない。
上を見上げたが、空は靄のようなものがかかっていて、何も見えない。
(もしかして……僕死んだのかな? ここって天国ってところなのかな? みんないない……)
瑞希は途端に心細くなった。
しばらく瑞希は自分の状況が理解できずただ茫然としていた。
「ぐへへ……可愛い子ちゃんだぁ……」
ふと、近くの草陰から野太い声が聞こえ、瑞希は振り返った。
「うわぁああ!!」
そこには大きな目玉が一つ、頭に一本の角を生やした全身肌の色が青みがかった図体のでかい男が、布切れだけを腰に巻き付けて立っていた。
手には下方に膨らんだ金属の棒を持っており、そこにはトゲが沢山ついていた。
それはあまりにも現実離れしていて、けれど瑞希には見覚えのある姿でもあった。
(そうだ……これは伯父さんが教えてくれた絵巻に、脇役だが描かれてあった……。お……鬼?)
一本ヅノの大きな目玉の巨体は巻物の絵よりも迫力があり、瑞希の目の前に迫ってきた。
そしてそこではじめて自分が裸であることに気づき、思わず手で股間を隠す。
男は無精ひげを生やしており、しまりのない大きな口元から涎が垂れていた。
否が応でも自分が絶体絶命であることを悟り、瑞希は後ずさる。
背後の川辺の石ころに手探りしながら、掴み、ゆっくりと立ち上がった。
一つ目の鬼が近づくと同時にその大きな瞳に石を投げつける。
「いてぇ!」
大声を上げた鬼の横をすり抜けるように走り出す。
「まてぇ!」
少し下卑た声で追いかけてくる鬼に瑞希は全身から血の気が引いた。
けれどとにかく逃げなくては。
足元が石ころだらけで裸足では痛くて動きが鈍い。
そのうちに柔らかな草原に変わったものの、図体の大きな鬼は歩幅も広く距離を詰められていた。
瑞希は思わず草に足元を取られ、躓き、その場に倒れてしまった。
鬼の大きな足が瑞希のプルリとしたお尻にのしりと踏みつけられ丸いお尻は平べったくなった。
「ひっ!」
瑞希はその場で動けなくなった。
何か言葉を発したくても口がパクパクし、体ががくがくと震えるだけだ。
「い、いやだぁ……誰か助け……!」
「可愛い桃尻じゃのう……。美味しそうだがや……」
げへげへと下卑た低いガラガラ声に、思わず目尻に涙を浮かべ、絶対絶命を感じ、瑞希はぎゅっと瞳を閉じた。
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