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「瑞希、大丈夫か?」

「伯父さん助けて!俺、このままじゃ人身御供にされちゃうよ!」

「わかった、今助けてやる」

 桃治は懐から数枚の小さな紙を取り出すと、目を閉じぶつぶつと何か呪文のような言詞を唱え始めた。彼の手から光が溢れ何かが無数に現れた。

 それらが地上に降りたと同時に、沢山の光の小人と化し、瑞希の周りを取り囲んだ。

 村人はその者が何かわかっていたのか、一斉に怯えながらたじろぐ。

 光の小人を見た宮司のじいが眉間にしわを寄せた。

 

「むっ、擬人式神か。桃治、無駄な抵抗は止めろ。捧げ者をせねばわしらは異世界から鬼の大群に責められ、この村は愚か、街ややがて国まで鬼の襲来を止めることはできないのだ。それほどに鬼とは怨恨関係にあるのだ」

「何故そこまで鬼に恨まれなくてはならなかったのですか? 例えそうだとしても、瑞希には何も罪はない、私がこの地を離れる時にもうこんなバカげたことは止めるとおっしゃっていたじゃないですか?!」

「お前にはわからん、村から出た人間には所詮わからないことだ」

「いいえ、私が東京に出たのは理由があります。今もあの国と村との繋がりを考えていました。鬼との世界を閉じることはできても、根本的な解決にはならない。まだ、仲間が戻ってきていないのです。それなのにまたこうして瑞希を送り出さねばならないなんて、間違っている! 本当にそのやり方でしか鬼との契約はできないのか。何か他にいい方法があるはずです」


そのまま小人たちは縛られたままの瑞希を担ぎ上げる。

 ホームには瑞希を乗せるための一台のトロッコがあったが、離れたところにもう一台トロッコが見える。

 トロッコは瑞希には馴染みがあった。

 子供の頃よくこの駅の車掌さんに乗せてもらい、鉱山の方へ遊びに連れて行ってもらったものだ。

 中のブレーキを緩めると、後はレバーを上下するだけで動く単純な乗り物だ。


「式神さんたち、あれで逃げよう!」


 瑞希の言葉に小人たちはコクコクと頷くと、リーダー的な気の強そうな小人が前に出て、他の小人の指示をしはじめる。

 頷いた小人たちはえっほえっほと瑞希を担いでトロッコの元へ向かった。

 小人たちがトロッコへたどり着くとリーダーがトロッコのヘリに乗り、周りを確認する。

 小人は瑞希を中に落とし、何人かが落ちるように続けて中に入り込んだ。

 トロッコのヘリにリーダーと共によじ登り、周りを確認するものと、中のレバーを操作するもの、トロッコを押すものに分かれ、トロッコは動き出す。

 縄を解いてもらった瑞希はひょいと顔だけ外に出した。加速するトロッコへ徐々に飛び乗る小人たちだったが、一人だけ上手く行かず必死に走っている。彼は待ってとばかり焦り泣き出した。

 瑞希はとっさにその子に腕を伸ばす。少し錆びついた車輪がギリギリと音を立てぐんぐん加速する。

 あと少しで手が届くのに。瑞希も焦るが、咄嗟にリーダーが瑞希の伸ばした腕の上を滑り、瑞希の手首につかまりながら腕を伸ばした。リーダーが泣きながら走る子の腕を捕まえ、なんとか全員トロッコに乗ることができた。

 

「まてぇええええ!」

 数人の声がして振り返ると村人がトロッコで追いかけて来た。

 瑞希たちの乗っているトロッコにいまにもぶつかりそうになるほど後続のトロッコが勢いを増してくる。

 先ほどギリギリで間に合った小人が怯えて再び泣き出した。瑞希は咄嗟にその子を抱きしめた。


 リーダーが必死に小人たちに指示すると小人たちは必死にトロッコのレバーを上下させた。

 今度は瑞希たちのトロッコの方が加速しトンネルの方に進み始める。

 みんなが叫んでる声が聞こえたが、そんなのは無視した。

 トンネル内はじめっとした空気で肌にまとわりつくようだ。

「瑞希っ」

 追いかけようとする桃治の前に宮司のじいさんは立ちふさがる。

「安心せいっ滞りなく、奴はそこへ向かうだろう」

「なんだって?! くっ、瑞希っ!」

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