第5話 ブスって誉め言葉!?

次の日、成が教室に入ると、何やらみんなにやにやしている。

その真ん中の席に、朝里が鞄を持ったまま突っ立っていた。


少しずつ朝里のもとへ近づく成。

そして、朝里の机に書かれていたのは…


〔ブス!目と目の間は長いし、鼻は豚だし、歯並びは悪いし、顔がでかい。これをブスと言わずになんという?(笑)〕


と机いっぱいに書かれていた。


すると、成は、何の前触れもなく、朝里の机と、自分の机を交換し、そのまま座った。


「なんだこれ。俺のためのインテリア?いいねえ!書いたやつ誰?」


「あはははは!さすが美男子、インテリアって!」

クラス中が笑いに包まれた。

「だから、その美男子お礼言いたいって言ってんの。良いから、誰?これ書いたの!」


そして、と言わんばかりに、静々と、半笑いで成の傍に寄って来た。

「あぁ、原田はらだ伊那いなか…」


「ありがとー」

と立ち上がり、鞄から取り出したのは…ペットボトルのお茶だった。

それを、原田に頭からぶっかけた。

「キャー!!」

伊那にもやろうとすると、お茶なんかより数倍手ごわい、ミルクティーをドバドバぶっかけた人物がいた。

「イヤぁぁぁぁな!何すんのよ!さん!」

二人はパニックだった。

すると、成は、水を、なんと、朝里にもぶっかけた。

「ヒ…!」

朝里は声を出せない。



(昨日…夢でも見たのかな?私…)

そう頭から流れる水が涙も一緒に流れて行った。


そう思った瞬間、花見が言い放った。


「あんたたち、鏡見な!ファンデ取れて毛穴もニキビも丸見えだよ!マスカラも取れてパンダ!」

そして、バトンを渡されたのは、成だった。

「見ろ!メイクしないで、このもちもちの肌になれるのかよ!このマスカラなしで加藤のこの長いまつげに敵うのかよ!!」


『本当のブスはあんたたちだよ!!!』


二人の迫力に、原田と伊那は、

「何なのよ―――!!!」

そう叫び、教室から飛び出した。


二人が出て行った後、

「ごめんな、加藤。水ぶっかけて。これ使え。俺の部活のタオル。放課後に使う用だから、汚くないから」

「え…でも…」

「良いから!拭け!」

タオルで拭こうとしたら、頭が少し固定された。

涼子が優しく頭を拭いてくれていた。

「朝里、こんなの、気にしなくていい。私が今まで取ってきた行動だけど、私はもうあんたを友達だと思ってるから。…ありがとう。…スマホ」

水が滴る中に涙が混ざって、朝里は言わなければ…と思った。

「…ごめんなさい…私、昨日…花見さん…花見さんたちをトラックの前に突き飛ばそうとしたの。野口君が止めてくれたの。じゃなきゃ…ごめんなさい…!!」



「そんな事良いの!何でもない!でも、朝里!やっぱ朝里はブスだよ!」

「え…」

「ほら、すぐ下向く!それ禁止!」

「でも私…」

思いもよらぬ、昨日戦場に現れた敵が、味方になって、真剣に向き合ってくれている。

そして、学校中で一番モテる人が、こんな自分に真っ向から叱ってくれている。

「ブスは泣いても良いけど、笑っちゃダメ、なんて法律があるのかよ!?」

「…無いと…思うけど…」

「バーカ!ねぇの!昨日笑えたの忘れたのかよ!堂々と笑えよ!ブス!!」



「ふふ」

朝里が笑った。


「ブスが誉め言葉だって…今、初めて知った」


朝里の笑顔が弾けた。

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おい!ブス!俺たちについてこい! @m-amiya

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