第27話 浪人生、嫌な朝食をいただく

 さあ、朝食を食べよう。

 清々しい朝なんだ。

 嫌なことは忘れよう。

 ポヨ?

 今、洗濯中。

 俺の下半身が当たったチューリップハットは嫌だとか抜かして。

 これが年頃の娘さんならともかくスライムだから何か腹立つ。

 そもそも、あいつが俺の服を隠さなきゃ┅┅

 て、もういいや。

 メシだ、メシ!

 俺がそんなことを考えていた時、事件は起きた。


「コータさん、魔物です!」

「ありゃ、ゴブリンやな」

「えーっと┅┅八匹だね」


 冒険者のアイ、マイ、ミーが物騒な事を言い出した。俺は慌ててテントを出て確認する。

 あっ、本当にいた。

 あれがゴブリン┅┅

 遠目に見えるどす黒い物体。やべえ、何か怖い。


 浪人生として勉強ばかりやってきたから戦いとかおっかねえ。

 ましてやゴブリン。

 昔は最弱と思ってたけど、最近のラノベやアニメじゃけっこう強いモンスターとして描かれているんだ。

 それが八匹も!

 これはどうすりゃ良いの?


「ほな、アイ姉にミー。ウチが行ってくるわ」

「気をつけてね、マイ。ゴブリンのキバは冒険者ギルドへ提出するから回収も忘れずに」

「アハハ、マイ姉ちゃんはゴブリン狩り好きだよねえ」

「ウチのバックを壊した恨み! ほな行ってくる」

「「行ってらっしゃ~い」」


 あれ?

 ほのぼのしてね?

 ゴブリンって、けっこう見かけは怖いんだけど┅┅

 って、はやっ!

 冒険者三姉妹の次女のマイが、あっという間にゴブリンに突撃していた。

 彼女達の武器はショートソード2本。

 両手に一本ずつ器用に振っている。

 あっ、血だ!

 遠目で分かりづらいがマイが圧倒してる模様。


「アハハ、マイお姉ちゃん遊んでるね?」

「まったくあの子は┅┅」


 ええっ。

 遊んであれだけ強いの?

 浪人生の俺からすれば、怖いくらいに強いんですけど。

 ああ、もう終わったみたい。

 マイが戦利品のゴブリンのキバを集めていた。

 スゲーな冒険者。あんな可愛い猫耳少女が瞬殺だった。


「┅┅ん、コータ。乾燥」


 一方、こちらは洗濯が終わったのかポヨが濡れたチューリップハットを差し出してきた。

 いや、空気読めよスライム。


「もうちょっと待って。今冒険者のマイちゃんがモンスターを倒したとこ」

「┅┅ん、待てない。ポヨはコータの嫁」


 違います。

 お前みたいな嫁はいらん。


「┅┅ん、コータはやり逃げ?」

「やってねえし、逃げてもねえ」

「ならば急ぐ!」

「嫌だ。というか、乾燥とか必要ねえだろ。ほっときゃ乾く」


 俺がそう言うと、ポヨが目玉をひんむいて怒りを露にした。

 あったんだ、目玉。


「コータはあたいを怒らせた!」

「いや、誰だよお前?」

「ええいっ、だまらっしゃい!」

「マジで誰だよお前?」


 ポヨが珍しく饒舌になってる。

 でも、ポヨだしな。

 すぐに飽きるだろ。

 そう思った時期が俺にもありました。

 もっと警戒してれば良かったと後で思うがもう遅い。


「コータはーん、みんなー、見て見てー、ゴブリンやっつけたでー」

「お帰りマイ」

「姉ちゃんやったねー」


 ポヨに構ってたら猫獣人のマイが帰ってきた。


「ありがとうマイちゃん。さあ、この水で手を洗って。それから食事にしよう」

「うん」


 俺は老を労いエビデンスゴータマ特製のマジックアイテム水筒を渡して上げた。

 それから朝食用の黒パンをみんなで食べようとしていたその時だった。


「┅┅ん、コータはゴブリンメシ」


 ポヨの一声。

 俺は驚いた。

 だってポヨは声に続いて魔法をはつどうしてたから。

 しかも、錬金術。

 使えたんかい!?

 いつも俺にばかりやらせてたから、てっきり使えないものかと。

 いや、今はそれはいい。

 問題はポヨが唱えた錬金術の方。

 ポヨは言った。


「ゴブリンメシ」と。


 その時、俺は口の中に広がる苦味と悪臭に悶え苦しんでいた。


「ウェーー!? なんじゃこりゃあああ」

「┅┅ん、ゴブリンメシ。薄情なコータにはお似合い」

「てんめー!」


 俺とスライムの戦いが再び始まった。

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浪人生の俺が異世界転移して変なスライムと錬金術でスローライフを満喫する 後藤詩門 @goto0525

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