第一章・第一話〜桐ヶ谷小学校5年4組の日常〜
朝のホームルームが始まる前の時間。教室には5年4組の生徒達が徐々に増えていき、皆荷物を置くとすぐ自分の仲の良い友達の所へ駆け寄り、昨日見たTV番組の話や好きなアイドルの話で盛り上がっている。
そんなどこにでもある普通の教室の光景。だがそれは1人の生徒の登校によって一瞬で掻き消された。
「成瀬〜!いつものあれ、やろうぜぇ?なぁ?」
たった今教室に入ってきたこのクラスのリーダー格の男子児童、朝永宗介(アサナガ ソウスケ)は教室の隅で読書をしていた成瀬文人(ナルセ アヤト)の肩に腕を回し、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。それを合図に、朝永の3人の取り巻きたちもゾロゾロと成瀬の机を囲む。
「うわぁ・・・またやってるよ朝永たち。」
「しーっ!あいつのやることに口出したらダメだよ!」
クラスメイトたちは皆気まずそうに朝永たちから目を逸らす。
これはこのクラスのいつもの光景であり、おそらくこれからも変わることは無いであろうことは、5年4組の全員が悟っていた。
「海、先生来ないか見張ってろ!」
「OK!」
朝永に命じられた取り巻きの一人、大山海(オオヤマ カイ)は返事をすると同時に教室の前の戸の方へ歩いた。そして、僅かに開いた戸から顔を覗かせ、教師が来ないことを確認した。
「大丈夫!先生来てないぞ。」
「サンキュ!んじゃ、やろうぜ。駿也、成瀬押さえろ!」
朝永の取り巻きの中で一番背の高い男子児童、高島駿也(タカシマ シュンヤ)が成瀬をはがいじめにした。すると朝永は、まるでサンドバックを殴るように成瀬を拳で殴りつけた。何度も何度も笑いながらそれを繰り返す朝永。殴るたびに鈍い音と成瀬の呻き声が教室に響く。
自分が次のターゲットにされないよう、見て見ぬ振りをする他の生徒たち。
顔と体が傷とあざだらけの成瀬。
この教室で笑っているのは朝永とその取り巻きたちだけだった。
「おいおい宗介、程々にしとけよ?先生にバレたら俺の優等生イメージ台無しだろ?」
朝永のグループで一人高みの見物をしていた学級委員の木下柊吾(キノシタ シュウゴ)がほくそ笑みながら言った。
成瀬へのいじめが始まったのは4年生の2学期頃だった。最初は悪口や物盗りから始まり、徐々にエスカレートしたいじめは暴力にまで悪化した。しかし、元々クラスの中でも内気で人と関わろうとしなかった成瀬を助ける者は一人もいなかった。寧ろ皆、心の中ではこのまま卒業までずっと成瀬がいじめのターゲットであってほしいとさえ願っていた。自分がいじめられたくないから。
キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴ると同時に見張り役の大山が振り向いた。
「ヤベェ!先生来た!」
大山のそのセリフを合図にいじめグループは慌ててずらかった。
やがて教室に担任の上野亮平(ウエノリョウヘイ)が「朝の会始めるぞー」と言いながら入ってきた。その言葉を聞いて自分の席へ着く児童たち。ただ一人、成瀬だけは教室の隅の掃除用具入れの前に蹲っている。
「おい成瀬、何してるんだ。早く座りなさい。」
上野は知っていた。朝永たちのグループが成瀬をいじめていることを。しかし、クラスのリーダー格であり体育委員やクラスの班長も進んでやってくれる朝永や、学級委員でクラス一のリーダーシップを持つ木下たちを敵に回すのは面倒だった。
「先生!成瀬君、宿題サボったそうでーす!」
高島が言うと、どっと笑いだすいじめグループ。他のクラスメートは皆関わるまいと自分の宿題を準備する。
「成瀬、放課後居残り決定だな!」
上野のそのセリフに、朝永たちはまた笑い出した。もはや上野もいじめに加担しているようだと他のクラスメイトたちは内心思っていた。
これがこのクラス、5年4組の日常であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます