ろっつおぶヒロイン

あんぶろうず

第1話 新社会人!教会!神様!

『好きですっ!

俺と付き合ってくださいっ!』


『ごめんね。来明君は友達としてしか

見れない……かな。ほんと、ごめんっ』


これで人生、何回目の告白だろうか。

そして、何回目の玉砕だろうか。

何回、好きな女の子が申し訳なさそうに

去っていくのを見ただろうか。


『はぁ……。またか…。

高校生活 残すところあと1ヶ月というのに、

またしても

俺の思いは届く事はなかった。』


告白が失敗し、落ち込む 彼の名前は

真嶺まみね 来明らいあ


『あー!!なんでだよー!!!

なんで俺はいつも

友達止まりなんだーー!!!』


周りの目など気にせず

来明は叫んだ。


『小学生の頃からずっとそうだ!

みんなみんな、恋愛対象として

俺を見てくれてない!

優しいよねー とか 良い人だよねー

とか、そんなのばっかだ!』


数えきれないほどの告白失敗で

半ば自暴自棄になる来明も

1ヶ月後には就職が決まっている。

一流とまではいかないが、

中規模程度で、売上もそこそこある会社だ。

一流企業寄りの二流企業といったところか。


『………って嘆いても仕方ない。

来月からは社会人だ!

そして、一人暮らしだ!

環境がガラッと変わる!

今までとは違うかもしれない!

大丈夫。

俺はどんな女性にも惚れやすいタイプだ。

今度こそ俺の人生に春を訪れさせる!!』


すれ違う人々に変な視線を浴びせられながら

来明は決意を口にして、拳を

天に掲げる。



そして 時は立ち、迎えた社会人1日目。

今日から仕事が始まる。


『よし!行こう。待ってろ!俺の春!』


そう気合を入れて来明は家を出た。


会社へは徒歩で向かう。


『…ちょっと早すぎたかな。

まぁいいや、その分 願掛けを念入りにやろう。』


そう、来明は今日、

今度こそ春を掴むため、

神社へ願掛けをしに行く予定をしていた。


『えっと、確かこの辺りのはず…

って。えぇぇ!!!』


しかし、

来明が願掛けをしようとしていた神社には

長蛇の列ができていた。

そして最後尾にはご丁寧にも

プラカードを持った男性がいた。


『なんだってこんな朝早くから

こんなに人がいるんだ?!

プラカード持ってる人いるし。

いつもこんなんなのか?

とても 待ってる時間はないぞ!

初日からついてないなぁ…』


落ち込む来明。

仕方ないか…と願掛けを諦め、

来明が歩き出すと電柱に貼られた

小さな看板に、なぜか目がいった。


その看板には

[ルミエール教会 ~全人類に幸せを~]

と書いてあった。


『……なんか宗教くさいな。

教会って看板で案内とか宣伝

するもんなのか?

でも、全人類に幸せを か……

目的の神社での願掛け できなかったし、

ちょっと行ってみよう。』


来明は 看板に小さく書かれていた

道案内を見て、教会へと向かった。

5分ほど歩くと

その教会へと着いた。


『……人の気配が全くないけど

大丈夫なのか?ここ。』


来明は少し不安になったが、

開いてあった門を抜け、

教会のドアを恐る恐る開けた。


ドアから建物の奥まで敷かれた

赤のカーペット。

右に5列、左に5列 4人がけの長椅子。

そして、1番奥に なんとも立派な女神の像が

あった。


『うわっ。すっごいな。』


思えば教会に初めてきた来明。

目新しい物ばかりの場所。

しばらく辺りを見回していた。

すると奥の女神像の前に

膝立ちをしている人物が見えた。

格好を見る限り、シスターだろう。


『あのー、すいませーん…』


来明はシスターに近付き、

これまた恐る恐る声をかける。

しかし、応答がない。


来明はもう一度同じように声をかけた。

が、またしても応答がない。

なので今度は肩を叩いてみた。


『ひょえっ…』


すると シスターは

体をビクッとさせ、驚きの声を小さく上げた。

そして、ゆっくり来明の方を向いた。


『すいません、驚かせてしまって。

えっと、ここの教会って縁結び的な神様

ですかね……?』


来明は、開口一番 自身の最重要事項である

部分について質問した。


『えっと、あの、もしかして

ミレンシスコ様へ祈りを捧げに

来られた方でしょうか……?』


シスターは来明にそう問いかけた。


が、来明がこの教会が崇めている人物など

知る由もない。

ミレンシスコ?誰だそれ?

フランシスコザビエルの親戚か何かか?

いや、でもここで そんな人知らないなんて

言って怒らせてしまったらまずい。

こうゆう所は神を侮辱する行為、発言は

御法度だからな。


『えっと、そうです』


来明は答えた。

言っておくが来明という男は

嘘をつくのが下手である。

この 『えっと、そうです』も

右手で鼻を触りがら、目を泳がせて

言っている。


しかし、嘘という事はバレていないようだ。


『本当に本当ですか?』


シスターは来明を真っ直ぐ見つめながら

そう言った。


『あ、はい!』


また、語頭に 『あ』が

つくのも来明が嘘をついている時に

出る癖である。


来明がそう言うと

シスターの顔がパァーっと明るくなった。


『お母様!お母様!!』


すると突然 大声でそう言いながら走り、

来明から左奥に見えるドアを開け、

その中へと入っていった。


そして、数秒するとそのドアから

なんともグラマラスなお姉様が

シスターに手を引かれ出てきた。


『もうどうしたの?

そんなに はしゃいで。』


お姉様がそう言うと、

シスターは 興奮気味に


『参拝者です!参拝者ですよ!お母様!!』


どうやらシスターは

だいぶ 興奮しているようだ。


『何言ってるの、美未音みみね

ここ数日。いや数週間。

いやいや数年。

いやいやいや、この教会ができた日から

参拝者なんて来たことないでしょう。

ミレンシスコ様の前で

そんな嘘は よしなさい。』


えっ。


『嘘じゃないです、お母様!ほら!!』


そう言ってシスターは

来明を指差した。


『ど、どうもー』


来明はとりあえず挨拶をした。

すると、そのお姉様。いやお母様は

目を見開きながら


『嘘でしょ。。。信じられない。

この教会が出来てから誰一人として

参拝になんて来なかったのに…』


お母様はかなり驚いているようだ。

しかし、誰一人として参拝者がいなかった

という事実に来明も驚いていた。


『ねっ!本当でしょ、お母様!

さっ、早くお祈りしてもらいましょう!!』


シスターは喜びのあまり、お母様に

抱きついていた。


『そうね!さっ、こちらへどうぞ。』


そう言ってお母様は

来明の手を掴み女神像の近くへと

連れて行こうとした。

しかし、誰一人として訪れなかった

この教会の神に祈る事に

不安が大きすぎた来明は


『あの、ちょっと待ってくださいっ。

やっぱり俺、帰ります。』


参拝者はいなかったらしいし、神の名前も

聞いたことすらないしで、

さっきから、

不安に駆られまくっていた来明は

お母様の手を

優しく解き、帰ろうとした。が

再度、お母様に手首を掴まれた。

しかも、めちゃくちゃ力強く。


『あのー、少し痛いんですけどぉ…』


来明はあまりの力の強さに

すこし怯えながらそう言った。


『こちらへどうぞーー!!!』


お母様は

居酒屋店員みたいな言い方で

腕が抜けそうなほど来明を引っ張る。


『イタイ!イタイ!イタイ!!マジでイタイ!!!

ちょっと待って!』


今度は恐怖に駆られ

より一層この場から去りたくなった来明。

なんとか手を振り解こうとするが

とんでもない力で握られ、

引っ張られているため踏み留まるのが

やっとだった。


『お母様!サポートします!』


シスターがそう言うと

来明の掴まれていない方の腕を

これまた、お母様と同じぐらいの強さで

掴み引っ張る。


『イッッッッターーーイ!!!

腕抜けるっ!!手首痛い!!!肩痛い!!!!

そして何より怖い!!!!!

うわーー!!』


来明はこの時、ほんの一瞬 死を覚悟した。

そして 抵抗 虚しく、来明は女神像の前へと

連れてこられた。


『さぁ、両膝をついて、

胸の前で手を合わせてください。

そして、顔をすこし下に向けて

ゆっくり目を閉じてください。』


お母様は、先程とは一転。

優しいお淑やかな声で来明に言った。

観念した来明は言われた通り、

両膝をつき、手を合わせた。

そして、ゆっくり目を閉じた。


目を閉じてから10秒程してだろうか。

微かに声が聞こえてきた。


『…ぃ。……ぉぃ。…おーい。』


ん?なんだ?呼ばれてる?


『おいこら。お前。聞いてんのか。』


えっ、なんか口調が怖いんだけど。


『早く目ぇ開けろ。』


なんか怖い!

目 開けたくないなぁ!


『オイコラ!!!!』


突然の大声に驚いた来明は目を開けた。

すると目の前に、銀髪の

なんともガラの悪い

女性があぐらをかいて神々しい椅子に

座っていた。

状況から察するに

これは夢だろう。

こんな人さっきまでいなかったし。


『ったく。いつまで目 閉じてんだよ。

声聞こえてたろ?

ビビってんじゃねぇよ。』


こっっわ。なにこの人…


『ったく。ここに降り立ってから

初めての仕事なのに、こんなヘタレみたいな奴が

客かよ。気分アガんねーなー。』


え?いろいろどういう事?

この人もしかしてこの教会の神様?

えっ、神様って目に見えんの?こわっ!

そして、仕事?客?

てか、初めてって!!


『よしっ。じゃあ始めるからこっちこい。』


そしてその女性は来明を手招きした。


しかし、来明はその場から動かず、

とりあえず質問をする事にした。


『えっと、すいません。

いろいろ聞きたい事があるんですけど…』


来明は少し申し訳なさそうにそう言った。


『あぁ?なんだよ。早くしてくれ。

このあとゲームの限定イベント回さねーと

なんだから。』


その女性は耳を掻きながら

なんとも めんどくさそうにしていた。




え。神様ってゲームやるんだ。


『まず初めに、あなたは誰ですか?』


来明は1番気になっていたことを聞いた。


『おいおい。からかってんのか?

おめーは私を知ってるから ここに来たんだろ?』


『いや、知らないです(キッパリ』


『はぁ?!いやいやいや!

お祈りとかすんなら、その神の名前とか

能力とか効果とか調べてから来るだろ!』


『いやぁ、それが看板しか見てなくてですね…

そういう情報を一切 入れずに

来ちゃったものですから。』


『………マジかよ。変な奴だな。

ま、いいや。』


すると、銀髪の女性は立ち上がり

自己紹介を始めた。


『えー、私はこの教会の神、ミレンシスコだ。

以上。よろしく。』


いや、自己紹介あっさりしすぎだろ。

名前だけって。情報量少ないよ!


『んー。えーっと、ミレンシスコ様は

どういう力を持った神様なんでしょうか?』


『あー、なんだろうなー。

平たくいうと、恋愛関係だな、うん。』


詳細がない!平たく言わないで!

全然しっくりこない!


『あのー、もうちょっと詳しくお願いします…』


『めんどくせーなー!

誰でもモテモテにできんだよ!私は!』


なにっ。


『マジですか?!』


来明は期待の眼差しを向けながら

もう一度聞いた。


『あぁ。マジだよ。

でも、条件はあるけどな。』


ミレンシスコはそう言うと、

来明に近づき、来明の胸に手をかざす。


『え、ちょっとなんですか?』


来明は戸惑う。


『じっとしてろ。』


すると、来明の胸辺りが光り、

その光の中から分厚い本が現れた。


『うぉえぇー!!なに?!すご!』


来明は突然の異世界チックな出来事に

かなり驚いた。


『いちいちうるさい奴だなー。

いいか?この本にはお前が産まれてから、

死ぬまでの人生が記されてる。それを見て

お前に力を授けるかどうか決めるんだよ。』


ミレンシスコは本についての説明をした。


『はぇーー。すごいなー。

…それで、どんな感じですか?』


来明は期待半分、不安半分に聞いた。


『うわ。お前 何回フラれてんだよ。

こんだけ断られたらもう彼女なんて諦めるだろ。

それにしても、初の告白が小1か。おませだな。

んー。まーでも、悪い奴じゃないみたいだな。』


前半は心の傷を抉られたが、

悪い奴じゃない。という

普段なら大して嬉しくない評価に

来明は期待していた。


『ってことは、力は授かれるんですよね?ね?』


『そう急かすな。

……これなら大丈夫そうだな!』


『おっ!OKですか!!

では早速お願いします!』


来明は、力を授かる気まんまんで

その場に土下座した。


『……ん。ちょっとまて。』


するとミレンシスコは

少し渋い顔をした。


『えっ!なんですか?

何か問題があったんですか?!』


来明は、先程とは一転

不安でいっぱいになった。


『お前、今日から死ぬまで、恋愛関係の波長が

ずっとピークだぞ。 良かったな!』


ミレンシスコは笑顔でそう言った。


は?マジ?

来明は突然の通告に驚きを通り越し、

ただポカンとしてしまっていた。


『おいおい。大丈夫か?

ま、とりあえずこの調子なら、

私の力はいらないな!頑張れよ!

…頑張らなくても大丈夫なくらい

すげぇ波長だけど。』


ミレンシスコは来明の肩を

強く叩き、笑みを浮かべながら言った。


『ちょちょちょ、ちょい待って!

本当ですか?!それ!』


来明は前半の適当だったミレンシスコを

思い出し、再度確認した。


『ホントだよー。じゃあなー。』


ミレンシスコはまたも適当に返事すると

来明に手を振った。


すると、来明の視界が霞んできた。


『えー!ちょっと!!

もっと安心と確信のできる

返事くださいよー!!!!』


来明は必死にミレンシスコに近づきながら

言ったが、視界が悪くなっていく。

そして、目の前が真っ暗になる直前に

ミレンシスコが言った。


『あっ。2つ、忠告。

絶え間なく愛を捧げること。

そして、強くあること。 』


その時のミレンシスコの表情は

暗くてよくわからなかったが、

今までにないほど真剣だった気がした。


『……ください。…きて!起きて!!』


シスターの呼びかけで来明は目を覚ます。


『大丈夫ですか?それにしても

長い時間、ミレンシスコ様に

祈りを捧げていましたね。

これほどまでに、崇拝してくれるお方が

いるとは。嬉しい限りです!』


シスターは心底嬉しそうだ。

その顔を見て来明も嬉しくなった。


それにしても不思議だった。

こんな事が現実にあるとは。


『はっ。今何時?!!』


来明は我にかえりシスターに聞いた。


『9時ちょうどですよ。』


シスターは優しく答えた。


『そういえば先ほどから携帯が

鳴っていましたよ。

教会という場ではマナーモードにする。

電源を切るなどの、対応をしていただけると

幸いです。』


遅刻だーー!!!

てかお母様よ!よくそんな事言えるね!!!

強引にお祈りさせたのあなただよ?!!

人の話を聞く。腕を掴む際には 力加減をするなどの

対応をしていただけると幸いです!!!!


『すいませんでした!

会社に行かないとなので失礼します!』


来明は投げやりにそう言って教会を出ると

全力ダッシュで会社へと向かった。

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