第47話 エピローグ②
「だけど、あの二人はとんでもないことを考えていた」
こっちではもう穴は開けられるだけ開けている。だが、あちらはどうか。
結論を言えば可能だった。これで土師君はあちらに戻る決意をする。
「あの子ともそれなりの付き合いだ。一人で戻って金朱は置いていくつもりだったと思うよ。でも、金朱はついて行こうとした。そればかりか、路地裏の賢者の一派を丸ごと連れて行こうとしたみたいだね」
俺の話に出てきた賢者のところの二人のことだ。
「あの爺さんのところには怪異は結構いるんだけど、人間はそう多くはいない。この国だと爺さん含めて五人くらいだろう。ついて行った二人は多分爺さんの弟子だ。かなりの痛手だろうね」
俺と社長がいなければ、この国は弟子に任せることができる。そんなことを言っていたが、その当てにしていた弟子があの二人のどちらか、あるいは両方なのか。
放浪型で場所が特定しない土師君の戻り先の穴が見つかるまで、彼らは息を殺してた。その時のために文献を集め、研究し、銀朱やクソ上司の魔法技術を観察して準備をしていた。金朱が賢者のがわに共感しても靡かなかったのは目的が違ったからだ。その間に彼らは賢者の部下に探りを入れ、同志を募っていた。
ことが露見したのは彼らが行動に入ってようやくだった。追っ手の最低限の目的は魔法使い一族の一人の軽挙妄動を取り押さえ、連れ戻すこと。土師君がそう決意したなら、彼だけあちらに戻ってもらって穴を閉鎖する。
「一族関係者の余計な思惑もいっぱいあったけどね」
目的は一致する。賢者と一時的に協力関係が築かれたのはそのためのようだ。だが、賢者はだし抜きに来た。俺と土師君が親しいことに縋って彼を説得しようというのは、彼にしては詰めが甘いとしか言えない。
「結局、賢者が一人取り戻した他はまんまと逃げられてしまった、と」
クソ上司は苦笑いした。
「あの娘、後悔するかもしれないのに、バカよね」
「うん、バカだ。絶対後悔する」
銀朱も和するが二人のニュアンスは食い違ってると俺は思った。
詰まるところ、「駆け落ち」という表現は正しかったのだ。クソ上司は多分、後悔を恐れず思い切って選択した、普通はそんなリスクは冒さないのに、と彼女の決断を評価しているんじゃないだろうか。銀朱は単に受け入れられないだけだ。
「さて、あらかた積み込んだんだが、荷物の運び先を決めなきゃいけねぇ」
社長が入ってきた。
「西と東、どっちにする? 」
あの選択、まだできるのか。
クソ上司を見ると食い入るような視線とは裏腹な言葉が出てきた。
「楯野君、強要はしないわ」
いやぁ、されてるようなもんだろこれ。
「ほら、はやく決めて。私の理性が働いているうちにさ」
その自制力には感服しておこう。急におかしくなって、小さく吹き出してしまった。
「何よ」
「伝説になっていた派手な魔女にも妙に可愛いとこがあるんだなって」
「む、後で覚えてなさいよ」
俺の選択は大体決まっていたんだが、ここでもう一度固まった。
「西に行く。召喚体での関係がクリアになったんだ。他もリセットしたい」
明らかに不満そうだがクソ上司は「わかった」と渋い顔で了承してくれた。
「少しほとぼりをさましてからになるけど、その上でお試しにお付き合い願えますか。ええと、池谷さん」
正直、クソ上司に飼われるのはまっぴらだが、そうでないなら考えてみる価値はあるんじゃないだろうか。そんな気になっていた。
ぱあっと表情を輝かせた彼女に、俺は素顔を初めて見たと思った。相変わらず派手な化粧、身なりだが、それは一種の武装だ。朴念仁の俺はようやく気づいた。
「それでいいわ」
彼女は答えた。もうクソ上司、ではなかった。
「それでお願いするわ」
物語は、ここで一度筆を置こう。この後、女装したらえらいことになった、などこの顔のせいでまた色々あったが語りたくはない。
おしまい
過疎地の異世界人 @HighTaka
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