ホワイト
「あ、俺ちょっと出てくる」
力也はそそくさ玄関に向かう。そしてすぐに人を連れて戻ってきた。
「え、なんで……」
そこに居たのは真由香だった。
「茜ごめん! 私、茜に嫉妬してた」
開口一番、真由香は深々と頭を下げてそう言った。
「真由香ちゃん、少し前にうち訪ねて来てさ。光也に『茜ってどんな人?』って」
「え」
「お前、光也と幼馴染なことずっと黙ってたんだって?」
「それは……真由香には言ったら角が立つかなって」
「なーんで角が立つの。変な気使って角立ててんの、茜よ? 茜は自分のこと滅多に話さないし、遊びに誘うのも予定を立てるのもぜーんぶ真由香ちゃん任せ。それじゃあ不安になるのも当然だろ?」
「不安?」
「私たち友達なのかなって」
ハッとした。私と同じ気持ちを、まさか真由香も抱いていたなんて。
「ったく、高一にもなって何やってんのよ。友達作りも健全に出来ないなんて。まだまだだなあ、若人よ」
「はあ? 力也とうちら、二つしか変わんないんだけど。ってか薄々気づいてはいるけど、ビーフシチューは?」
「ないよーん」
「うざっ」
力也と言い合いしていると、真由香が苦笑する。
「茜のそんな素、初めてみた。私たち……またやり直せないかな?」
「うん、私もごめん。自分から誘えなかったのは、断られたらキツイなって思ってたから。でも、それは真由香だって一緒だよね。勇気出して声掛けてくれてたんだよね。私そういうの全然わかってなかった。ごめん!」
その時、リビングの扉が開く。
「へ? なんで茜と真由香が居んの?」
「俺にラブラブチョコ渡しに来てくれたの」
「え、マジ?」
帰ってきた光也に力也が言えば、真由香と私は互いを見て笑い合う。そして声を合わせてこう言った。
「違います!」
帰り道。私は真由香とたくさん話をした。トイレでの一件は言葉端が違った勘違い。それも話し合わなければ、きっとずっと分からなかったのだろう。
真由香、改めてごめんね。
そして力也、ありがとう。
「ねえお母さん、チョコってまだ余ってる?」
「なに、作るの?」
「うん、友チョコ。作ろうかなって」
宮本茜、十六歳。私の青春はまだ、始まったばかり。
バレンタインチョコレート 千鶴 @fachizuru
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