第6話

風花の家も分からず、連絡もつかない。途中、渓から大丈夫か?と心配するメッセージが何度か届いた。本当いい奴すぎる。

日が沈み途方にくれて、結局、家に帰ってきてしまった。

部屋に入ると、樹くんがベットに寝転んで天井を見上げていた。

「やっと帰ってきた。ごめんな、今日大変だっただろう」

「樹くんは僕のヒーローだから、でも人を傷つけるのはよくない」

「俺さ、お前だったら大丈夫って思ったんだ」

「どういうこと?」

「ペンあるか」

起き上がって、文字を綴り始めた。音を立ててノート破ると、僕の目を真剣に見据えた。

「本当にお前に頼んでよかったよ。今から、この手紙届けてくれるか?」

「今から?」

「そう、風花んとこいってきてくれ」

僕の返事を聞かずにスマホの地図を開いて此処ね。と道案内を始めた。

この手紙を届けることが最後だから、頼むと両手を合わせて拝まれ、断れなかった。いつもの笑顔で僕の頭をわしゃわしゃ撫でる。ほんとずるいな、樹くんは。

別れ際、「今ならバレーもできるだろ。やっぱり部活入ってくんねーか。お前がいないと俺だめなんだ」耳元で囁くと、僕の背中をばしっと叩き、任せたと声を張った。

樹くんには僕の全てがお見通しだったのだと思う。今まで欠如していた熱意が今ならあるだろ、そう言っているように聞こえた。


夜の九時、風花の家の前まで来たのはいいが、こんな時間にインターホンを押すのに気が引けていた。

ポケットからスマホを取り出し、ダメ元で風花に電話をかける。

すぐ近くで鳴り響く着信音。鳴る方を見ると、風花が立っていた。

「何してんの」

「それはこっちの台詞だ。こんな遅くまで何してたんだよ」

「そんなの私の勝手でしょ。彼氏でもないくせに彼氏面しないでよ」

「これ、樹くんから預かった。風花宛」

僕から乱暴に手紙を取り上げると、読まずに握りしめてぐちゃぐちゃ破り捨てた。

「風花、もう終わりにしないか」

「はあ。今更何言ってんの。本当意気地無し。どいつもこいつも本当むかつく」

きっとこの言葉は嘘じゃない。腹の底から出た風花の本音だ。だったら、僕も正直にぶつけてやる。拳に力を込めた。

「そうじゃない。僕じゃだめかな。嘘じゃなくて本当の彼女になってくれないか?」

風花の戸惑った表情は刹那に、僕の胸に飛び込んできた。僕は強く風花を抱き締める。気休めでもいい、時間がかかったっていい。

風花を守りたいって思ったんだ。風花を好きだって気がついたんだ。僕を好きになってもらえるように頑張るって決めたんだ。

「本当、馬鹿。馬鹿。このお人好し、、、遅い、遅いよ、優希」

気が済むまで叫んで、泣いたらいい。全部僕が受け止めてあげるから。嘘で塗り固めた鎧が取れていく。

泣きじゃくりながら「ありがとう」と微かに呟いたのが聞こえた。この言葉もきっと嘘じゃない。



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嘘から始まる愛言葉 鈴トラ @menzukuri

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