第5話
デート当日は、よく晴れていた。寝不足の僕には眩し過ぎるぐらいだった。
風花はいつもより口数が少なくて、元気がなく見えた。それでも嘘で塗り固めた笑顔を崩すことはなかった。
流行りの恋愛ものの映画を見て、写真映えするのカフェに入る。
話しかけても風花は上の空。それも仕方ない。
当然のように、樹くんと藤堂さんはずっと手を繋いでいた。お揃いのネックレスが妙に輝いて見えた。
写真を撮ろうと、テーブルに置いた樹くんのスマホの待受画面は、二人のツーショット写真で、ストラップもお揃いだった。
樹くんの肩にはさりげなく藤堂さんのショルダーバッグが提げていて、カップルとはこういうものだと見せつけられている感じがした。
隣で小さくなっている風花が僕の手を絡ませて恋人繋ぎになった。合言葉だ。分かった、帰ろう風花。もう辛いよな。
「樹くん、藤堂さんごめん。映画館にスマホ忘れたみたい。ちょっと取ってくる」
勢いよく立ち上がり、風花の手をしっかり握りしめた。
「じゃあ、また明日」
「え?明日?」
苦し紛れの言い訳、きっと樹くんは気づいているだろうな。でも、今は風花のことが大事なんだ。
二人で決めた、合言葉。実行しなくてどうする。そう、これは僕と風花しか知らないこと、そして僕にしか出来ないこと。風花のために一刻も早くこの場を離れたかった。
「とにかく座ろう」
樹くんと藤堂さんと別れて、駅の隅のベンチに腰掛けた。
「大丈夫?風花」
「こっち見ないで」
僕の胸に顔を埋めて啜り泣く。そうだよな。風花は樹くんが好きなんだもんな。見てて辛くないわけがない。
強がりなんて所詮、綺麗事だ。素直になれればどんなに楽だろうか。風花の頭を撫でて彼氏面をした。自然に体が動いたんだ、強く抱きしめたい。ずっとこのままでいたい。ずっと風花が僕の、ああ。これって恋?
そうだ、僕は風花のことがどうしようもないぐらい好きなんだ。意識し始めると、心臓が激しく暴れだした。
どれくらい時間が経っただろう。そして突然立ち上がり早足で歩きだす風花。
「ちょっと待ってよ」
「着いてこないで」
俯いたまま、絞り出した声で言った。そして人混みの中、走り出した風花の背中を見失った。
風花の隙間を埋めるのは、僕じゃダメなんだ。情けない、風花が強がってることなんて前から知ってたはずなのに、僕は馬鹿野郎だ。泣いている女子を慰められなくて、守ってやれなくて、挙げ句の果てに見失った。
そして横断歩道で立ち尽くす。見上げた空は醜いほど晴れていた。綿飴のような雲が追いかけっこをしているように流れていく。
「優希?危ない」
横断歩道で立ち尽くす僕を偶然居合わせた渓が、僕の手を引いた。
「何してんだよ、もう赤だぞ」
今でも泣き出しそうな僕は俯いた。
「俺、飯まだなんだよ。付き合ってくれ」
半ば強引に手を引かれ、ファーストフード店に入った。
「ほらほら、話してごらん」
兄のような口調で渓がドリンクを奢ってくれた。
今日の出来事、樹くんとの関係、二股がばれそうになって風花の彼氏の振りをしていた経緯を話した。渓は黙って聞いてくれた。
「それって、優希が本気になっちゃったってこと?」
「明日、樹くんに謝って終わりにしようと思う」
「謝る必要なくない。風花ちゃんのこと好きなんだろう。だったら好きでいいじゃん。本当の恋にしちゃえばいい」
「僕なんかじゃ、ダメだと思う」
「そういうとこだよ、優希。まあ、寝癖大爆発させて学校きちゃうくらいだから、気にしてないのかもしれないけど、優希お前、モテてるぞ」
「そんなことないよ、モテたことなんかないし。女心は分からないし、ダメダメだよ」
「優希が彼女と帰るようになってから、女子たちが俺に聞いてきたぜ。あの二人は付き合ってるんですか?って。自信持てよー。優希かっこいいんだから」
「どうゆうこと、、、」
寝耳に水だった。渓は慰めて言ってくれてるに違わない。こういう優しいやつなんだ。だって僕がモテるわけがないんだから。
「ほら、彼女に連絡してみなよ」
「ありがとう、渓。」
「後でちゃんと俺にも紹介してくれよ」
「渓。ありがとう」
「おう」
ガッツポーズを掲げて、背中を押してくれる。この追い風が止まないうちに走らないと、僕は止まってしまいそうだ。
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