番外編1
俺――
時は遡り、一時間前。
電話でその子と喋っていた。
「結婚したら、私を幸せにしてくれるよね?」
「ああ」
「今日、ファミレスで一緒に食べない?」
「いいよ」
「じゃあ、そういう事だから、今日の12:00に××駅集合ね」
この電話で話してる子は同じ塾に通う俺の婚約者の
勿論、この事は凛花には内緒にしている。だが、いずれバレる事だろう。その覚悟は出来ていた。鋭い凛花の事だ、気づかない筈がない。
「誰と話してるの?」
「学校の友達」
「ふーん」
凛花は頬杖をつく。何か勘づいたような表情を浮かべていた。
「じゃあ、友達と遊びに行ってくるから!」
「行ってらー」
凛花に手を振られ、駅へと着いた。
やっぱり、あゆは俺より早く集合場所に着いていた。ほんと、完璧な婚約者だ。
ファミレスの中へと入る。
店員に案内された席に座った。
「ふー」
安心からか一息吐く。
暑い中、涼しい店内に入ると全身の力が抜け、天国のような幸福感に包まれる。
「外暑いから、ここは快適だよー」
「それな」
「何頼む?」
そうあゆは問い、メニュー表を掲げる。
「スパゲッティーでいいや」
「じゃあ、私もそれにするー」
二人談笑してスパゲッティーを食べた。同じ物を食べて、楽しくお喋りが出来るなんて、結婚したら最高じゃないか。待ち遠しい未来に心踊らせる。
「友樹に、新しい妹が出来たって噂を耳にしたんだけど、どんな子なの?」
「それは……妹なんて出来てないよ。その噂は嘘だ。でも、もしいるとしたら……優しくて可愛い子だよ」
俺は嘘を吐いた。妹がいるって知られたら、妹に情報が伝わって、きっと婚約が破綻する。
彼女がいるってだけで、嫌な目を向けられるのに婚約者だなんて、全力で邪魔してくるだろう。それに婚約の話はあゆからだった。俺はあまり乗り気じゃ無かったが、遊び半分の軽いプロポーズがここまで発展してしまったのだ。最初は乗り気じゃなかったけど、気づいたら俺もあゆのことが好きになっていた。
「そうなんだ」
俺とあゆは妙な視線を感じた。
誰かがこちらを見ている気がする。
「ねえ、なんか誰かに見られてない? 気のせい? 視線に殺意が籠ってる気がするんだけど……」
「だよな。俺もさっきから見られてる気がする」
一方、その頃の凛花は――。
「ねえ、暑い中尾行してやってるのに、なんかムカつくんだけど……」
「何あの女。友達って言ったじゃない。この嘘つき」
凛花は店内に入る。
「はーここは幸せ。でも、あのクソ女がいるから幸せじゃない」
「どう殺そうかしら。生きたまま焼く? 刺殺? 毒殺? 首切り? 一番苦しいのがいいわね」
「友くんは私のものだもん。他の女に渡すもんか。結婚相手は私しかいないんだから!!」
――
「細かい事は気にせずに、婚約の話を進めよっか」
「うん」
「再来年、高校卒業を気に結婚しよう。妹ちゃんには申し訳ないけど、私と一緒に同棲しよう。それでいい?」
だから、妹なんていないって。
現実から目を背けた。
「ああ。最高の未来を一緒に歩もう。俺もあゆと結婚したい――」
「何? 結婚だって? そんなの私が許さない」
冷たい凍てつくような眼差しで俺とあゆを見る凛花。
これは修羅場だ、と本能が察した。
ここは素直に話そう。俺は何としてでもあゆと結婚したい。
「凛花、いたのかよ」
「凛花、この子が俺の婚約者の新沢あゆだ。仲良くしてやってくれ」
「この子が義妹の子? 可愛い子じゃん。凛花ちゃんって言うんだ。よろしくね」
見た目は可愛くても中身は全く可愛くないんだよ。
「容易く名前で呼ばないで。キモい」
そう、凛花は俺の周りの女には凍えそうな程、冷たい。俺の周りに女性を寄せ付けないように仕向けている。
「あのーごめんね。貴方より私を友樹は選んだの。結婚する事に決まったの」
「そんなの、私が許さない。私は友くんの元カノであり、今カノであり、これから婚約者にもなるから。邪魔しないで。邪魔したら身体を切り刻むわよ」
「えー怖い。凛花ちゃん、怖い」
あゆは俺に泣きながら抱きついてきた。あゆの気持ちも分かる。それより元カノであり、今カノであるってどういう事?
「こんな子が義妹なの?」
「ああ、残念ながらそうだ」
俺は認めた。
そしてあゆの腹を凛花は蹴った。
「何なの? こんな子って失礼じゃない?」
「ごめんね、痛い……」
凛花の暴力を俺は制止した。
「やめろ、凛花。ここは店内だ」
「そうね、婚約破棄してくれれば蹴るのやめてあげるわ? それに私に内緒で婚約者作るなんて酷すぎない?」
「それはごめん。でも教えたら、お前邪魔するだろ」
「ええ。邪魔する」
その思考をどうにかしてくれればいいのに。今更、改善出来ないか。
「あゆ、やっぱり俺との婚約は無しにしてくれ。これ以上、あゆが蹴られてるのを見てられない。ごめん」
「うん、残念だけど、いいよ。妹ちゃんとお幸せに」
こんな子が義妹で可哀想に、という目を向けられた気がした。
はぁー何でこうも邪魔されるんだろう。せっかく、良い婚約者が出来たというのに。
あゆは
「良かったね、邪魔者がいなくなって。これで私と結婚出来るよ!」
「これで良かったのかよ……」
凛花はぱあぁ、と晴れたような微笑を湛えて、くるりと回った。本当にこいつには困らされる。その笑顔が本心だと思うと怖い。罪悪感など一欠片も見受けられなかった。
「婚約者がいなくなっても凛花とは結婚しないからな」
「えーなんでー友くんには私しかいないじゃん」
凛花と俺は対照的な顔をして、手を繋いで帰った。
自室に戻ると俺は泣いた。
(いつになったら、彼女出来るんだよぉぉぉー!)
別れたヤンデレ元カノが義妹として帰ってきました 友宮 雲架 @sss_469m
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