番外編1


 俺――篠山ささやま友樹ともきはヤンデレ元カノの星野ほしの凛花りんかと今でも同居しているが、今日は別の子とファミレスに来ていた。


 時は遡り、一時間前。

 電話でその子と喋っていた。


「結婚したら、私を幸せにしてくれるよね?」


「ああ」


「今日、ファミレスで一緒に食べない?」


「いいよ」


「じゃあ、そういう事だから、今日の12:00に××駅集合ね」


 この電話で話してる子は同じ塾に通う俺の婚約者の新沢にいざわあゆだ。学年は一緒で黒髪のショートヘアーの聞き分けの良い子で、何より愛が重くない。だから、リラックスして接する事が出来る。約束事は守るし、きっと集合時間の5分前には着いている事だろう。そして、俺にだけ優しい。笑顔が可愛くて、最高のパートナーだった。


 勿論、この事は凛花には内緒にしている。だが、いずれバレる事だろう。その覚悟は出来ていた。鋭い凛花の事だ、気づかない筈がない。


「誰と話してるの?」


「学校の友達」


「ふーん」


 凛花は頬杖をつく。何か勘づいたような表情を浮かべていた。


「じゃあ、友達と遊びに行ってくるから!」


「行ってらー」


 凛花に手を振られ、駅へと着いた。

 やっぱり、あゆは俺より早く集合場所に着いていた。ほんと、完璧な婚約者だ。


 ファミレスの中へと入る。


 店員に案内された席に座った。


「ふー」


 安心からか一息吐く。

 暑い中、涼しい店内に入ると全身の力が抜け、天国のような幸福感に包まれる。


「外暑いから、ここは快適だよー」


「それな」


「何頼む?」


 そうあゆは問い、メニュー表を掲げる。


「スパゲッティーでいいや」


「じゃあ、私もそれにするー」


 二人談笑してスパゲッティーを食べた。同じ物を食べて、楽しくお喋りが出来るなんて、結婚したら最高じゃないか。待ち遠しい未来に心踊らせる。


「友樹に、新しい妹が出来たって噂を耳にしたんだけど、どんな子なの?」


「それは……妹なんて出来てないよ。その噂は嘘だ。でも、もしいるとしたら……優しくて可愛い子だよ」


 俺は嘘を吐いた。妹がいるって知られたら、妹に情報が伝わって、きっと婚約が破綻する。

 彼女がいるってだけで、嫌な目を向けられるのに婚約者だなんて、全力で邪魔してくるだろう。それに婚約の話はあゆからだった。俺はあまり乗り気じゃ無かったが、遊び半分の軽いプロポーズがここまで発展してしまったのだ。最初は乗り気じゃなかったけど、気づいたら俺もあゆのことが好きになっていた。


「そうなんだ」


 俺とあゆは妙な視線を感じた。

 誰かがこちらを見ている気がする。


「ねえ、なんか誰かに見られてない? 気のせい? 視線に殺意が籠ってる気がするんだけど……」


「だよな。俺もさっきから見られてる気がする」



 一方、その頃の凛花は――。


「ねえ、暑い中尾行してやってるのに、なんかムカつくんだけど……」

「何あの女。友達って言ったじゃない。この嘘つき」


 凛花は店内に入る。


「はーここは幸せ。でも、あのクソ女がいるから幸せじゃない」

「どう殺そうかしら。生きたまま焼く? 刺殺? 毒殺? 首切り? 一番苦しいのがいいわね」

「友くんは私のものだもん。他の女に渡すもんか。結婚相手は私しかいないんだから!!」


 ――


「細かい事は気にせずに、婚約の話を進めよっか」


「うん」


「再来年、高校卒業を気に結婚しよう。妹ちゃんには申し訳ないけど、私と一緒に同棲しよう。それでいい?」


 だから、妹なんていないって。

 現実から目を背けた。


「ああ。最高の未来を一緒に歩もう。俺もあゆと結婚したい――」


「何? 結婚だって? そんなの私が許さない」


 冷たい凍てつくような眼差しで俺とあゆを見る凛花。

 これは修羅場だ、と本能が察した。

 ここは素直に話そう。俺は何としてでもあゆと結婚したい。


「凛花、いたのかよ」

「凛花、この子が俺の婚約者の新沢あゆだ。仲良くしてやってくれ」


「この子が義妹の子? 可愛い子じゃん。凛花ちゃんって言うんだ。よろしくね」


 見た目は可愛くても中身は全く可愛くないんだよ。


「容易く名前で呼ばないで。キモい」


 そう、凛花は俺の周りの女には凍えそうな程、冷たい。俺の周りに女性を寄せ付けないように仕向けている。


「あのーごめんね。貴方より私を友樹は選んだの。結婚する事に決まったの」


「そんなの、私が許さない。私は友くんの元カノであり、今カノであり、これから婚約者にもなるから。邪魔しないで。邪魔したら身体を切り刻むわよ」


「えー怖い。凛花ちゃん、怖い」


 あゆは俺に泣きながら抱きついてきた。あゆの気持ちも分かる。それより元カノであり、今カノであるってどういう事?


「こんな子が義妹なの?」


「ああ、残念ながらそうだ」


 俺は認めた。

 そしてあゆの腹を凛花は蹴った。


「何なの? こんな子って失礼じゃない?」


「ごめんね、痛い……」


 凛花の暴力を俺は制止した。


「やめろ、凛花。ここは店内だ」


「そうね、婚約破棄してくれれば蹴るのやめてあげるわ? それに私に内緒で婚約者作るなんて酷すぎない?」


「それはごめん。でも教えたら、お前邪魔するだろ」


「ええ。邪魔する」


 その思考をどうにかしてくれればいいのに。今更、改善出来ないか。


「あゆ、やっぱり俺との婚約は無しにしてくれ。これ以上、あゆが蹴られてるのを見てられない。ごめん」


「うん、残念だけど、いいよ。妹ちゃんとお幸せに」


 こんな子が義妹で可哀想に、という目を向けられた気がした。


 はぁー何でこうも邪魔されるんだろう。せっかく、良い婚約者が出来たというのに。


 あゆはやつれたようなしょんぼりとした足取りで店から出ていった。涙が溢れたのは後ろ姿からでも分かった。


「良かったね、邪魔者がいなくなって。これで私と結婚出来るよ!」


「これで良かったのかよ……」


 凛花はぱあぁ、と晴れたような微笑を湛えて、くるりと回った。本当にこいつには困らされる。その笑顔が本心だと思うと怖い。罪悪感など一欠片も見受けられなかった。


「婚約者がいなくなっても凛花とは結婚しないからな」


「えーなんでー友くんには私しかいないじゃん」


 凛花と俺は対照的な顔をして、手を繋いで帰った。


 自室に戻ると俺は泣いた。


(いつになったら、彼女出来るんだよぉぉぉー!)




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別れたヤンデレ元カノが義妹として帰ってきました 友宮 雲架 @sss_469m

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